そして、ベルは賭けに勝った。
温まって動けるようになったところで、ベルは母の亡骸を窓の雪(開けられるが格子があり、出ることは出来ない)で濡らした布で清めて、ドレスはなかったので比較的、綺麗なワンピースに着替えさせた。前世で、寝たきりの祖母の体を拭いたり着替えさせたり、葬儀の様子を見ていたことが役に立った。
これからのことを考えて、ベルは暖炉の前で毛布にくるまって眠る。
それから、部屋に朝日が射し込んで──血の繋がった、けれど家族とは呼べない人達が目を覚ます頃に、重ね着をやめて普段の簡素なワンピース姿になったベルは、扉に手をかけて思いきり声を張り上げた。
「誰か……誰か、来て……お母さんが、お母さんが死んじゃったの……っ」
亡くなるまで放置されていたが、死んだとなると流石に埋葬しなければ寒くても腐ってしまう。だからこう言えば、『皇族達』はこないとしても使用人達が来るだろう。
そして、ベルは賭けに勝った。いくつかの足音が近づいてくるのを聞いて、ベルは母の亡骸の傍らに移動した。
……清めたおかげか、その顔はただ眠っているだけのように見える。
『ごめんなさい……ごめんなさい、ベル……』
死ぬまで、自分のぬくもりを分け与えようとしていた。前世と違い、娘であるベルを愛してくれた女。
「……おかあ、さん……」
今まではその死と、前世を思い出したことでいっぱいいっぱいになっていたが──気が緩んだ途端、ポロポロと涙がこぼれ落ちるのを、ベルは拭わずそのままにした。
そうしていると外から扉が開けられ、使用人と思われる男性達が三人ほど飛び込んできた。
※
その後、母の亡骸は使用人達によって運ばれていき、ベルは皇帝の執務室へと連れていかれた。
そこには、皇帝であり父であるルチアーノと、その妻である皇后・ヘンリエッタがいた。帝国民らしい金髪と銀髪の美男美女だが、ベルとしては母と自分を軟禁した犯罪者だ。
……けれど、ベルはこれから彼らの機嫌を取って、生き残らなくてはならない。
(小説では、十六歳になるまでは生きていたけど……昨日みたいなことがあるのなら、状況を変えないと。子供一人でも、生き延びる為に)
声に出さずに決意を固め、ベルは二人に向かって深々と頭を下げた。
「どうか私を、ベルを、使用人として働かせて下さい。お願いします」
ベルの申し出に、頭の上で顔を見合わせている気配がする。
この世界で、平民の名前は三文字まで。そして、富裕層や貴族以上は四文字以上の名前なのだ。だから、平民の血を引く彼女は『ベル』と呼ばれたし、その後の物語の世界では『皇女』なのでそれらしい名前での登場となったのだと思う。
幸い名前には抵抗はないし、前世で色々バイトをしたので働くことに対しては全く抵抗はない。むしろ、再び軟禁されるよりは使用人部屋にいった方がマシな気がする。
「……己の分は、わきまえているようね。あなた? よろしいのではないですか?」
「ああ、そうだな」
「ありがとうございます!」
そして二人から思った言葉が引き出せたのに、クララベルは心の中でガッツポーズをした。




