第22話_噂は街を巡り、アルトは縛りプレイを選ぶ。
レインブルクの空気が、微妙に変わり始めていた。
冒険者ギルドの酒場。
昼間だというのに、いつもより人が多い。
「聞いたか? ローディア森林の話」
「また行方不明だとよ」
「もうFランクなんかが入れる場所じゃねえな」
囁き声が、あちこちで交錯している。
俺はカウンターの端に腰を下ろし、
水だけを頼んで耳を澄ませていた。
(思ったより早いな)
ゴブリンジェネラルの存在。
異常な統率。
森の奥にいる“何か”。
それらはすでに、噂として街に滲み始めている。
「アルト様」
声をかけてきたのは、あの受付嬢だった。
今日はカウンター業務ではなく、巡回らしい。
「少し、よろしいでしょうか」
「はい」
奥まった席へ移動すると、
彼女は小さく息を整えてから切り出した。
「ローディア森林の依頼ですが……
本日付で、Bランクへの引き上げが検討されています」
「……やっぱり」
「複数の冒険者から、
“指揮系統を持つゴブリン集団”の報告がありました」
彼女は、少し困ったように笑う。
「正直に申し上げますと……
このまま放置すれば、街への被害も現実的です」
(エンペラーが動けば、確実に来る)
俺は、静かに頷いた。
「再調査の依頼、僕が受けます」
「……単独ですか?」
「はい」
一瞬、躊躇したあと、
彼女はプロの顔で頷いた。
「承知しました。
ゴブリンジェネラルを倒したアルト様であれば、
正直他の冒険者の方よりも安心はしております。
ですがどうか、今回もご無事で」
――ローディア森林。
三度目の侵入。
だが、今回は“様子見”ではない。
(ジェネラルとの戦闘で、はっきり分かった)
俺は強い。
圧倒的に。
だが――
(戦い方が雑だ)
力で殴る。
魔力で吹き飛ばす。
それは、“勝てる”だけで、
俺自身は成長しない。
「……よし」
森に入る直前、俺は立ち止まり、
自分自身に向けて創造スキルを発動する。
《創造:制限》
全能力、1万分の1に制限。
魔力。
筋力。
反応速度。
耐久。
すべて、極限まで落とす。
一気に、体が重くなる。
視界が狭くなり、
魔力の流れも、鈍い。
(……ここまで変わるのか)
思わず苦笑が漏れた。
「これで負けたら、それまでだ」
だが。
だからこそ、意味がある。
森の奥。
待っていたかのように、
地鳴りが響く。
姿を現したのは――
玉座のように組まれた岩の上に座る、
巨大なゴブリン。
金色の装飾。
王冠。
異様な威圧感。
ゴブリンエンペラー。
その目が、俺を捉える。
「――来たか、人の王」
喋った。
はっきりと。
(……やっぱりな)
エンペラーが立ち上がる。
一歩。
それだけで、地面が揺れる。
「我が森を、何度も荒らす者よ」
巨腕が振るわれる。
重い。
避けきれず、肩を掠める。
激痛。
(くっ……!)
力で受ければ即死。
今の俺は、紙切れ同然だ。
(真正面は、無理)
地形を見る。
足場。
木の配置。
――使える。
俺は走る。
回る。
潜る。
跳ぶ。
魔力を最小限に使い、
体捌きだけで距離を取る。
エンペラーの一撃一撃が、
大地を削り、
木々を粉砕する。
だが――
(遅い)
攻撃は重いが、直線的。
ジェネラルよりも、
むしろ読みやすい。
隙が、ある。
俺は一瞬だけ、
魔力を指先に集める。
圧縮、極小。
拳ではない。
蹴りでもない。
――関節。
膝。
踏み込み、
一点に打ち込む。
「――ぐぉっ!?」
エンペラーの体勢が崩れる。
そこへ、
木の幹を蹴って跳躍。
頭部へ、掌底。
衝撃は小さい。
だが――
確実に、効いている。
(通る……!)
力じゃない。
技術が、通じている。
エンペラーが吠える。
森全体が震え、
無数のゴブリンが跪く。
だが、俺はもう怖くない。
(勝てるかどうかじゃない)
(“どう勝つか”だ)
息を整え、
構えを取る。
制限された力。
研ぎ澄まされた判断。
「……続きをやろうか、ゴブリンの王」
ゴブリンエンペラーが、
歯を剥き出しに笑った。
この戦いは――
ただの討伐じゃない。
俺自身を、作り直す戦いだ。
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