第18話_王様にも、自由時間は必要だよね
国は、回っていた。
それも、俺が何もしなくても。
ルミナス大要塞の上層。
新設された参謀局ではクロウが書類と地図に囲まれ、
軍統括階ではヴァルカスが将たちと訓練計画を練り、
影の階層ではミュリエルが配下たちの集めてきた情報の整理を行っている。
……完璧すぎない?
「正直、俺ホントにやることなくない?」
ぽつりと呟いた俺に、
フィオナが呆れたような笑みを向けた。
「普通は“やることが無い”なんて状況、喜ぶものですよ?」
「うーん……」
玉座の間。
俺は背もたれに深く身を預け、天井を見上げる。
「国を作るってさ、
もっと忙しくて、頭抱えるもんだと思ってた」
「それは、普通の国の場合です」
クロウが淡々と補足する。
「アルト様の場合、
最初から“基盤”と“人材”が揃いすぎていました」
「自覚はあるけどね」
俺は苦笑した。
帝国との一件で、
ルミナス王国の存在は世界に刻まれた。
敵対すれば滅ぶ。
無視すれば見守られる。
理解しようとすれば、対話の余地がある。
――立場としては、もう十分だ。
「ねえ、フィオナ」
「はい?」
「俺がいなくても、もう国は大丈夫だよね」
一瞬、彼女は驚いたような顔をしたが、
すぐに柔らかく微笑んだ。
「はい。
それが、アルト様の作った国ですから」
その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「じゃあさ」
俺は、立ち上がった。
「しばらく、表に出ようと思う」
クロウが、視線を上げる。
「……ご身分は?」
「伏せる」
即答だった。
「王としてじゃなくて、
ただの“一人の人間”として」
ノクスが、低く唸る。
「それは……危険では?」
「だからこそ、だよ」
俺は笑う。
「外の世界を知らない王って、
結局、机上の空論になるでしょ?」
ミュリエルが、いつの間にか背後に立っていた。
「護衛は?」
「要らない。おれ冒険者になるよ」
その言葉に、場の空気が少し変わった。
「名前も立場も伏せて、
ギルドに登録して、依頼を受けて、
普通に冒険する」
フィオナが、少し不安そうに尋ねる。
「アルト様が……冒険者?」
「うん」
俺は頷いた。
「世界がどう見えてるのか、
人が何を恐れて、何を望んでるのか」
玉座の間を、ぐるりと見回す。
「王の椅子からじゃ、分からないこともあるから」
クロウは、わずかに微笑んだ。
「……賢明な選択かと」
ヴァルカスは、腕を組んだまま言う。
「戻る場所は、常にここにあります」
「ありがとう」
その言葉は、自然と出た。
「じゃあ、しばらく留守にするけど」
軽い口調で告げる。
「国のこと、任せたよ」
誰も、止めなかった。
それが、この国が“一人の王に依存していない”証だった。
「まあ――」
アルトは少し溜めて続ける。
「――転移魔法で頻繁に戻ってくるんだけどね」
一瞬の静寂と同時に、そこにいた誰もが共通して思ったことがある。
(それってただの外出じゃない?)
――しかし誰一人として、その言葉を口に出すことは無かった……
――――
こうして。
ルミナス王国は、
世界に対峙する立場を確立し。
王は、玉座から一歩降りる。
それは逃避ではなく、
より深く世界を知るための選択。
好き放題やる。
その次の段階は――
好き放題、歩いてみることだった。




