デスヨネー、知ってた!
早速、その日の昼からベルは使用人として、城の厨房で働くことになった。ベルとしては何でもやるつもりだが、五歳の幼女だと身長が足りない。そんな訳で、まずは野菜の皮むきから始まった。
「チビ、なかなかやるな」
「あら本当、上手いじゃない」
使用人だから、とお仕着せのワンピースとエプロンに着替えて、髪をきっちり三つ編みにした上で三角巾を巻いた。そして厨房の隅にチョコンと座り、渡されたキッチンナイフで人参やじゃがいもの皮をむいていたら、料理長や料理を取りに来た侍女から感心されたり褒められた。
(良かった。前世のバイトが役に立って)
ベルは前世でスーパーの品出しから始まり、青果のカットや総菜のパック詰めなどをやっていた。更にレストランの洗い場に入り、その後は調理補助もやるようになった。他にも、シーツはぎやベッドメイク。あと、清掃作業もやっていたので、成長するにつれてベルは出来ることが増えてきた。
もっとも、デメリットもあった。使用人としての仕事が増える程、皇后や異母姉である皇女に何かと呼びつけられこき使われるようになったのだ。更に髪型や化粧、ドレスのチョイスにいちいちダメ出しをし、食事は一日二回なのに、朝食や夕食に行かせず食べられないこともあった。
(まぁ……気に食わないのも、解るけど)
オルランド皇国は、淡い色の髪色の民が多い。その中でも貴族や皇族は、金髪か銀髪であることが求められる。
平民の血を引いてはいるが、ベルは父であるルチアーノと同じ金髪碧眼だった。更に、ベルは亡くなった母によく似ている。皇族を、一時でも惹きつけた華奢で可憐な容姿。一方、皇后や義姉は美しいが、勝気な性格が出たきつい印象なのでそこも気に食わないらしい。
(空腹とかこき使われるのは辛いけど、死ぬよりはマシなのよね……婚姻が決まれば、城から出られるけど。襲撃は怖いから、このまま使用人ルートにならないかなぁ)
そう思っていたのだが、現実は無情だった。
……昨日、夕食後にベルは皇帝の執務室に呼ばれた。そして以前のような皇帝と皇后の他、皇太子である異母兄と皇女である異母姉までいる中で、ルチアーノとヘンリエッタはベルに言ったのだ。
「辺境伯が蛮族に勝利した。褒賞として明日、辺境領に向かって嫁ぐように」
「仮にも皇女なのだから、今後はクララベルと名乗りなさい」
デスヨネー、知ってた!
心の中で頭を抱えつつも、ベルは必死に顔に出ないように表情筋に力を込めた。そして少しでも有利となるように、深々と頭を下げて一同に言った。
「かしこまりました、陛下……荷造りをさせていただき明日、速やかに向かいます」




