第11話_世界が動き出す音
ルミナス王国の建国宣言。
それは、禁域の森という“得体の知れない空白”に、
初めて明確な「意思」が刻まれた瞬間だった。
当然、その余波は――森の外へと広がる。
――――
世界各地の王城、会議室、玉座の間。
同じ報せが、ほぼ同時に届いていた。
「禁域の森より、建国宣言あり」
その一文に、どの国も例外なく眉をひそめた。
禁域の森。
魔物の巣窟であり、調査隊は帰らず、
侵攻すれば国力を削られるだけの“触れてはいけない場所”。
そこに、国ができた。
各国の反応は、大きく三つに分かれた。
――まず一つ。
「すぐに情報を集めろ。正体不明のままこちらは動けぬ」
慎重派の国々。
使者を送り、密偵を放ち、
ルミナス王国の規模、王の正体、軍備を探ろうとする。
――二つ目。
「許可なき建国だと? ふざけるな」
即断派、あるいは強硬派。
世界の均衡を乱す芽は、早めに摘むべきだと判断する国。
「禁域だろうと関係ない。
森ごと焼き払えば済む話だ」
そんな声すら、上がっていた。
――そして三つ目。
「……関わるな」
中立を貫く国々。
禁域の森には手を出さない。
それが、これまでの暗黙の了解だった。
「様子を見る。
どうせ長くはもたないだろう」
そう判断する国も少なくない。
――――
「……予想通りだな」
ルミナス大要塞。
最下層、玉座の間。
俺は報告を聞きながら、小さく頷いた。
「世界は、動いたか?」
「はい、我が主」
ノクス・ガルムが静かに答える。
「すでに複数の国が、森の外縁に探りを入れ始めています。
また、敵意を隠そうとしない国も存在します」
「だろうなぁ」
むしろ、来ない方がおかしい。
「フィオナ」
「はい、アルト様」
「驚いてる?」
彼女は少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。
こうなると、分かっていましたから」
だよな。
「だから――」
俺は玉座の肘掛けに指を置いた。
「備える」
そう言って、創造スキルを起動する。
《創造:軍勢》
世界が、一瞬だけ軋んだ。
空間の奥から、圧倒的な量の“存在”が呼び出される。
「……おお」
ノクスが、思わず息を呑む。
玉座の間の外。
ルミナス大要塞の上層、そして地下空間。
そこに次々と顕現していく影。
魔物。
悪魔。
獣人。
人に近い姿の者もいれば、明らかに異形の存在もいる。
――十万。
数ではない。
質だ。
一体一体が、異常に“濃い”。
「下っ端の兵士ですら……」
ノクスが言葉を失う。
「他国の指揮官クラスに匹敵します」
「うん。そこは妥協しなかった」
だってさ。
「数だけ多くても意味ないし」
十万の兵。
だが、単なる烏合の衆ではない。
それぞれに役割があり、
統率され、
命令系統が最初から組み込まれている。
指揮官。
将。
参謀。
軍として、完成している。
「……主様」
ノクスが、改めて頭を下げた。
「これでは、国どころか……」
「世界を相手にできる、って?」
冗談めかして言うと、否定は返ってこなかった。
「で、最後に」
俺は、少しだけ間を置いた。
《創造:側近》
空気が、張り詰める。
今までとは、明らかに違う感触。
現れたのは、三つの影。
姿はまだはっきりと見えない。
だが、分かる。
――格が違う。
今まで出会ってきた者たちとは、根本から。
ノクスも、フィオナも、
言葉を失っていた。
「……アルト様」
フィオナが、かすれた声で呼ぶ。
「大丈夫。味方だよ」
そう言うと、彼女は少しだけ安心したように息を吐いた。
俺は玉座に深く腰掛け直す。
世界は動いた。
なら、こちらも動く。
「ノクス」
「はっ」
「世界がどう出ようと関係ない」
俺は、はっきりと言った。
「ルミナス王国は、滅びない」
攻めてくるなら、迎え撃つ。
探るなら、見せてやる。
――ここが、どんな国かを。
「好き放題やる、って言っただろ?」
玉座の間に、静かな笑いが落ちた。
それは、
世界がまだ知らない“覚悟”の音だった。




