第21話_森は、もう底辺冒険者の狩場じゃない
翌日。
俺は再び、冒険者ギルドの扉を押していた。
昨日と同じ時間帯。
同じ賑わい。
同じ酒と鉄の匂い。
――だが、俺の意識だけが違う。
(あの森は、確実に“変質”してる)
受付に立つのは、昨日と同じ女性だった。
丁寧な所作、落ち着いた声。
こちらを見る目にも、余計な色はない。
「お帰りなさいませ、アルト様。
昨日の依頼はいかがでしたか?」
「討伐は完了しています。
ただ……」
俺は言葉を選び、静かに続けた。
「ゴブリンの数が多く、階級個体を確認しました」
その瞬間。
彼女の指が、わずかに止まった。
「……階級、ですか?」
「兵長クラスです。
装備も統率もありました」
受付嬢は一瞬考え込み、
すぐに奥の書類に目を通し始める。
「……同様の報告、数件上がっています」
やはり、か。
「ローディア森林の依頼は、本日付で更新されています。
内容は――」
彼女は一枚の依頼書を差し出した。
《ローディア森林・再調査》
討伐対象:ゴブリン集団
危険度:D(暫定)
「暫定、ね」
思わず苦笑が漏れる。
「報酬は上がっていますが、
単独行動は推奨されていません」
「……それでも、行きます」
俺は即答し、アイテムボックスに入れていた、
ゴブリン兵長の死骸を受付嬢に見せる。
彼女は一瞬だけ目を見開き、
それから静かに頷いた。
「分かりました。ただ――どうか、ご無理はしないでください」
その言葉に、軽く頭を下げる。
――二度目のローディア森林。
昨日よりも、空気が重い。
森に入った瞬間、分かる。
(さらに増えてる)
気配。
足音。
視線。
ゴブリンが“森の一部”のように溶け込んでいる。
奇襲が来る前に、
こちらから踏み込む。
地面を蹴り、距離を詰める。
「――遅い」
掌に魔力を集中させ、
空気を叩く。
衝撃が、面で広がる。
前列のゴブリン三体が、まとめて吹き飛ぶ。
だが――
「……来たな」
奥から、低い咆哮。
現れたのは、明らかに別格の個体。
身長は二メートルを超え、
厚い筋肉に、鉄製の鎧。
巨大な斧を肩に担ぎ、
赤い目でこちらを見下ろしている。
「ゴブリンジェネラル、か」
知性の光。
威圧。
周囲のゴブリンたちが、一斉に膝をつく。
(完全に“軍”だな)
ジェネラルが斧を振り下ろす。
地面が割れ、
土と木片が舞い上がる。
俺は後退せず、
逆に踏み込む。
「正面突破は、悪手だ」
斧の軌道を読み、
内側へ滑り込む。
だが――
「っ……!」
反応が、速い。
斧の柄で薙ぎ払われ、
俺の体が宙を舞う。
空中で体勢を立て直し、
木に着地。
(なるほど。単純な力押しじゃない)
俺は深く息を吸い、
魔力の流れを変える。
一点集中。
足元の地面に、細く圧縮した魔力を流し込む。
次の瞬間――
地面が“跳ねた”。
バランスを崩したジェネラルの足が浮く。
「今だ」
瞬間移動に近い踏み込み。
腹部へ、魔力を乗せた拳。
轟音。
巨体が後方の木々をなぎ倒し、
地面に叩きつけられる。
ジェネラルは、動かなくなった。
……だが。
森の奥。
さらに、気配がある。
今までとは、比べ物にならない。
圧。
威圧。
存在感。
姿は見えない。
だが――分かる。
(……エンペラー)
視線だけが、こちらを捉えている。
俺は、ゆっくりと立ち上がる。
「今日は、ここまでだ」
そう判断した。
勝てないわけじゃない。
だが――
今、倒す理由がない。
森が、ざわめく。
ゴブリンたちは、
一斉に道を開いた。
――見送られている。
(完全に、把握されたな)
ローディア森林。
ここはもう、
“初心者の狩場”じゃない。
ゴブリンの王が、統べる森だ。
俺は、街へ戻る道を歩きながら、
静かに思った。
(……面白くなってきた)
――Fランク冒険者、アルトとして。
この世界は、
まだまだ底が知れない。
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