知ってる。小説で読んだ。
そもそも、皇帝がウィラードの弱みを握る為、クララベルを殺しまでしたのは、彼が蛮族・ゴーダ族を倒して服従させたからだ。
この世界に魔法はなく、まだ銃や大砲はないので基本、戦は剣や弓、槍などの武器を使って戦う。そしてゴーダ族は、棍棒を武器とし一人で数人から十人を倒せるくらいの戦闘民族だった。
そんな彼らの武力を手に入れたことで、それこそ帝位を簒奪されることを皇帝であり父であるルチアーノは恐れたのである。
「俺としては親が奴らとの戦で死んで、成人する前になったから……目的は仇討ちと、領民を守る為『だけ』だったんだよな」
(知ってる。小説で読んだ)
などと心の中でツッコミを入れつつも、クララベルは何とか驚いた表情を『作ってみせた』。流石に初めて聞いて、動揺や困惑しないのはおかしすぎる。逆に、どう勘繰られてもおかしくない。
そんなクララベルの努力が通じたようで、ウィラードは彼女を疑うことなく説明を続けてくれた。
「今回、俺が下賜された皇女を……あなたを妻として娶ることにしたのも、帝都に来たのも皇帝に無害だって思って貰う為だ。だから、あなたが殺されずに済んで良かったよ」
「……ええ」
物語では冒頭で死体でしたよ、とは言わないでおいた。クララベルとしても、死んでいたらウィラードが大変なことになっていたので、本当に生きていて良かったと思っているのである。
そんなクララベルに、ウィラードが更に言う。
「だから帝都まで行かなくて良い口実を得たのは正直、助かった。あとはこのまま領地に引きこもって、あなたとひっそり暮らせば皇帝達を刺激せずに済むだろう?」
「ひっそり」
「あなたがもし『訳あり』なら、このまま辺境……まあ、つまりは田舎だが。田舎で一緒に、静かに暮らしてくれないか? 式は挙げるし、人の目もあるから部屋は同じにするが、流石にいきなり妻とは思えないからすぐに手は出さない。衣食住保証するから、静かに穏やかに俺と暮らしてくれないか?」
「えっ、神かな?」
「えっ?」
あまりにも好都合な申し出に、ついついクララベルの本音が出た。
それにウィラードが驚くが、驚いたのはこちらである。
クララベルが死を免れたことが原因なのか、そもそも辺境伯が皇位簒奪しようとしない。まあ、物語通りなら自分は死んでいるのでここから先のことは本当に解らないのだが──取引に了承し、ウィラードと仲良くすることで快適に過ごせるなら、むしろ望むところである。
「あの、実は……」
流石に前世のことは伝えなかった。
しかし、それ以外のことを──クララベルが庶子であり、皇宮では使用人として暮らしていたこと。そして今回、ウィラードに対して優位に立つ為、クララベルは襲撃されたのだと明かしたのだった。




