第17話_ちゃんと組織っぽくなってきたね。
戦争が終わったあとの仕事は、意外と地味だ。
「……はい皆さん、ちゅーもく」
ルミナス大要塞、玉座の間。
俺は椅子に深く腰掛けリラックスしたような状態で、
頬杖をついたまま素直な疑問を口にした。
「ヴァルカスがさ。
毎回、前線で指揮を執るのってどうなの?」
一瞬の沈黙。
武神ヴァルカスは、微動だにせず答える。
「問題はありませんが」
「いや、問題あるでしょ」
即答だった。
「国としてさ。
最高戦力が毎回、最前線に立つのは普通じゃない」
フィオナが、思わず小さく笑う。
「確かに……"徹底的に"という意味ではアルト様らしいですが」
「まあそうだけど」
俺は軽く肩をすくめた。
「強いから出る、じゃなくて。
強いから“不測の事態に備える形”にしておきたいんだよ」
クロウが、静かに頷く。
「……つまり、組織化ですね」
「そ」
軽い口調とは裏腹に、その言葉が意味するものは大きい。
「軍はもう完成してる。
でも、指揮系統が“神直轄”なのはよろしくない」
ヴァルカスが、わずかに思案するように目を伏せた。
「では……」
「それぞれに配下を持ってもらおう」
その場の全員が、同時に理解した。
「クロウには――参謀局」
クロウが、静かに背筋を伸ばす。
「国内統治、外交、法整備、情勢予測。
考える役目は、全部任せる」
「承知いたしました」
「ヴァルカスには――軍団」
武神が、初めてほんの僅かに笑った。
「前線を任せられる将。
戦場を預けられる指揮官。
そこらへん全部」
「……心躍りますな」
「ミュリエルには――影の組織」
気配もなく現れた彼女が、静かに頭を下げる。
「諜報、潜入、遮断、排除。
名前も記録も残らない連中」
「はい。
影は、影らしく」
ノクスが、感心したように息を吐いた。
「……神々が“役職”を持つ国、ですか」
「うん」
俺は、満足そうに頷く。
「これで、ようやく国っぽくなってきた」
――――
「ついでにさ」
ふと思い出したように、俺は言った。
「要塞、ちょっと狭くない?」
一瞬、空気が止まる。
「狭い……と申しますと……」
クロウが慎重に問い返す。
「役割も人も増えたのに、場所はそのままって変でしょ」
《創造:拡張》
何気なく、スキルを発動した。
次の瞬間。
ルミナス大要塞が、軋むことなく拡張される。
上へ。
さらに上へ。
参謀局用の階層。
軍統括本部。
影の者たちが集う、光の届かぬ層。
「……要塞が、生きているようですね」
フィオナが、ぽつりと呟く。
「それぞれの役割をしっかり遂行してもらうには、
それに見合った場所ってものが必要でしょ?」
俺は、満足そうに頷いた。
「これでさ」
ゆるい口調のまま、告げる。
「俺が全部やらなくても、国が回る」
その言葉に、空気が静まった。
「それが、王の仕事だから」
誰かが欠けても、国は残る。
誰かが動かなくても、国は進む。
――ようやく、そこまで来た。
「じゃ、今日はここまで」
俺は立ち上がる。
「後の細かいところは任せるよ。
俺は……」
少し考えてから、言った。
「しばらく、休暇を取らせてもらうよ。
やってみたいこともあるしね」
フィオナは苦笑し、
クロウは微笑み、
ヴァルカスは静かに頷いた。
この国はもう、
“一人の力”で回す段階を終えた。
ルミナス王国は、
完全な組織となったのだから。
――好き放題やる。
その言葉は今や、
無責任な強さではなく、
余裕を持った覚悟を意味していた。




