弟や異母兄じゃなく、大好きな人達となら
この物語の世界では、誕生日を祝うのは貴族以上だ。平民だと新年最初の日に、一歳ずつ加算するだけである。
そんな訳で、皇宮の使用人であり妾だった母も知識はあったが、クララベルの誕生日を祝う習慣はなかった。一般的な平民のように、新年最初の日にいつもの夕食の後に母がパンケーキを焼いてくれたくらいである。
(でも、それはそれで美味しかったし、嬉しかった……前世では、そうやって祝われたこと自体がなかったもの)
前世の両親は、女だったクララベルに勝手にガッカリし、更にその後、弟が生まれたことでクララベルに構うことをやめた。逆にクララベルが成長すると、今までの学費や生活費を返せと働かせた。特に貧乏ではなかったが、なまじ弟が優秀だったので進学や部活動など、お金はいくらあっても足りなかったからである。
しかも皮肉なことに、前世のクララベルと弟は同じ誕生日だった。
前世の両親は弟の誕生日だけを祝った。両親の影響で姉であるクララベルを見下していた弟も、ごちそうやケーキを分けてくれることなどなく、逆にみすぼらしい姉になどいてほしくないと言われた。だから食事を作ったり、ケーキを用意したり後はクララベルは働きに行っていた。
そんな訳で生まれ変わり、前世の記憶を思い出してからは──使用人として過ごし、誕生日とは無縁になったのでむしろせいせいしたものである。
とは言え、ウィラードに嫁いだクララベルをウィラードは勿論だがグローリアや城の者達も、更に領民達も誕生日を祝いたいと言ってくれた。
だから本日、クララベルの誕生日は急遽、辺境伯領の祭日となった。何ならパーティーを開こうかと言われたが、それはクララベルが何とか辞退した。
大好きな人達と、美味しいご飯を食べる。何ならクララベル自ら、フライパン料理を一品作ろうと思っていたのだが。
「殿下が来るなら、仕方ないな……そう、仕方ない。クララベルの誕生日だしな。仕方ない」
「ウィラード様」
「お兄様。そんなに言うくらい、楽しみにしてたんですね」
「ふふ……異母兄が戻ったら、作りますね」
それはアンドレアが来るとのことで却下となった。クララベルのフライパン料理が好きなウィラードが食べられないことにガッカリし、けれど主役に働かせてはいけないと己に言い聞かせているのが少し、いや、かなり面白かった。
……話は戻るが、皇太子であるアンドレアには当然、誕生日の知識がある。
「誕生日おめでとう。プレゼントのドレスやアクセサリーは、どうせなら直接つけたところを見たかったが」
「夫や義妹が、用意してくれましたので……ありがとうございます」
「……どういたしまして。君の部屋に届けさせたから、後で見てくれ」
「はい」
客室に案内後の、夕食の席。
自分の席に着く前に、アンドレアが話しかけてきたが──クララベルは、笑顔で一蹴した。彼女が身につけているものは言葉通りクララベルの瞳と同じ青のドレスやイヤリング、ネックレスや指輪に靴。全てがウィラードとグローリアが用意してくれたものである。
流石に受け取るの自体は断れないが、夫や義妹が用意したものを優先するのは不自然ではない。だから今回は気合いを入れてではなく、本心から笑ってアンドレアに答えた。




