第4話_禁域の森の王と、精霊たちの裏切り
――お願いがあります。
静まり返った禁域の森で、彼女はそう切り出した。
澄んだ声なのに、決意だけは重いように感じた。
「この森の……王を、倒してください」
一瞬、風が止まる。
冗談でも試しでもないと、彼女の目が告げていた。
「王は、この森を焼き払おうとしています」
精霊たちは森と大地に宿る存在だ。
焼く? 壊す?
それは、自分たちの命を否定する行為に等しい。
「王はこの禁域の森を足がかりに、領土を広げるつもりです。
各地へ攻め入り、すべてを支配するために」
俺は黙って聞いた。
精霊族が“王に従っている”と聞いていたからだ。
「……なぜ、今までそんな王に従っていたんだ?」
問いかけに、彼女は一瞬だけ視線を伏せた。
「昔、私たち精霊族は居場所を失っていました。
そんな時にこの森に住むことを許してくれたのが、王だったのです」
「私たちは王と約束しました。
住居を与えてもらう代わりにこの森へ入ってくる外敵を退ける……」
なるほど。
恩があり、利害も一致していた。
ですが、と彼女は拳を握る。
「王はこの森で配下を増やして力を蓄え…森は“資源”に、大地は“踏み台”に。」
精霊たちが賛成できるはずがない。
「……なら、お前たちだけで反旗を翻せばいい」
そう言うと、彼女は首を横に振った。
「私たちだけでは無理なのです…」
続けて彼女は悔しそうな表情で話しだした。
「王の背後には、二人の領主がいます。
北と西を治める者たち……彼らもまた、王の野望に賛同しています」
三対一。
精霊族だけでは、勝ち目は薄い……か。
「だから……あなたが必要なのです」
彼女の視線が、真っ直ぐ俺を射抜いた。
「あなたの力なら、王を討てるかもしれない!」
買われたものだ。
だが、嫌な気はしない。
「王が動き出すまで、どれくらいある?」
「……三日です」
短い。
猶予は、ほとんどない。
俺は立ち上がり、森を見渡した。
静かで、美しく、守る価値のある場所だ。
「分かった」
即答だった。
「王を倒す。ついでに、その領主二人も叩く」
少女の目が大きく見開かれる。
「大丈夫。俺が動く以上、失敗は無いよ」
「……はい」
「でもこういう頼みは、それなりの覚悟ってものが必要だろ?」
精霊王は一瞬も躊躇わず、深く頭を下げた。
「精霊族一同、あなたに従います」
理解者がいる。
信じてくれる存在がいる。
それだけで、戦う理由には十分だ。
「まぁ大船に乗った気でいなよ」
俺は小さな笑みを浮かべ歩き出す。
目的地は、この森のさらに奥……王のいるところだ。
「主様、私が案内しますよ!」
「それにまずは…私たち精霊族の街に来てください!」
精霊王は希望が見えたことで、かなりご機嫌のようだ。
(てかキャラ変わりすぎだろっ、最初「我」とか言ってなかったっけ?)
(まぁでもこっちの方が彼女の素っぽいし、良いんだけどさ)
「でも名前が無いのも不便だよな」
彼女は目を輝かせて、上目遣いで俺のことを見ている。
「主様!私に名前をください!」
もの凄い食いつきようで正直びっくりした。
「良いのか?俺が決めても」
「えぇ、もちろん!主様が良いのです」
こんなの俺じゃなきゃ惚れられてるんじゃないかと勘違いしてしまうだろう。
(だって――少し忘れかけてたけど俺見た目は赤ん坊だもんな、
こんなの惚れようがないだろ――)




