可愛くて小さくて可愛い
グローリア視点
グローリアは、姉妹が欲しかった。それは、事実で真実である。
しかし、同時にグローリアは思っていた。
自分には、兄であるウィラードがいる。だから戦場に赴く兄の代わりになろうとし、グローリアを妻として辺境を手に入れようとする男達など不要だと。
「だから、お兄様には早く結婚して欲しかった……ありがとう、お兄様。あんなに可愛くて小さくて可愛いお義姉様を連れてきてくれて」
「可愛いって二回言ったな?」
「大切なことですから」
侍女達にクララベルを任せたグローリアは、長旅に耐えた馬達に水を飲ませたり飼い葉を与え、ブラシをかけるウィラードの元へと向かった。
そして兄にお礼を言うと、笑いながらそう返された。それに答えて「そもそも」とグローリアは続けた。
「戦は終わりましたし、お兄様は可愛い伴侶を得ました。しかも、妾腹とは言え皇室の……これで、色ボケ皇太子がしゃしゃり出てきても断れます」
「田舎者の我が家に、権力が集まり過ぎてはな……奴らの当初の思惑では、殺された妻の代わりに皇室との結びつきをって狙いだったらしいが」
「チッ……あんな可愛いお義姉様を殺そうとした上に、その死を利用しようとするなんて」
普通、淑女は舌打ちなどしないが、グローリアは辺境の娘なので問題ない。彼女が見た目通りの性格ではないと、それこそクララベル以外は知っている。
そんなグローリアは、クララベルが父親である皇帝の仕向けた盗賊に襲撃されて、殺されかけたと知っていた。物語のような魔法はないが、ウィラードは人力──つまり、伝令を使って簡単な事情を書いた手紙を一足先にグローリアへと届けたのだ。
「確かに、お義姉様は可愛らしいけど……『お前の部屋の人形みたい』って。仮にも伴侶に、言う台詞?」
「事実だろう?」
「可愛いのは事実だけど、そうじゃなくて……お義姉様のこと、子供扱いしてない?」
妹である自分より、一歳とは言え年下のせいかもしれないが──女心が解っていないと睨みつけたが、すぐにグローリアは目を瞠った。彼女の目の前で、ウィラードが困ったように眉を下げ、頬を掻いているからだ。
「……子供って言うか。今まで大変だったみたいだから、美味いもの食わせたり、綺麗な格好させてやりたいと言うか……そういうのは、お前の方が得意だろう?」
『殺戮伯』の異名を持つウィラードが、身内以外の面倒は見られないからとさりげなく距離を置く傾向にあるウィラードが──子供扱いではなく、会ったばかりのクララベルを『守るべき存在』として扱っている。
そんな珍しい兄にやれやれと思いつつ、グローリアは腕を組み胸を張って言った。
「本来なら婚姻の時は嫁ぎ先に事前に連絡して、花嫁のドレスを作らせるのに……急に決まったからって一切、あちらから話が来なかったことについては理解したわ」
向こうの言い分としては「一日でも早く、皇女が嫁ぎたがっているから身一つで向かわせる」とのことだった。しかし、あれだけ控えめで可愛いクララベルを見ているとそんな我儘は言わないと解る。単に殺す気だったのと、そもそも使用人としてこき使っていたので服のサイズなど解らなかったのだろう。
「解ったわ、お兄様。全力でお義姉様をもてなすから、お兄様は私にくる縁談をしっかり断ってね」
「……さりげなく、お前」
「いいでしょう? もう私に『辺境伯のスペア』の役割はないんだから。これからは、好きに生きさせて貰うわ」
「お前は結構、好きに生きてるだろう?」
ウィラードからのツッコミは笑って流し、グローリアはクララベルの着替えにと、自分のドレスを用意する為に踵を返したのだった。




