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第六話 キュリシカと覚悟

 テンダーの屋敷を出てから随分と経った、日も沈みきった今ならば、最小限の動きでウェルスの元へ行けるか……。


「そろそろワシは出る、留守は頼むぞキュリシカ」

「ジジイ、ほんといい加減にしろよ」

 

 いい加減にしろとな。意味は知らんが、不満だけはよく伝わってくる。

おおかたついてくるつもりでおったのだろうな。


「キュリシカ、ここから先は命に関わ……」

「はぁ?じゃあどうやって入るつもりだ?鍵は閉まって、警備も居る。あの頭おかしい魔法使って入って?すぐに動けるのかよ」


 なるほど、言っていることは正しいが、やはり子供をこの先に巻き込むのは気が引ける。

いざという時は掛け軸を使うのが手っ取り早いが、キュリシカはそれを危惧しておるのだろう。


「あのな、オレが何年盗賊してきたと思ってるんだ?」

「……。」

「鍵開け、撹乱、別に戦うつもりはねえよ」


 ニヤリと笑う姿は、まるで初めて戦闘を任された時のクロードの笑顔のようだ。


 そこまで言うのならば、ワシがこの子を守りながら戦えば良い。


「わかった、任せてもよいか?キュリシカ」

「サッと終わらせてあの領主サマを殴って帰ればいいんだろ、楽勝」


 そうではないんだが、まあ……そういうことにしておこうか。

子供に理屈を言っても、こういう時は聞かんものだ。


「さーてと……正門前に二人、裏門に四人、中は誰もいねえな」

「よく見えるな、キュリシカ」


 おかしなことでも言っただろうか、不思議そうな顔をしておるが、ワシとしてはお主の夜目の方が不可思議なのだが。


 いくら夜が主戦場の盗賊とは言え、異常と言って違いない視力に唸っておったが、次いでかけられた言葉はなんとも言えぬもの。


「オレのスキル話してなかったか?」

「そうだなあ」

「オレのスキルは“闇蝙蝠(ナイトバット)”、夜にしか使えねえけど、昼間よりよく見える」


 なるほど、皮肉とは言え置かれた環境からすればこれほどに適切なスキルもあるまい。だがしかし。

 

「……庭園にひとつ妙な気配がある」

「ん?なに言ってんだジジイ」

「いや、気のせいならいいのだが」


 違和感の正体も、気にしすぎれば毒となる。

それにキュリシカから飛び出した言葉の方が重要と言ったところか。


「あともう一個さあ」

「まだあるのか」

「“フルオープン”、魔力で無理やり空間をこじ開けて建物の中に入れるぜ」

「便利なスキルだ」

「あー、はは……ま、まあな」

 

 何か含みのある言い方だが、今の状況を加味すれば充分すぎる力ではある。

いつ増援が現れてもおかしくないならば、人手のない今が好機であろう。


「実はのう、キュリシカ、ワシもひとつ黙っていたことがある」

「あんたがバケモンだとか」

「そうとも分からんぞ?……と、冗談はさておき、話を続けよう」

「で、何を黙ってたんだよ」

「昼間に見せた火猫、あれにはまだ隠した姿がある」


  ……この掛け軸は、長らく“火猫”として扱われていた。しかし、それは誰かが勝手につけた名。


本来の姿と意味は、声に出すことで顕れる。

かつての真実――それが《史実開放》。


「史実開放、《戦炎白虎》」

「すげえ!これ、あのネコなのか!」


 白い火炎に満ちた白虎の姿を見たキュリシカの声が弾んだのが嬉しい。火猫の時よりも興奮している様子だ。


 こやつは悪しきを蹴散らす力がある。テンダーが言う傭兵の話が事実であれば、この屋敷に巣食う傭兵から守ってくれるだろう。


「無茶はするな、常に白虎から離れずに居るといい」

「分かってるっての!頑張ろうな、ビャッコ!」


 好きなのだなあ、こういったものが。 

白虎もキュリシカを気に入っておるのは空気からも分かるが……。

その巨体で戯れつくのはやめてあげなさい。


 あれじゃ毛に埋もれて息もできんだろうに。


「さてと、じゃあ早く終わらせて帰ろうぜ?」

「くれぐれも怪我だけはしないようにな」

「うるせえっての!行くぜ、フルオープン!」


 歪んだ空間の先にぼんやりと庭園が映り込む、これに入れば到着ということか、一方通行とは言えやはり便利なスキルだ。


◇◇◇


「キュリシカ、くれぐれも……」

「分かったから早く行けよ!」


 ジジイのやつ、オレのこと本気でガキだと思ってやがるな?

別行動って言っといて、ずっとこっち見てんの、バレバレなんだよ!


「ビャッコ、お前もなんとか言ってやってくれよ」

「ゔるるるっ」


 ……もふっ。

やっぱりあったけぇな。

キラキラ光ってるもんは嫌いだけど、こいつみたいなのは落ち着く。


「ジジイが敵をブッ殺せるように大暴れしてやろうぜ!」

「ゔがるっ」


 へへっ、気合い充分ってとこか。

よし、行くぞ――相棒!

