汚物は焼却しないとな
こうしてアンドレア達は帝都へと戻り、クララベルはウィラードと同じ部屋で暮らすことになった。
元々、ウィラードの部屋が当主夫婦が暮らす部屋であり、引き戸で繋がっていたクララベルの部屋は、跡継ぎであるウィラードの部屋だったそうだ。
なお、アンドレアがクララベルを仮死状態にした上、連れ去って手を出そうとしていたことは公にはしていないが──話せこそするが、クララベルは薬のせいで丸一日動けなかったので、グローリアにはバレてしまった。激怒した彼女は目を据わらせ、クララベルとウィラードに宣言した。
「お兄様、お義姉様をお守りいただきありがとうございます……今後は、隣の部屋は我がラス家の、後継ぎの部屋となりますから。今の寝台や家具一式は焼き払い、一掃しましょう」
「や!?」
「ああ。汚物は焼却しないとな」
「そこは消毒じゃないの!? いえ、元ネタも火炎放射器で焼いてるけど!」
「「……しょう、どく?」」
つい某漫画の台詞と微妙に違う内容に、ウィラードの寝台に横たわりつつもツッコミを入れたクララベルだったが、そこで兄妹に不思議そうに言われたのに戸惑った。そして、二人から話を聞いてみて驚いた。
クララベルは、皇宮で働く使用人だったのでいびられることはあっても、荒事とは無縁だった。何でも戦場や、あと出産の時や大きな怪我をして血を流す時、手当てをする為や、そもそも医者が手を浄める医療用アルコールなどはないらしい。高濃度酒で消毒をすることもなく、ただ傷を洗って包帯を巻くくらいだとは知らなかった。
「確かに、かすり傷ならそれでも良いけど……消毒しないと雑菌が入ったり、熱が出たりするでしょう?」
「いや、それが当たり前だからな……だが、そうか。クララベルの言う『消毒』をすれば、傷の悪化や発熱を防げるのか」
「そうですね……そうなると、お義姉様? 家具を焼き払うのではなく、度数の高いお酒をぶっかければ良いんですか?」
「だ、駄目よ!? それはそれで、せっかくの家具が傷むから……でも、お酒を布につけて綺麗に拭けば、まだ使えるでしょう? まあ、確かにちょっと複雑ではあるけど」
クララベルの言葉にウィラードは感心したように頷き、グローリアが随分と思いきったことを尋ねてくる。彼女は真顔で、本気でやりそうなのでクララベルは慌てて止めたが──言いながら、寝台などはあっても困るかと思い直したりした。
「それなら間を取って、消毒して商人に買い取って貰いましょうか? それだと、使ってくれる人の手に渡るでしょうから」
「それは良いと思うわ!」
「……話がまとまったなら、クララベルはもう少し休め。俺は、隣で仕事をしているから」
「はい……ありがとうございます。ウィラード様」
「お休みなさい、お義姉様」
「ええ、グローリア。お休みなさい」
ついムキになってしまったが、言われてみれば動けないだけではなく、少し疲れてしまったようだ。それに気づいたウィラードがそう言ってくれたのに、クララベルは昼間だがありがたく甘えることにした。朝から食欲がなくてスープと薬を飲んだくらいだが、ひと眠りしたらお腹も空きそうな気がする。
とは言え、寝室に一人きりになったのに、クララベルは昨夜のことを思い出してつい肌を粟立たせた。けれど昨夜、一緒に眠ってくれたウィラードの匂いや温もりを感じて、すぐにクララベルはホッとして息を吐いた。
(ここは、私一人の寝室じゃない……ウィラード様の、匂い。安心するって、何か、変態みた……)
安心して気が抜けたのか、そこまで考えたところでクララベルは眠りに落ちた。




