第33話_不要な提案
ルミナス大要塞――
城と呼ぶにはあまりにも無骨で、要塞と呼ぶには整いすぎた巨大構造物。
その応接区画に、数名の来訪者が通されていた。
装いは上質。
仕立ての良い外套に、控えめだが価値の分かる装飾。
商人として、完璧な身なりだ。
先頭に立つ男が一歩前に出る。
「初めまして。
我々はハルディア王国、グラント商会より参りました」
穏やかな声。
だが、視線は鋭く周囲を測っている。
「副会頭の――レイヴンと申します」
グラント商会。
大陸でも指折りの巨大商会。
利益のためなら手段を選ばないことで知られ、その名は恐れと共に通っている。
「今日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「どういたしまして」
応接席に腰を下ろしたアルトは、軽く手を振った。
「遠いところからご苦労さま。
要塞、どう? 広いでしょ」
レイヴンは一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。
「……ええ。
王城ではなく、要塞とは思えぬほど整然としています」
(値踏みしてるな)
アルトは内心で笑った。
「で、今日は何の用?」
率直な問いに、レイヴンは笑みを深める。
「貴国の急速な発展を拝見し、
ぜひ協力関係を築ければと思いまして」
随行の者が、資料を差し出す。
「具体的には、三点ほど提案がございます」
アルトは頷いた。
「まあ聞くだけなら、タダだしね」
レイヴンは一つ目を示す。
「一つ。
ルミナスダンジョン運営への共同出資」
「二つ。
ダンジョン由来品および特産物の流通・販売における独占契約」
「三つ。
冒険者向け物資の一括供給」
「いずれも――」
レイヴンは自信を滲ませた。
「貴国の負担を軽減し、
収益を最大化する提案です」
アルトは、ふむ、と頷く。
「効率は良さそうだね」
その一言に、随行者たちの表情がわずかに緩んだ。
「魔物は資源。
冒険者は消費者」
レイヴンは、あくまで自然に言う。
「適切に管理すれば、
ダンジョンは今以上に稼げます」
その瞬間。
応接室の空気が、静かに変わった。
アルトは、にこりとも笑わず言った。
「――なるほど」
一拍。
「でも、全部いらないかな」
「……はい?」
レイヴンの声が、わずかに上ずる。
「共同出資はいらない。
運営はもう回ってる」
「独占契約も不要。
流通は今ので十分足りてる」
「物資供給も同じ。
内製できてるし、なにも問題ない」
淡々とした口調。
拒絶だが、感情は一切ない。
「メリットを感じないんだよね」
レイヴンは目を細める。
「……収益が増える可能性があっても、ですか?」
「うん」
アルトは即答した。
「今の形で十分儲かってるし、
冒険者の満足度も高い」
「無理に変える理由がない」
クロウが一歩前に出る。
「現在のダンジョン稼働率、
冒険者の平均収益、
治安指数――」
数値が、淡々と示される。
「いずれも想定通り、
あるいはそれ以上です」
理屈は揃っていた。
レイヴンは、しばらく沈黙した後、静かに息を吐いた。
「……承知しました」
「では、今回はここまでで」
立ち上がり、深く一礼する。
「別の形で、
またお話しする機会があれば」
「どうも」
アルトは軽く手を振った。
来訪者たちが去った後。
応接室に静けさが戻る。
「どう思う?」
アルトが聞く。
「取り込めないと判断した場合、
別の手段に出るでしょう」
クロウは即答した。
「だよね」
アルトは小さく笑った。
「でも――」
視線を要塞の外へ向ける。
「金でしかモノを測れないのなら、
最初から合わなかったってだけだ」
ルミナス王国は、
誰かに頼らなければ成り立たない国ではない。
そして。
(やっぱり、
本当に面倒なのはここからだな)
アルトは、静かにそう思った。
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