このシーン、好きだったのよ!
「戦に負けたから、我らがあなたに従う。それはそうだ」
そこで一旦、言葉を切ってシグネは言葉を続けた。
「だが、我らはそもそも里を守ることも、栄えさせることも考えたことがない。我々は男は勿論、女も我のように武器を取る。子供と老人は里にいるが、彼らなりに戦の為に動いている。そんな我らを、使わないのか? 皇帝を討たないのか? 我らの主になるのなら、我らを活かせ」
怒鳴ってはいない。だが最初、静かに語り始めた声に熱や力が帯びるのを感じ、ウィラードの横で──つまり、最前列でシグネの主張を見ていたクララベルは、内心ときめきまくっていた。
(このシーン、好きだったのよ! 見た目のせいで迫害されて、北の荒野に追いやられて……でも、生きる為に戦ってきた一族で。帝国と戦ったのも、食料や衣料品を得る為で……それが、ゴーダ族の当たり前だったから)
彼らにとっての生は、戦ってその成果を得て死ぬことだ。
そんなシグネを始めとするゴーダ族が、ウィラードに負けた。そんな彼に従うこと自体は良いのだが、せっかくの糧を分かち合おうとするのが理解出来ない。戦わずに得ることは、ゴーダ族としては施しを受けるでことであり、戦士としての誇りを傷つけることだ。
そしてそんなシグネの言葉を聞いて、ウィラードは己とゴーダ族との価値観の違いに気づいて、素直に頭を下げるのである。そう、今のように。
「……すまなかった」
「っ、主たるもの、簡単に謝るなど……っ」
「過ちを認められない方が、人として問題だ」
「!」
軟弱者、と思いかけたシグネと背後に控える部下達だったが、顔を上げて続けられたウィラードの言葉に赤い目を瞠った。
そんな彼女達を真っ直ぐに見返し、玉座に座るウィラードが話の先を続ける。
「だが、こちらとしても言い分がある。ゴーダ族は皆、戦士なんだろう。ここだけの話だが、確かにゴーダ族の力を借りれば皇帝との戦にも勝てると思う。しかし、大切なものが傷つけられる可能性がある……それは、嫌なのだ」
そこで一旦、言葉を切ってウィラードが言う。
「俺は、ゴーダ族に勝ったことで皇帝に目をつけられている。俺の足を引っ張る為に、弱点を突かれると思う……其方らからすればか弱く思われるかもしれないが、俺はそんな存在を守りたい。だからゴーダ族にも、俺が守りたいものを共に守ってほしい。交易は、その礼であり報酬だ」
……会話は、小説の通りだった。このウィラードの言葉を聞いて、シグネは矛を収めるのだ。
けれどウィラードと、そんな彼に促されるようにシグネ達が見てくるのに、クララベルは「え?」と戸惑い固まった。




