第25話_ルミナス王国、想像以上に進んでいました。
ルミナス大要塞――
その最下層、玉座の間。
久しぶりに戻ってきたこの場所は、
相変わらず静かで、重くて、やたらと落ち着く。
「……それで」
玉座の肘掛けに軽く背を預け、俺は目の前の男に声をかけた。
「俺がいない間に、なにか変化はあった?」
参謀クロウは、いつも通り背筋を伸ばし、落ち着いた微笑を浮かべて一礼する。
「はい。我が主。いくつかございます」
(“いくつか”ね。
この言い方、絶対ロクでもない)
嫌な予感を覚えつつ、俺は先を促した。
「まず、他国の動向ですが――」
クロウは淡々と続ける。
「帝国以外の諸国は、概ね静観を貫いております。
軍事的行動は確認されておりません」
「まあ、だろうね」
帝国の末路を見て、軽率に動く国は少ない。
「ただし」
クロウは一拍置いた。
「リュシュート王国より、正式な使者が到着しております」
俺の眉が、わずかに動く。
「ほう?」
「目的は、ルミナス王国との国交に関する事前交渉。
そして――」
そこでクロウは、ほんの僅かに表情を和らげた。
「女王陛下ご自身が、謁見を希望されております」
一瞬、玉座の間が静まり返った。
「……女王、自ら?」
「はい。護衛を伴い、すでに出立しているとのことです」
俺は、思わず口元を緩めた。
「賢王と名高い、あの女王がね」
慎重で、理性的で、
感情ではなく“未来”を見ると評判の女王。
「わざわざ本人が来るとは……」
俺は、小さく笑った。
「なにを考えてるのか、見物だな」
敵意ではない。
だが、明確な意思表示でもある。
――ルミナス王国を、
“無視できない存在”として見ている。
「他には?」と、俺は続けた。
クロウは、次の報告を口にする。
「我が主が不在の間、
ルミナス大要塞周辺に街を建設いたしました」
「……ん?」
一瞬、意味が理解できなかった。
「……街?」
「はい。街です」
いや、待て待て。
「建設って……どのくらい?」
「現在、商業区・農業区・居住区・工房区・冒険者向け宿泊区まで整備済みです」
俺は、完全に言葉を失った。
「え……?」
クロウは、悪びれる様子もなく説明を続ける。
「道路は碁盤状に整備し、上下水道も完備しております。
魔導街灯による夜間照明も設置済みです」
「……」
「防衛面では、要塞と連動した結界を外周に配置しております」
「……」
「現在は、人口約一万二千。
主に森の魔物種族と、移住希望者です」
「……もう完成してるって、早すぎない?」
思わず、声が漏れた。
すると、クロウは少しだけ首を傾げる。
「今後、他国の商人や冒険者が行き交うことになりますので、
必要になるかと思いまして」
必要かどうかの話じゃない。
(俺は“仕事が早すぎる”って言ってるんだが……)
心の中でツッコミを入れつつ、
俺は玉座から立ち上がり、空間投影を見下ろした。
そこには――
規則正しく並ぶ建物。
活気ある市場。
農地で働く獣人たち。
工房から立ち上る白い煙。
要塞を中心に、
“国としての街”が、すでに呼吸していた。
「……本当に、やりすぎだろ」
そう呟きながらも、
笑いがこぼれてしまう。
「俺、数日留守にしただけだよ?」
「はい。その数日で整えました」
即答だった。
(分からないだろうな……
この人に“普通”を期待するのは間違いだ)
だが。
街は整い、
国は回り、
外の世界は動き始めている。
冒険者として歩いた世界。
人々の生活。
噂と恐怖と期待。
そして今――
賢王と呼ばれる女王が、
自らここへ向かってきている。
「……なるほどね」
俺は、玉座に腰を下ろし直す。
「確立、か」
ルミナス王国は、
もはや“力だけの国”じゃない。
人が集い、
物が巡り、
意思が交わる場所になった。
「クロウ」
「はい」
「盛大な歓迎の準備をしておいて」
俺は、穏やかに微笑む。
「世界がどう出るか――
そろそろ、真正面から受け止める頃合いだ」
ルミナス王国は、
静かに、しかし確実に。
“国家”としての姿を整え始めていた。
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