ずっと、一緒がいい
クララベルが心配したのは、ウィラードが一喝することで皇帝に仕える『影』がどう動くかだった。
けれど、ここでアンドレアが『皇太子』だったことが幸いした。主である皇帝・ルチアーノの後継者を、万が一にもウィラードに斬り殺されない為だろう。刺客としてウィラードに襲いかかるのではなく、クララベルの部屋の外から、おそらく護衛として客室からいなくなったアンドレアを探しに来た体で「殿下!」と呼びかけている。
それにウィラードは、夜着姿で動けないクララベルを剥いだシーツで包み、再び腕の中に収めながら声を上げた。
「ハーラル! 外の者を中に入れろ、客人がお帰りだっ!」
「ハッ」
そんなウィラードの声に、部屋の外で待機していたらしいハーラルが応えて扉を開ける。そうした途端、数人の護衛騎士らしい男達が、急展開についていけず呆然と固まっていたアンドレアに駆け寄った。
「離せ! 僕はっ」
「我らはっ、殿下を無事に連れ帰るのが役目です!」
「っ!」
アンドレアを支えて退室しようとした者達を、咄嗟に振り払おうとしたが──そう言われてしまったら、反論出来ない。言葉だけではなく、ウィラードは腰の剣帯に剣をつるしている。先程の一喝は、裏を返せば蛮族と戦って勝利した『殺戮伯』が、退かないなら皇太子であっても切り捨てると言っているのだ。
アンドレアは悔しそうに顔を顰め、未練がましくクララベルへと目を向けてきた。けれどウィラードは、腰の剣の柄に手をかけながらも、もう片方の手でシーツで隠したクララベルを抱き寄せて睨み返した。
……先に目を逸らしたのは、アンドレアだった。
「ごきげんよう、殿下……ハーラル、辺境伯領を出るまで見送って差し上げろ」
「御意」
冷ややかにそう言ったウィラードの視線の先で、無言で立ち上がるとアンドレアと護衛達(おそらく『影』もいる)はクララベルの部屋を後にした。そんな彼らが、本当に領地を後にするか見送る為だろう。ハーラルが、ウィラードに頷いてみせて同じくクララベルの部屋を出ていく。
そして、二人きりになったところでウィラードは抱き締める腕を緩めて、クララベルの顔を覗き込んできた。
「動けるか?」
「い、いえ」
「……奴らは追い出すが、今夜は俺の部屋で寝よう。朝になったら、ひとまずグローリアの部屋にで」
「ずっと、一緒がいい」
「クララベル?」
「怖かった……組み敷かれた時、ウィラードが良かった、って……後悔、したの」
考える前に、そんな言葉が出てしまった。半分だけとは言え、血の繋がった兄に囲われそうになった恐怖からとは言え、随分と恥ずかしいことを言ってしまった。頬に熱が集まるのを感じながら、クララベルは俯いてポツリと呟いた。
「……はしたなくて、ごめんなさい」
「クララベル」
真っ赤になった頬に手を添えて、ウィラードがそっとクララベルの顔を上げさせる。
「俺も同じだから、安心しろ」
「ウィラー、ド」
「今日から、一緒の部屋で過ごそう。薬で力が入らない君に、無理強いはしたくないが……口づけて、いいだろうか?」
真っ直ぐに見つめて尋ねてくるウィラードに、クララベルは頑張って首を縦に振った。声は出るが、上ずって変になりそうだったからだ。
そんな彼女に微笑みかけると、ウィラードはその笑みを形造った唇を、クララベルの唇へと重ね──嬉しくて泣いてしまったのにウィラードが焦り、クララベルはつい笑ってしまうのだった。




