第37話_これは誰の仕業なんでしょうかねぇ?
冒険者ギルドから出された依頼は、珍しく合同だった。
目的は、ルミナスダンジョン中層の踏破調査。
難度調整と情報共有を目的に、三つの冒険者パーティが同時に入る。
「珍しいな、合同って」
「安全確認も兼ねて、ってやつだろ」
そんな軽い会話を交わしながら、三組はダンジョンへ足を踏み入れた。
――表向きは、ただの調査依頼。
だが、その中の一組だけが、目的を違えていた。
(この辺りでいいな)
二人組の男は、周囲を確認して足を止める。
革袋から取り出したのは、薄く刻印の施された石板。
「合図を待つ必要はない」
「ここで呼ぶ」
石板を地面に置き、魔力を流す。
召喚陣。
商会から渡されたものだ。
――Aランク魔物を呼び出し、
他の冒険者パーティを襲わせる。
事故。
ダンジョン内での不幸な遭遇。
管理が行き届かなかった結果。
そういう筋書きだった。
「……来い」
男が低く呟いた、その瞬間。
何も起きなかった。
召喚陣は淡く光ったまま、沈黙している。
魔力は吸われているのに、反応が返ってこない。
「……おい」
もう一人が焦った声を出す。
「おかしいぞ。魔力は行ってる」
もう一度、強く流す。
それでも――
空気は揺れない。
気配も現れない。
(召喚、失敗?)
その考えが浮かんだ瞬間。
「失敗ではありません」
静かな声が、背後から落ちた。
二人が振り向く。
そこに立っていたのは、黒を基調とした服の男。
派手さはない。
だが、その場の空気を完全に支配する存在感。
クロウだった。
「このダンジョンでは、
管理者の許可なく外部魔物を召喚することはできません」
「……な、なんだお前は」
「ルミナス王国、ダンジョン管理責任者です」
淡々とした自己紹介。
だが、それだけで十分だった。
クロウの視線が、足元の召喚陣に落ちる。
「外部からの召喚魔道具。
ギルド依頼内容と明確に矛盾していますね」
「ち、違う! これは――」
「言い訳は後で結構です」
クロウは懐から書類を一枚取り出した。
「あなた方が、
事前に商会関係者と接触していた記録」
「召喚陣の受け渡しが行われた事実」
「そして、この依頼に“偶然”参加した経緯」
淡々と読み上げる。
「十分です」
「――規約違反、及び重大な安全妨害行為」
二人の顔から、血の気が引いた。
「お前ら……最初から知って――」
「知ってはいません」
クロウは首を横に振る。
「想定していただけです」
その言葉が、重く落ちた。
「よって」
クロウは一歩前に出る。
「この場で身柄を確保します」
「抵抗は推奨しません」
二人は動けなかった。
召喚は失敗し、
逃げ道もない。
遠くで、他の二パーティの冒険者たちが異変に気づき、立ち止まる。
「……何があった?」
「事故、じゃなさそうだな」
クロウは振り返り、落ち着いた声で告げる。
「問題ありません」
「危険は排除されました」
それだけで、十分だった。
冒険者たちは、何も起きなかったことを理解する。
そして――
何も起きなかったこと自体が、異常だと気づく。
――――――
その日のうちに、二人は冒険者ギルドへ引き渡された。
召喚陣。
事前接触。
依頼内容との不一致。
すべてが、記録として残る。
ギルド職員は、深く息を吐いた。
「……ダンジョン内で、こんなことを」
「事故は起きていません」
クロウは淡々と答えた。
「未然に止めました」
「……助かりました」
ギルド側の言葉は、それだけだった。
――――――
ルミナス大要塞、執務区画。
報告を聞いたアルトは、軽く頷く。
「うん。予定通り」
「召喚は不可能でした」
クロウが続ける。
「管理権限による制御です」
「そりゃそうだよ」
アルトは笑った。
「自分のダンジョンで、
勝手に魔物呼ばれたら困るし」
クロウの視線が鋭くなる。
「今回で、
“事故を作ろうとした”事実は明るみになりました」
「うん」
アルトは椅子に背を預ける。
「でも、まだ末端だ」
「次だね」
クロウも頷いた。
「次は――
この騒動を誰が命じたか、です」
窓の外では、今日も冒険者が行き交っている。
何も知らず、何も失わず。
事故は起きなかった。
だが――
踏み込んだ者たちは、確実に捕まった。
アルトは、いつもの軽い調子で言った。
「さて」
「それじゃあ本命を、引っ張り出そうか」
その声は静かだった。
だが、逃げ道はもう残っていなかった。
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