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転生したようなので好き放題やります。〜創造神とかいうチートを授かりました〜  作者: Rairo
第5章 盲信の代償

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第46話_大義が、静かに消える場所

平原の空気が、変わった。


剣や魔法の音は、少しずつ遠のいていく。

倒れた兵士たちは地に伏したまま、もはや立ち上がろうともしない。


五万。

その数が持っていたはずの「圧」は、もうどこにもなかった。


アーシャは、一歩ずつ前に進んだ。


敵陣の中央。

教皇と聖女たちの背後から、兵士たちの視線が集まる。

責める目も、縋る目も、すでに混じり合っている。


その途中で――彼女は、視線を感じた。


平原の奥。

戦場全体を俯瞰する位置。


黒い外套。

銀の髪。

王冠。


アルト。


彼は、相変わらず前線に出ていなかった。

剣も振るわず、魔法も放たず、

ただ、この戦争の「行き先」を見届ける者のように立っている。


アーシャは、迷わずそちらへ歩いた。


兵士たちの間を抜けるとき、

誰も止めようとしなかった。

止める力も、理由も、もう残っていなかったからだ。


――――

アーシャはひたすら歩いた。

負傷した兵たちを横目に心を痛ませながら。それでも前へ進む。


そして――数歩の距離を隔て、二人は向き合う。


戦場だというのに、不思議なほど静かだった。


「……また、お会いしましたね」


アーシャが、先に口を開く。


「うん」


アルトは短く頷いた。


「無事そうで何より」


その声は、いつも通り軽い。

だが、視線は戦場全体を見渡していた。


「どうして、私がここに来たか……分かっていますよね」


アーシャの問いに、アルトは肩をすくめる。


「うん。止めに来たんでしょ」


「はい」


即答だった。


「この戦争には、もう意味がありません」


アーシャは、はっきりと言った。


「最初から、神の名を借りただけの争いでした」

「そして今は……勝ち負けですら、問題ではない」


アルトは、黙って聞いている。


「見てください」


アーシャは、倒れた兵士たちを示した。


「誰も、死んでいません」

「それでも、戦う意思は完全に折れています」


一拍置いて、続ける。


「これは……制圧です」

「正義でも、信仰でもありません」


その言葉に、アルトの目が細くなった。


「教皇様は、“異端を討つ”と言いました」

「でも、討たれるべき異端など、どこにもなかった」


アーシャは胸に手を当てる。


「ルミナス王国は、神を侮辱していません」

「人を恐怖で縛らず、正しく導き、そして守っている」


「私は、この目で見ました」

「街の人々の笑顔も、兵士たちを殺さないこの戦い方も」


そして、まっすぐにアルトを見る。


「――この戦争の大義は、もう消えています」


戦場のざわめきが、さらに小さくなる。

近くにいた兵士たちが、無意識に耳を傾けていた。


アルトは、しばらく沈黙したあと、口を開いた。


「君はさ」


少しだけ、困ったように笑う。


「ずいぶん、重たい役目を背負ってるんだね」


「聖女ですから」


アーシャは、微笑んだ。


「神の意図が“人を豊かにすること”なら」

「争いを止めるのも、私の役目です」


アルトは、戦場を一瞥する。


倒れた五万。

立ったままの一万。


「……もう、十分だね」


ぽつりと呟いたその言葉に、

近くの兵士たちが息を呑んだ。


「アーシャにも会えたし、それじゃあこれで終わりにしようか」


そしてアルトは、アーシャに向き直る。


「アーシャさ……うちに来ない?」


アーシャが、驚いたように顔を上げる。


アルトは微笑んで、続けた。


「アーシャみたいな綺麗な心の持ち主はそういない」

「まだ先だろうけど、俺は世界から戦争を無くしたいと思ってるんだよね」


この戦場には似合わない言葉だが、アルトは続ける。


「それにはさ、こんなの全く比にならない程の大変な道のりがきっとある……」


アルトは真剣な表情でアーシャの目を見る。


「もし、同じ方向を見てくれるのなら――

俺はその道をアーシャと一緒に歩けたら嬉しいな」


アーシャは一瞬、目を伏せ――


聖教国の方角を見る。

それでも、覚悟を決めて答える。


「……ありがとうございます」


アーシャは穏やかに微笑んだ。

その目には、綺麗な涙が浮かんでいる。


「こんな私で良ければ、ぜひお供させてください!」


深く一礼する。


――――

アーシャは顔を上げる。


「ただ、その前に……一つだけ、やり残したことがあります」


アルトは、何も言わずに彼女を見る。


「聖教国の兵士たちを、これ以上無駄に傷つけないために」

「そして、神の意図を……私なりに示すために」


アーシャは、静かに踵を返した。


背中越しに、振り返る。


「アルト様」


その声には、もう迷いはなかった。


「見ていてくださいね」


彼女は、教国軍の中心へと歩き出す。


杖を握り、

空を仰ぎ、

戦場のすべてを包み込む覚悟を胸に。


――奇跡は、これからだ。


そしてそれは、

神の名を借りた戦争に、

完全な終止符を打つものになる。

※ここまで読んでくださってありがとうございます。

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