こんな可憐な存在が、我らと同じ人間の訳がない!
玉座の間では言葉通り上座に玉座があり、領主とその妻が座って客人や家臣を出迎える。
そんな訳で小説ではクララベルが死んでいたので、ウィラードだけが座ってシグネとこの会話をしていた。だが今はクララベルが生きているので、領主・ウィラードの妻として彼の隣に座っている。
先程まで、クララベルは「萌えたシーンを間近で見られる!」と思っていたが──何故か、黙って話を聞いていただけのクララベルをウィラードとシグネが、更に跪くシグネの後ろにいた他のゴーダ族の戦士達がこちらを見ている。
(えっ……な、何……?)
訳が解らず、視線を揺らすクララベルを見つめながらシグネが口を開く。
「……妖精」
「え」
「他の者には見えないが、この地を訪れた我々に主を守るよう告げに来た妖精だと思っていたが……主にも、見えているのか?」
「ああ。我が妻だからな」
「妻……人間!?」
「「「「何っ!?」」」」
訳が解らないことを言うシグネに、驚いて声を上げるが──そんなクララベルにではなく、続けられたウィラードの言葉にシグネ達が驚愕する。と言うか、その表情はどこまでも真剣なのでどうやら冗談ではなく、本気でクララベルを『妖精』だと思っていたようだ。
人間だと思われていなかったことに唖然としていると、そんなクララベルの前でシグネ達が口々に言う。
「光を紡いだような髪! 空の青の瞳! こんな可憐な存在が、我らと同じ人間の訳がない!」
「小さいし、折れそうなくらい細いし……我が里の子供にも、負けそうじゃないか!」
「むしろ、こんな人前に出していいのか!? 良からぬ輩に攫われるぞ!?」
確かにゴーダ族は男達は勿論、女性であるシグネも背が高いし筋肉質なので、人種的に大柄なのかもしれないが──そこでふと、一人の男がハッと顔を上げて何かに気づいたように言う。
「……長。もしかして、だからこそ主は我らに、あの妖精を『守らせたい』のでは?」
「「「「なるほど」」」」
「違っ……」
「ああ、その通りだ」
小説を読んでいた限りでは、ウィラードがあの台詞で守りたいと言っていたのは領地であり領民だ。確かに、小説でもクララベルが生きていればその中の一人だったかもしれないが──今、シグネ達が言っているように、ピンポイントでクララベルを守りたいと言っていた訳ではない。
だから訂正しようとしたが、そんなクララベルの言葉を遮って何故かウィラードが頷く。
「人間だが、彼女はオルランド皇国の皇女だ。しかし……家族に虐げられていたので、俺がこの辺境に連れてきた。俺は下手に皇国に手を出して、皇帝達を刺激したくない。今まで苦労していた彼女には、この地で幸せに暮らしてほしいんだ」
「何? 皇帝達には、人の心がないのか?」
「崇めるならまだしも、虐げる?」
「しかし……確かにそんな外道なら、何をしでかすか解らんな」
嘘ではないがウィラードが何だか大げさに言うし、シグネ達がそれを真に受けて神妙な表情で頷いている。思いがけない展開に、クララベルがオロオロとウィラードを、次いでシグネ達を見たところでウィラードが安心させるように笑って言った。
「安心してくれ。俺達で、君を守るから」
「「「「「おう!」」」」」
ウィラードの言葉に、シグネ達も笑顔で頷くが──何と言うか、思っていたのと違う。恋愛関係になられては困るが、こんな風に同担(しかも推しがクララベル)になるとは思わなかった。
(い、いたたまれない。でも、何でか納得してるみたいだから……い、いいのかな?)
申し訳ない気持ちしかないが、推されているのに拒むのもいけないだろうと思い直し、クララベルは引きつらないように気をつけつつも微笑むのだった。




