第39話_もちろん、とことん追い詰めますよ。
王城の空気は、重かった。
誰も言葉を発さない。
誰も、軽々しく息もできない。
玉座の間に並ぶのは、
商業国家ハルディアの王と重臣たち。
そして、ルミナス王国の王――アルト。
その前に立たされているのは、
グラント商会会頭ガルヴィスと、副会頭レイヴン。
「……では」
アルトが、軽く手を叩いた。
「続き、いこうか」
その声は相変わらず軽い。
だが、その軽さが、この場では異様だった。
「“誰が命じたのか”」
「それを、今からちゃんと見せるね」
ガルヴィスは、微動だにしない。
老獪な商人特有の、
“証拠が出るまでは負けていない”という顔だ。
「我々は、すでに説明しました」
「商会としての関与は――」
「うん、知ってる」
アルトは遮る。
「だから“説明”じゃなくて、“確認”だって」
クロウが一歩前に出た。
その手には、小さな魔導具。
「これは?」
ハルディア王が問う。
「映像記録用の媒体です」
クロウは淡々と答える。
「ルミナスダンジョン管理用に用意されたものですが……
今回は、別の用途で使います」
ガルヴィスの視線が、ほんの僅かに動いた。
アルトは気づいたが、何も言わない。
「再生」
クロウが短く告げる。
次の瞬間。
宙に、淡い光の幕が広がった。
映し出されたのは、
どこかの応接室。
豪奢ではないが、無駄のない造り。
そして――
『噂はもういい。効かない』
『なら、事故を作れ』
聞き覚えのある声。
レイヴンだった。
ざわり、と場が揺れる。
映像は続く。
『ダンジョン内だ』
『死人が出れば、管理責任になる』
『証言は金で用意しろ』
その向かいに座る人物が、はっきりと映る。
グラント商会会頭、ガルヴィス。
『いや』
『まだだ』
低く、確信に満ちた声。
『これでも動かないなら――奪う』
そこで映像は止まった。
静寂。
あまりにも、完全な静寂。
言い逃れの余地は、
一切なかった。
「……っ」
レイヴンが、初めて言葉を失う。
ガルヴィスは――
何も言わない。
否定も、抗議も、怒りもない。
ただ、理解していた。
(ここまで、か)
アルトは、そんな彼を見て首を傾げる。
「思ったより、綺麗に撮れてたね」
「音声も明瞭だし」
軽い。
あまりにも軽い。
ハルディア王が、ゆっくりと立ち上がった。
「……説明を、求める」
その声は、震えていない。
怒りすら、通り越していた。
「これは、事実か」
ガルヴィスは、ようやく口を開いた。
「……商いとは、そういうものです」
開き直りでも、強がりでもない。
ただの本音だった。
「利益のために動く」
「それの、何が悪い」
その瞬間。
空気が、完全に冷えた。
「悪いかどうかは、簡単だよ」
アルトが言った。
「君たちは、“事故”を作ろうとした」
「無関係な人間まで巻き込むつもりだった」
一拍。
「それは、商いじゃない」
アルトは、真っ直ぐに言う。
「金で権力を振り回す暴挙だ」
クロウが続ける。
「ハルディア王国法」
「冒険者ギルド規約」
「国際交易協定」
「すべてに違反しています」
ハルディア王は、深く息を吐いた。
「……グラント商会会頭ガルヴィス」
「及び、副会頭レイヴン」
その声は、裁定だった。
「本日をもって、
商会の全権限を凍結し、財産を没収とする。
そして――我が国から永久追放とする。」
重臣たちが、一斉に動く。
「冒険者ギルド上層についても、徹底調査を行うように」
ガルヴィスは、何も言わなかった。
金で築いた城が、
音もなく崩れていくのを、
ただ受け入れていた。
アルトは、その様子を見て満足そうに頷く。
「うん」
「これで一件落着だね」
ハルディア王が、アルトを見る。
「……ルミナスの王」
「なに?」
「貴国は、最初からここまで見ていたのか」
アルトは、少し考えてから答えた。
「うん、そうだよ」
「金で動く相手は、必ず一線を越える」
「越えた瞬間を、
逃さないように準備をしてただけ」
それだけ。
戦争でもない。
脅迫でもない。
ただ、
“相手が自分で踏み抜くのを待った”だけ。
アルトは、いつもの調子で手を振った。
「じゃ、あとはそっちでよろしく」
「ルミナスは、今まで通りやるからさ」
去り際に、ふと足を止める。
「――ああ」
振り返って、一言。
「次に手を出すなら、
もっと上手くやってね」
それは忠告でも、嘲笑でもない。
事実だった。
こうして。
金で作られた嘘は、
すべて表に引きずり出され、
光の下で、静かに終わった。
ルミナス王国は、揺れなかった。
そして世界は、理解し始める。
――この国に、
“裏から崩す”という選択肢も通用しない、と。
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