第44話_開戦――神の軍勢が、砕かれる音
合図は、静かだった。
角笛も、怒号もない。
ただ一人、教皇が杖を掲げる。
「――放て」
次の瞬間、空が裂けた。
無数の光弾、炎槍、雷撃。
五万の軍勢が編み上げた魔法陣から、
殺意だけを抽出したような魔力が、平原へと降り注ぐ。
大地が抉れ、空気が焼け、衝撃波が何層にも重なる。
「神の裁きを示せぇぇぇ!」
教国軍の咆哮。
それに対し――
ルミナス軍は、動かない。
盾も構えず、詠唱もせず、
ただ、立っている。
魔法が直撃した。
……はずだった。
轟音が鳴り止んだ後、
そこにあったのは――
無傷の一万。
「……は?」
誰かの喉から、間の抜けた音が漏れる。
次の瞬間、地面が爆ぜた。
「前進」
短い号令。
それだけで、世界が反転した。
1万の軍勢が一斉に前に進む。
その中でもいち早く、前に出る将がいた。
拳一つ。
それだけで、
魔法陣ごと神官隊が吹き飛ぶ。
「ははっ、いいねぇ!」
詠唱は途中で途切れ、
魔力が暴走し、術者自身を弾き飛ばす。
「こんなもんじゃないだろ、戦いはここからだぜ?」
戦闘を心から楽しんでいる。
その笑顔は、教国軍にとって記憶から消えない程、恐ろしいものに映る。
「ひっ……!」
後列にいた兵士たちが、後ずさる。
その時、離れたところからも爆音が聞こえる。
「他も派手にやってるなぁ」
他の将たちも各々の持ち場で、教国軍を崩壊させていく。
あっという間に教国軍の前列が崩れた。
「ぐっ――!」
衝撃。
魔法によって盾ごと吹き飛ばされ、
身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
悲鳴が上がる。
だが――死なない。
「な、何が起きて……」
立ち上がろうとした瞬間、
膝が言うことをきかない。
動くだけでも最低限は必要な魔力回路を、正確に断ち切られている。
次。
横薙ぎの衝撃波。
十人、二十人単位で兵が倒れる。
意識が飛ぶ。
呼吸が乱れる。
身体が、動かない。
「――なん、だよこれ…」
数で押すはずの五万が、
面として制圧されていく。
一万対五万。
だが――
戦いになっていなかった。
「なぜだ……倒されているはずなのになぜ死んでいない……!」
教皇の声が震える。
倒れている。
無数に倒れている。
だが、死体がない。
それが、何よりも恐ろしかった。
そして――
兵士の一人が空を見上げる。
「神様……」
――しかしその声は、神には届くことはない。
※ここまで読んでくださってありがとうございます。
もし続きが気になりましたら、
ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです!




