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第一話 老魔導士と新たな出会い

 「どうしたもんかなあ」


 先ほどからため息が尽きぬ。


まさか孫のように可愛がっていたクロードが、あんなに立派な目をするとは思ってもいなかった。

これが祖父離れと言ったものか。


「大金貨ならまあ二年は食いつなげるか?魔王のもとへ辿り着くには、腰が痛くとも一年半と見積もって……」


 追い出されたのは朝早くだ。夜に送り出すと周囲の目も多く、道中も危険――クロードなりの気遣いだったのだろう。

もっとも、荷をまとめたりしていたら結局、歩き始めた頃にはすっかり夜になっていたが。


(昔、魔王と一騎打ちをした時、確かこう誓い合ったはずだ――お互いの種族が憎み合う時代を終わらせ、歩み寄る未来を目指そう、と。)


 だが、最近の魔王の行動を見るに、その誓いは裏切られているように思える。

ならば、この目で確かめるしかあるまい。


――いやあしかし、やはり夜の森は治安が悪い。

クロードには「夜の森で張っている盗賊は、魔族の次に恐ろしい」と教えたものだ。

あちらにはリリスがついているから問題はないはず。


こちらも同様に、目の前の盗賊二人に対応することくらいは造作もない。


「おい爺さん、随分といい身なりしてるじゃあねえか」

「髪を伸ばしてるってことは金持ちか何かだろ?荷物をよこせ」


 一応まだまだ現役で伸び続ける髪はクロードが初給与で買ってくれた髪紐で結んでいるから、そこを褒めてくれたら金貨の一枚でもくれてやろうかとは思ったが。


「頭は別に居るな?最近腰が痛くて敵わんから勘弁してくれんか」

「お前がその荷物を全部……」

「痛い痛い《腰が痛い》」

「何だこのジジイ……あ゛!?腰がああああ……!!!」


 うっかり腰だけでなく、体の節々の痛みまで飛ばしてしまった。若者には理解しづらいが、相当辛いはずだろうな。


 状況がわかっていない方は良いとして、隠れて見ているもう一人には種明かしをしてやった方が良さそうだがの。


「この力は言葉に宿した魔力を相手の体に移すもの、簡単ではあるがやるにはコツが必要なものよ」


 ワシはただ、静かに言っただけだ。腰が痛いと。

だが、言葉は刃にもなる。もちろん物理的にも心理的にも……今のは後者のものだがな。


「ンだと!?とにかく早く直せよ!」

「それは木の上で見ている嬢ちゃん次第」


 木の葉があからさまに揺れた。

もうすこし我慢する事も覚えんと、いやしかし盗賊というなら短気くらいがちょうど良いのか。


 考えている内に木の上から降って来たのは年若い女の子だが、うん、この季節にしては肌の露出が多い。そろそろ氷結晶の落ちてくる季節も近いというのに。


「クソじじぃ、オレの仲間にかけた呪いを解きやがれ」

「先に仕掛けたのはそちらだろう」

「そんなものどうでもいい!呪いを解け……じゃないとブッ殺す!」

「汚い言葉を使うもんじゃあない、少し灸を据える必要があるようだな」


 喧嘩をふっかけられたのがワシならよかったが、これがクロードのように心根の優しい子供なら恐らくすぐに殺されているところだろう。


 反省させるなら痛みよりも恐怖が一番。

言魂を解いても直ぐには動けんだろうから問題もない。


「いてええええええ……!」

「おい、大丈夫か!」

「……言魂というのは強い思いがあるほど効く、脅しとして殺すと言うのは早いし易いが」

「だからなんだ爺さん!」

「殺意が足りん、殺すぞ」


 修羅場、戦争、決死戦。


静かに、背筋を凍らせるような声。しかし子供に言って聞かせるように。


 経験すればその回数に応じて言葉には真実味が増してくるもの、そういえばクロードも最近理解してきたところで……ああ、涙が出てきそうだ。


 目の前に広がる気絶した盗賊どもは次の街で衛兵に渡すとして、まだ根性のある方はどうしたもんか。


「クソが、オレの仲間を殺しやがったな」

「殺してはおらんが」

「あいつらと……ずっと一緒だったのに、ふざけんなよジジイ……!お前も殺して……」


冥土の土産とでも言いたいのだろうが、最後まで聞いてやる義理はない。

だが、向こうから飛びかかってきてくれるのは好都合。こちらから動く手間が省ける。


ナイフがひらりと月光を反射したその瞬間、

飛び出した奴の手首を掴む。

そのまま体をひねり、勢いのまま足元を払うと――


「ぎゃっ!」


悲鳴が風を裂いた。

そして一拍遅れ、軽い体を乾いた音とともに地面へと叩きつける。


骨もろくに仕上がっていない体では体重も勢いもたかが知れておろう。


「さて、衛兵に引き渡すには次の街に向かう方が早いな」

「クソが!この!」

「暴れると手首がねじ切れるぞ小娘……はあ、《縛れ》《浮け》」


 ツタの長い植物は拘束にちょうどいい。三人まとめて縛り上げたが、これなら呼吸も聞こえて安心だろう。


 それにしても――魔王討伐とは別の問題を見るとは。

あの小僧……いや、国王め。次に顔を合わせたらどうしてくれよう。


「クソがッ」


 突然仲間が気絶をすれば、仕方のない反応なのだろうがなあ。


「ワシが悪者みたいだろうに……泣くな泣くな。次の街にはツテもある」

「泣いてねえ!次ってどこだよ!」

「魔王の前にお前さん達を知り合いの衛兵に預ける。それが、ワシの“ツテ”だ」


 きっとあの衛兵ならこの子供達も安心して預けられる。

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