第28話_王の器?なにそれ美味しいの?
玉座の間を包んでいた張り詰めた空気は、いつの間にか和らいでいた。
それは誰かが命じたわけでも、威圧したわけでもない。
ただ、そこにいる少年――アルトの存在そのものが、場を安定させている。
(……不思議な感覚ですね)
セレフィアは、静かに息を整えながらそう思った。
王の間。
本来なら、緊張と警戒が支配する場所だ。
それが今は、まるで応接室のように落ち着いている。
「お茶でも出そうか?」
唐突に、アルトがそんなことを言った。
「……は?」
思わず、護衛の一人が声を漏らす。
「長旅だったでしょ。喉、乾いてない?」
「い、いえ……」
戸惑う護衛たちをよそに、セレフィアは小さく笑った。
「お気遣い、ありがとうございます」
「じゃあ後で用意させるよ。今は大事な話の続きだ」
あくまで自然体。
王としての威厳を“纏っている”のではなく、
“必要ないから着ていない”――そんな印象を受ける。
(……この方は)
セレフィアは、視線をそっと玉座の奥へ巡らせた。
無言で控える配下たち。
その立ち姿に、緊張はない。
だが、隙もない。
(信頼されているのですね)
それも、盲目的な忠誠ではない。
役割を与え、任せ、干渉しすぎない。
その距離感が、はっきりと見て取れる。
「失礼ですが」
セレフィアは、少しだけ声の調子を変えた。
「アルト王は……怖くはないのですか?」
「なにが?」
「国を持つことが、です」
問いかけは、王同士だからこそ許されるものだった。
恐怖。
裏切り。
責任。
選択の重さ。
それらすべてを背負う覚悟がなければ、
王は務まらない。
アルトは一瞬だけ考え、それから肩をすくめた。
「怖いこともあるよ」
「でも、それ以上に――」
玉座の外、街の方向へと視線を向ける。
「守りたいものが、ちゃんと見えてるから」
その言葉に、セレフィアの胸が静かに震えた。
(ああ……)
恐怖を否定しない。
理想で塗り固めない。
ただ、自分の立ち位置を理解している。
「国境については?」
セレフィアは、あえて実務的な話題を振る。
「今後、ルミナスが勢力を広げるお考えは?」
護衛たちが、わずかに身構えた。
アルトは、あっさりと首を横に振る。
「ないね」
「……即答ですね」
「広げると、管理が面倒になる」
悪びれもせず、そう言い切る。
「それに、他国を踏み潰してまで欲しい土地もないし」
(力があるからこそ、選ばない)
その事実が、何よりも重い。
多くの王は、力を得た瞬間に“使い道”を探す。
だがこの少年は違う。
「助けを求められたら?」
「状況次第」
即答。
「助ける義務はない。でも、助けたいと思ったら助ける」
「……ずいぶん、正直ですね」
「王だからって、全部平等にする必要はないでしょ」
その言葉に、セレフィアは目を細めた。
(選ぶ責任を、理解している)
それは、王として最も重い資質だ。
ふと、護衛の一人が内心で呟く。
(……この王に剣を向ける未来が、想像できない)
戦えば勝てるか。
そんな次元ではない。
(戦う必要が生まれた時点で、もう負けだ)
セレフィアも、同じ結論に辿り着いていた。
「アルト王」
彼女は、ゆっくりと立ち上がる。
「改めて申し上げます」
「ルミナス王国と、リュシュート王国は――」
「うん。友好関係、だよね」
アルトは、笑って頷いた。
条件も、誓約もない。
ただ、同じ目線で交わされた言葉。
(……この方は)
(世界を支配する王にはならない)
(だが、世界が壊れそうになった時――
必ず、そこに立つ)
セレフィアは、確信した。
この少年は、
“世界と戦わない王”であり、
“世界に必要な王”だと。
そしてアルトは、そんな視線に気づかぬまま、内心で思う。
(……話が通じる人で、本当に助かった)
静かな玉座の間で、
確かな信頼が、形を持って結ばれていく。
世界はまだ知らない。
だがこの出会いが、
後に「分岐点」と呼ばれることになるのを
※ここまで読んでくださってありがとうございます。
もし続きが気になりましたら、
ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです!