景気付けに撫でてやろうとしたらビャッコの背中の毛が逆立った。


「……闇蝙蝠(ナイトバット)にかからねえとか、何モンだよ」

「あなた、ジコン様のそばに居た野良猫ですね?」

「確かお前が領主か?どこから湧いてきやがった」


 ウェップス?ウェスト?どれだか忘れたけど間違いねえ、こいつあの時街にいたクソ領主か。


 おかしいだろ、オレのナイトバットではこの辺に誰も居なかったのになんでこいつがここに居るんだ。


「魔道具はご存知ありませんか? 傭兵さん達が僕にくださったものなんですよ。気配も、魔力も、こうして無くなる」

「ははぁ、魔道具ね」


……成る程ね、見えなかった理由がようやく分かった。


外套型の魔道具なんて普通に手に入る代物じゃねえけど、タネが割れたならこっちのモンだ。


「それにしても頭が痛い物です……薄汚い盗賊風情がジコン様の隣にいるのが、心底、憎い」

「嫉妬か坊ちゃん?」

「貴様も勇者も……身寄りのない貴様たちにばかりに皆は優しさを与えてきた!!!」


 訳わかんねえなコイツ、勇者の過去が出る意味も、オレの過去をコイツになじられるのもアタマおかしいしムカつく。


 それに何よりムカつくのは。


「ジジイはお前を助けてやろうとしてんのに、何してんだ?」

「!……ッ、英雄であるジコン様をジジイとか不敬な呼び方するな!」

「なんだそりゃ、キレやすいのは悪いオトモダチの影響か?」

「あの人たちは僕を助けてくれたんだ!さっきから口が汚いぞ!」


 あの人たちってのは、吐血ジジイの言ってた傭兵か?まあなんだ、さっきよりも良い顔するじゃねえかこいつ。


ビャッコは悪いヤツを許さねえって言ってたけど、明らかにオレの出方を見てるってコトはアレか。


「違法魔道具だろ、ソレ」

「は?」

「セーシン干渉?昔貴族から盗んだ中に入ってたけど、気持ち悪くて捨てたヤツそっくりだ」


 訳わかんねえって顔してるけど関係ないね。

どん!といってしゅばっと倒せばソレで済むだろ!

 

「オレはテメェより付き合い浅いけどよ!あのジジイが勇者サマより勇者らしいってコトは分かるぜ!」

「……ッ、黙れ!お前と勇者を排除して、僕がジコン様の隣に立つ!」


 ナイフ一本構えて勝てると思ってるのはやべえけど、やっぱりジジイのコト話す時はいい顔してるぜ。ただしそのクソ妄想だけは、オレが焼き尽くしてやるよ。


 魔道具をズタズタにしちまえばオレの勝ちって事だろ?簡単でいいじゃねえか!


「ビャッコ、オレを乗せて突撃だ!」


 掛け声と同時に、全身に力が入った。ビャッコの背中に足をかけ、駆け上がる。風を裂くように跳ね上がった巨体は、夜を焦がす火の玉みたいだった。


 ……速い。怖くねえわけじゃないけど、それよりも、目の前のクソ坊ちゃんをブッ飛ばしてやりたい気持ちの方がずっと強い。


 眼下に奴の姿が小さく見える。その顔めがけて、まっすぐに突っ込んでいく。


 ――逃がすか。その気色悪い外套も、お前の妄想も、ぜんぶまとめて焼き尽くしてやるよ!


「おらぁ!大人しくしろや!」

「ぐっ、離せ!この!」


 ビャッコにナイフが当たらねえように覆い被さる。振りかぶった刃が体に当たるけど、大人共に殴られた時に比べりゃ痛くも痒くもねえ。


 魔道具がビャッコの火に触ったトコから少しずつ溶けるみたいに無くなってく。多分ほんとは怖い火なんだろうけど、オレにとっては暖かい。


「あ、ぁ、焼ける、僕の……!」

「やっぱり物も燃やしちまうんだな、すげえよビャッコ」

「僕がもらった、僕だけの、どうして」

「……クソムカつくな」


 一人でもぞもぞ喋るウゼぇ顔面を殴ってやる。何を信じるかはこいつの勝手でも、みっともねえのは嫌いだ。


まんまるで泣きそうな目をしてるけど、操られてたとかカンケーないね。


「泣くな、お前に泣く資格なんてあるのかよ」

「ジコン様は、僕のことを理解してくれるはずなのに……どうしてっ」


 奪った奴は泣くことなんて許されない。

オレは頭が悪いかもしれないけど、それだけは、ちゃんと分かる。


「ぐす、ゔっ……」

「悪モン倒したつもりなのにスッキリしねえな……早く戻ってこいよ、ジジイ。」


 こいつを担いで逃げるのがジジイには一番負担がねえのは分かる。

でも、オレのフルオープンって入る事はできても出る事はできねえんだよなあ。


 頼られたからってカッコつけて隠さなけりゃよかった。

今回はキュリシカのターンでした。

次回はジコンに戻ります!

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