小説だと格好良いだけだけど
ウィラードの言葉通り、その日の昼の馬車と護衛の馬は、移動に専念し。
地図で川や湖の場所を把握している彼らは、昨日のように暗くなる前に公道から外れ、テキパキと野宿の準備をする。昨日と唯一、違うのは調理担当の中に一つに縛っていた金髪を一つのお団子にまとめ、三角巾の中に収めた、エプロン姿のクララベルがいたことだ。そんな彼女は今日、同じく調理担当の──本来、彼がやる仕事ではないのだが、クララベルの護衛の為にいる──ハーラルに、笑顔でお礼を言った。
「ハーラルさん! フライパン、貸していただきありがとうございます!」
「いやいや。何個かありますし、皇女様の料理を手助けするよう言われてますから……俺らの分を、作ってくれるんですよね?」
「ええ。私とウィラード様と、あとハーラル様が食べるものを作ります!」
最初、イメージしていたようなこの場にいる者達全員分ではない。まあ、自分でも言ったが部外者の自分が作るものを、いくら目の前で作っても不安だろうから当然だと思う。
(と言うか、ハーラルさんごめん……でも小説だと格好良いだけだけど、厳つい男性が料理するのって可愛いなぁ)
にんじんの皮むきを手伝ってくれるハーラルに、クララベルはほっこりとした。
そう、主人公ウィラードの右腕なので、ハーラルも小説『英雄の天秤』に登場していた。一押しはウィラードだが、好きなキャラを助けてくれる頼もしい存在として、前世のクララベルはハーラルも好きだった。それ故、クララベルはこうして強面男性のハーラルと普通に話すことが出来るのである。
そんなハーラルや、ウィラードに食べさせたくて──クララベルは、鞄からあるものを取り出した。鞄に入れていたのは、フライパンとワンピースと髪紐。そして、蝋引き紙──パラフィン紙だ。
「……紙?」
「これは、こうします」
戸惑うハーラルの気持ちは解ったので、見ている前でクララベルは説明を始めた。
一枚目には千切りにしたにんじんと、それを薄く切った豚肉で巻いたおかずをパラフィン紙で包み、蒸し焼きにする為にフライパンの半分に置いた。
そして、もう一品はスライスした玉ねぎと塩漬け肉と水を同じくパラフィン紙に包み、スープを作ることにする。この世界のパンは基本、ハード(固い)パンで。それはそれで美味しいが、スープがあればパンをつけて食べやすくなると思ったのだ。前世だと仕切り付きフライパンがあるが、それはそれでずっとだと使いにくいので、前世ではこうしてアルミホイルやキッチンペーパーで代用し、一気に数点おかずやスープを作ったのである。
「普段なら、フライパンでしっかり一品作るんですけどね。野宿ならこうやって、一気に作れば良いかなと。今回は、食べる人数が少ないですしね」
「……成程。これは、興味深い」
それはそうだろう。パラフィン紙はパンや食材を包んで運ぶのに使われるが、こうして調理に使うことは今までなかった。なかったが、こういう使い方をすれば野宿での食事の幅も広がるだろう。
感心するハーラルの見る前で、クララベルはおかずとスープの二品を完成させ、皿とカップによそってウィラードの元へと運んだのだった。




