3. 覚猷(かくゆう)
その時だ。
「のけええぇぇいッ! そこなる童ァ!」
(どけぇぇぇっ!そこの童)
雷鳴のような怒声と共に、一人の男が降ってきた。
僧兵のような風体。岩のような筋肉。右手に握られた黄金(金銅)の独鈷杵。
男は汚泥の巨人たちにそれぞれ一撃を加えて粉砕したが、巨人たちはすぐに再生を始める。
――本来は祈祷に使うはずの密教法具を、まるでナックルダスター(暗器)のように握りしめている。
「ええ、言聞き分けぬか・・・。汝、疵はなきか。」
(ちっ、言葉が通じぬか……! お主、怪我はないか!)
男が繕に向かって叫んだ。 本来なら一般人であれば千年前の言語など2~3割くらいしか聞き取れない。だが、繕は古文書にも触れる機会が多いことから感覚で言語を理解していた。
「……言葉はなんとなく分かります!」
控えよ。あとは某が引き受けん」
(下がっておれっ、あとはわたしがやる。)
「オン・クロダノウ・ウン・ジャク! 魔障退散ッ!!」
真言の詠唱と共に、独鈷杵が眩い光を放った。 男は地面を蹴り、砲弾のように巨人たちへ突っ込んでいく。
ガギィィンッ! 金属音とは思えない破砕音が響き渡る。 飛び上がった男の一撃は、物理法則を無視した威力で泥の巨人の胴体を粉砕した。 飛び散る泥。崩れ落ちる巨躯。
「す、すごい……」
繕は圧倒された。 だが、安堵したのも束の間、繕の<眼>が新たな警告を発した。
【警告:対象の再構築を確認。浄化不全】
「――まだだ! まだ終わってない!」
繕が叫んだのと同時に、飛び散った汚泥が空中で静止した。 それらは意思を持ったアメーバのように蠢き、再び中心へと集まり今度は一つに固まり始める。
「む?」
着地した男が舌打ちをした。
「案のごとしか。打ち砕くは容易き業なれど…いかにしても『根』ぞ留まる。これにては、賽の河原の石積みぞ」
(やはりか。殴って砕くのは簡単じゃが……どうにも『芯』が残る。これではイタチごっこよ)
男は懐の巻物を広げ、集まってくる泥に向けた。
「入れ! かしここそ汝らが獄なれ!」
(入らぬか! そこがお主らの牢獄ぞ!)
巻物からは微弱な吸引力が発生しているようだが、泥の怨念たちはそれを嘲笑うかのように抵抗し、再び巨人の形を取り戻していく。 男の顔に焦りが浮かんだ。




