第2話_森のルールなんて知りません。
歩き出した。
――いや、正確には「歩けている」。
(……さっきまで赤子だったよな、俺)
視線は低い。体も小さい。
だが、足はしっかりと地面を踏みしめている。
(体格はそのままなのに、感覚だけが大人だ)
筋力や敏捷が異常な数値になっているせいか、
動かそうとした通りに体が反応する。
(……そういえば、ちゃんと自分の状態を見てなかったな)
創造神だの、剣だの、魔物だの。
色々ありすぎて後回しにしていたが、
今さらながら自分自身の情報を確認することにした。
(ステータス、って意識すればいいのか?)
そう考えた瞬間、
視界の中央に半透明の板が浮かび上がった。
――――――――――
【名前】(未定)
【職業】創造神
【筋力】測定不能
【耐久】測定不能
【敏捷】測定不能
【魔力】測定不能
《スキル》
・創造
・超思考
――――――――――
(……測定不能って、なんだよ)
数値が並ぶことすらなく、
どの項目も同じ表示。
(強いとか弱いとか、そういう次元じゃないってことか)
赤子の体で普通に動けている理由も、
これを見れば納得だった。
(ステータスが体を無理やり成立させてる、って感じだな)
試しに板を消そうと意識すると、
すっと霧のように溶けて消えた。
(なるほど。必要な時に出せばいいわけか)
ひとまず理解したところで、
俺は再び歩き出す。
(これ、慣れてないと逆に危ないな……)
足元の苔はふかふかで、踏むたびに湿った匂いが立つ。
霧は肌にまとわりついてくるが、嫌な感じはしない。
(……たぶん、これが魔素ってやつか)
前世で読んだラノベの知識が、ようやく役に立った。
空を見上げれば、月が二つ。
枝葉の影が揺れ、森は静かに呼吸している。
(本当に異世界なんだな)
歩きながら、頭を整理する。
(まず現状だ)
ステータスは測定不能。
スキルも、今のところは最低限しか表示されていない。
何より――
職業が【創造神】。
(反則どころか、ルール破壊だろ)
試しに、前世知識を元に
「この世界の一般的な強さ」をイメージしてみた。
視界に、仮の比較情報が浮かぶ。
――――――――
【職業】剣士
【筋力】90
【耐久】80
【敏捷】60
【魔力】10
――――――――
(……うん、完全に別ゲーだな)
ただし問題も多い。
家無し。
拠点無し。
食料無し。
(さすがに何か食べないとまずい)
森に目を向けると、
果物やキノコらしきものはある。
――が。
(色、完全にアウトだろ)
触る前に、鑑定してみる。
事前に必要そうなスキルは創造スキルで作っておいた。
《鑑定》
――――――――
【樹種】夜纏いの樹
【特徴】霧を集め、毒素を溜める
【危険】樹液に触れると皮膚が腐食
――――――――
(初手から殺意高すぎない?)
次に足元。
《鑑定》
――――――――
【苔】眠り苔
【特徴】胞子吸引で強制睡眠
――――――――
(地面まで罠とか、この森ほんと性格悪い)
《完全耐性》を創っておいて正解だった。
軽く息を吐き、
《アイテムボックス》にも意識を向ける。
底の見えない暗闇。
容量制限は、たぶん無い。
(拠点作るなら素材はいくらあっても困らないな)
――そのとき。
森の静けさが、変わった。
視線。
霧の奥。
木の上。
地面の穴。
(……見られてる)
(縄張りに踏み込んだら、即排除。
これがこの森のルール、ってことか)
俺は足を止め、空を見上げた。
誰が俺をここに落としたのか。
何のためなのか。
今はどうでもいい。
(知らない誰かの都合で、生き方を決められるのは御免だ)
だから――
俺のルールはこれだ。
「好き放題やる」
ただし、無意味に壊す趣味はない。
俺は、のんびり快適に生きたい。
「それを邪魔するなら……容赦しない」
霧が割れる。
「ギィィ……」
金属を擦るような鳴き声。
猿に似た魔物。
長すぎる腕。六本指。
仮面のような白い顔。
(……キモい)
一体じゃない。
気配が増える。
《創造:探知》
情報が一気に流れ込む。
「……82体。囲まれてるな」
(赤子相手に集団リンチとか、性格悪すぎだろ)
俺は手を軽く振る。
(めんどい。まとめていこう)
《創造:重力の鎖》
見えない圧が落ちる。
魔物たちは一斉に地面へ叩きつけられ、動けなくなった。
「……おお」
正直、俺自身が一番驚いていた。
(やりすぎ……いや、ちょうどいいか)
全滅させる気はない。
いちいち相手にするのも面倒だ。
(……使えるなら、使った方が楽だよな)
《鑑定》
――――――――
【種族】白面のマカク
【ランク】A
【特徴】群れで行動。数が増えるほど危険度上昇
――――――――
(数だけは優秀だな)
俺は一体に目線を合わせた。
「俺、この森で暮らすつもりなんだ」
当然、言葉は通じない。
「だからルールを決める」
《創造:従属(縄張り規定)》
光が、胸に沈む。
「俺を襲わない」
「俺の拠点を荒らさない」
「他の奴にも荒らさせない」
「それ守るなら、後は好きにしていい」
魔物たちの目が揺れた。
(よし、これでいい)
俺は霧の奥を見る。
(この森……奥が本命だな)
――そのとき。
上から、重い圧。
枝葉がざわりと揺れ、
白い羽根が、ひらりと落ちてきた。
(……来たか)
ここらで一番、強い気配。
俺は空を見上げた。
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