第23話_縛りプレイの苦難と成長
ゴブリンエンペラーの咆哮が、森を裂いた。
木々が揺れ、
地面が波打ち、
魔力の奔流が、肌を刺す。
「――来る!」
直感が叫ぶ。
次の瞬間、
巨大な棍棒が振り下ろされた。
避けきれない。
俺は、地面を蹴り、
あえて前へ踏み込んだ。
(内側だ!)
衝撃が、背後を薙ぎ払う。
爆風のような圧が、背中を叩く。
だが――当たっていない。
至近距離。
エンペラーの腹部。
俺は拳を打ち込む。
魔力は、ほとんど使わない。
骨格。筋肉。重心。
人型である以上、
“効く場所”は同じだ。
「――ぐぅっ!」
エンペラーの巨体が、僅かに揺れる。
(効いてる……だが、足りない)
制限された能力では、
決定打に欠ける。
時間をかければ、俺が削られる。
エンペラーも理解したのだろう。
動きが変わった。
速くなった。
荒い。
だが、殺意が濃い。
地面を砕き、
木を薙ぎ払い、
逃げ場を潰してくる。
「……っ!」
肩が、腿が、掠る。
一撃一撃が致命傷だ。
(このままじゃ――)
俺は、歯を食いしばる。
(違う)
(“縛り”は、弱くなるためじゃない)
(“俺自身を強くする”ためだ)
――俺は、深く息を吸う。
そして、心の中で告げた。
《創造:魔力制御》
世界が、色を取り戻す。
視界が澄み、
魔力の流れが、手に取るように分かる。
エンペラーの目が見開かれた。
「……人智を超えた、力……!」
「勘違いするな」
俺は、エンペラーに視線を合わせる。
「これは――ただの“Fランク冒険者”の戦い方だ」
俺は地面に手をつく。
そして――静かに唱える。
《神雷魔法:王断の雷檻》
その瞬間、空が、裂けた。
雲一つないはずの空から、
青白い稲妻が、一本――いや、束になって落ちる。
森にまるで昼間のように光が差す。
音が、消える。
雷は、エンペラーを中心に、
檻のように落ち続けた。
逃げ場は、ない。
「――ぐ、ぉおおおお!!」
咆哮が、悲鳴に変わる。
だが、終わらせない。
俺は、前に出る。
雷の中へ。
魔力を纏わせた拳。
技術。
判断。
そして――
王としての覚悟。
「終わりだ」
拳が、胸を貫いた。
雷が、爆ぜる。
光が、世界を塗り潰す。
――――
静寂。
焼け焦げた地面。
砕けた王冠。
そこに、
ゴブリンエンペラーはいなかった。
跡形もなく、
完全に消滅していた。
俺は、深く息を吐く。
その場に、膝をついた。
「……はぁ」
笑いが、漏れる。
(派手にやりすぎたかな)
だが――後悔はない。
今後も制限を維持して俺自身の技術をさらに磨こう。
これが、
俺の選んだ戦い方だ。
森の奥から、
ゴブリンたちの気配が消えていく。
統率者を失った群れは、
もはや脅威ではない。
――数日後。
レインブルクは、騒然となる。
「ローディア森林のゴブリンが消えたぞ!」
「エンペラーが討伐されたって……本当か?」
「誰がやったんだ!?」
ギルドの掲示板に貼られた報告書。
<討伐者>
================
冒険者名:アルト
クラン:無所属
ランク:F
================
誰も、信じなかった。
だが――
街は、確かに救われた。
そして俺は、
冒険者証を見下ろしながら、思う。
(……次は、他の街も見てみようか)
底辺冒険者、アルト。
その歩みは、
まだ始まったばかりだ。
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