誕生日と異母兄との組み合わせは最悪なの
前世の記憶が甦ったのは、五歳の冬だ。
けれどクララベルには、その記憶が甦るまでの現世の記憶もあった。そしてクララベルが五歳の時の秋、誕生日の日に異母兄であるアンドレアが、騎士を連れてやって来たのだ。
「……殿下」
「ああ、良い。かしこまるな……これを」
「まあ……娘の誕生日の為に、ありがとうございます殿下」
三歳年上のアンドレアは、両膝をついて頭を下げようとした母を制した。それから、手に持っていた赤い薔薇の花束を、クララベルの母へと差し出してきた。
ちょうどクララベルの誕生日だったので、母としては腹違いの妹へのプレゼントだと思って受け取ったが──クララベルとしては全くそうは思わなかったし、アンドレア本人からも逆に聞き返された。
「娘?」
「あの……娘は今日、誕生日で」
「違う。これは、お前にだ」
「え」
そう、赤い薔薇の花束は金髪をおさげにした幼女クララベルより、既婚者らしく金茶の長い髪をまとめ、軟禁されている為、より白くなった肌と細くなった首や手足により、可憐さと初々しい色香が同居したクララベルの母によく似合っていた。
しかし、母としてはクララベルより三歳年上とは言え、子供のアンドレアから花を贈られて困惑していた。
そんなクララベルの母に、アンドレアは安心させるように笑って言った。
「確かに、僕はまだ子供だが……すぐに、大人になる! そうしたら、僕の妾になってくれ! 父も認めてくれたから、安心しろっ」
「……さようでございますか。殿下が、大人になったら……で、ございますね」
「ああっ! じゃなあっ」
無邪気に酷いことを言うアンドレアに、母は明確に拒絶こそしなかったが──微笑むだけで、嬉しいとも受け入れるとも言わなかった。
しかし、母が笑顔を見せたことでアンドレアは満足してクララベル達がいる部屋を去った。
騎士がかけたのか、外で鍵の閉まる音がしたのに──おかげで、他の者達に見られないと思った瞬間、クララベルは母親に抱き着いた。前世の知識はなかったし、その時は『妾』という言葉の意味も解らなかったが、顔も知らない父が勝手にアンドレアに母を譲ったことは解ったので、悲しくて悔しくて仕方なくて母にしがみつきながら泣いた。
「まぁ、その後母は亡くなったので、幸いにも実現しなかったけど……そんな訳で、私の中で誕生日と異母兄との組み合わせは最悪なの」
「……それは、確かに最悪だな」
「ええ。今回の場合だと、絶対にグローリア狙いよ」
原作の小説でもそうだったが、クララベルが死んでいないのにやってくるとは。しかも先触れこそ来たが、すでに出発した後で事後報告だと言う。
「流石に妾とか、馬鹿なことは言い出さないと思いますが……」
「安心して下さい、お義姉様。色ボケ最低皇太子からの申し出は、妾だろうが皇太子妃だろうがお兄様が断りますから」
「呼び方、より酷くなったな……そして、俺か。まあ、俺だな」
アンドレアの訪問を聞きつけたのか、グローリアもやって来た。そして、クララベルを安心させようとして言った内容に、ウィラードがやれやれとため息をつく。
「泊まる部屋などはきちんとしますよ。手抜きして、付け入る隙を与えたくないですから」
「頼むぞ、グローリア……ちゃんと、断るから」
「……ごめんなさい」
ウィラードとグローリアとの会話に、申し訳なくてクララベルは謝った。しかし、そんなクララベルにグローリアはあっさりととんでもないことを言うのだった。
「謝らないで下さいね、お義姉様。いざとなればハーラルと既成事実を作るなど、対処法はありますから」
「へ? ……グローリアとハーラルって、そうだったの!?」
「いえ。ただ、色ボケ最低皇太子と比べたら、数百倍マシです……とは言え、お義姉様のお母様のことを考えると、処女にはこだわらないんでしょうか?」
「グローリア」
「……あー、人妻にも手を出していたから、確かにこだわらないかも」
「色ボケ最低無節操皇太子ですね。それなら髪を切って、修道院に駆け込みましょうか」
「グローリア」
真顔で言いたい放題のグローリアに対して、ウィラードは窘めるように名前を呼んだが全く効果はなかった。




