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019:派手な帰還

「あとどれくらいだ!」

「えっと……あ、後十分!?」

「――急ぐぞ!」

「あひゃああああ!!!」


 ワイバーンが更に加速する。

 既に陽が沈み昇っては繰り返し、朝になっていた。

 約束の時間までは残り十分らしく。

 アリスは懐中時計を確認してから戻していた。


 ぐんぐんとスピードを上げているが、ワイバーンも限界が近い。

 飲まず食わずで飛び続けていたからな。

 モンスターであっても申し訳なさは感じる。

 俺は両手を伸ばして風に振り落とされそうになっていたが。

 アリスはそんな俺を縄で縛ってくれていた。


 間もなく着く筈で――見えた!


 王都が視界に入る。

 ランスはにやりと笑って更に加速した。

 俺たちもそれに続いて加速し、王都へと迫っていく。


「さぁ準備をしろ! 悠長に着陸している暇は無いからな!」

「え!? じゃあどうやって……そういう事!?」

「あぁそういう事だ。頑張れよ、リーダー!」

「えぇ!? 何だ何だ!?」


 アリスが腰に手を回すように言ってきた。

 俺は言われるがままに腰を掴む。

 アリスは腰につけていた探剣で縄を千切っていた……ん?


 王都へと入ろうとすれば、下の兵士たちが慌てていたのが目に見えた。

 それはそうだろう。

 許可なくモンスターが侵入してきたら誰だって慌てる。

 攻撃されなかったのは俺たちが乗っていたからなのか。

 そんな事を考えながら、王都の中心で聳え立つ王城を見つめる。


 ワイバーンは限界まで飛んでいて、唾をだらだらと出していた。

 俺は頑張ってくれと鼓舞すれば、掠れた声で鳴いて降下していく。

 もう王城は目の前であり、この次はどうするのかと二人を見て――笑っていた。


「頑張れよ!」

「ごめん! ガンバ!」


 ランスは親指を立てる。

 アリスは謝りながら、ワイバーンの一気に旋回させた。

 その動きだけで俺は振り落とされてしまう。

 手に力があまり入っていなかったのもあるけど……え?

 

 

 俺は理解した。

 ワイバーンから振り落とされた俺が今どういう状況なのかを。


 

「うあああああ!!!?」


 

 絶叫――宙を舞う。


 

 両手を必死に振りながら、俺は王城のステンドガラスへと突っ込む。

 ガシャリと音を立ててそれが砕け散り、俺は中へと侵入した。

 ごろごろと床を転がっていきながら、壁にぶち当たって止まる。

 ぐるぐると目を回しながらも、何とか姿勢を直して周りを見た。

 すると、身なりにいい男たちが集まっており、その中心の玉座にはあの王様が座っていた。

 目の前には縄で拘束されているイシダが跪かされていて……おぉ。


「間に合ったぁぁ!!」

「……そのようだな。無礼者」


 俺は両手を上げながら喜ぶ。

 すると、周りを兵士たちが囲んできて剣を引き抜いてきた。

 俺は兵士たちに囲まれながら静かに両手を上げて……王が兵を退かせた。


「王よ! 城への侵入は重罪です! すぐにこの者を牢に」

「よい。許す……で、ドラゴンは討伐したのか?」

「おう! バッチリな。いやぁ美味かったなぁ」

「……で、それを証明できるものは持ってきたのか」

「…………あ」


 王の言葉を受けてぴしりと固まる。

 証拠となるものを持ってきたのかと問われれば答えようがない。

 何故なら、ドラゴンの体はばらばらになっていて。

 肉は料理で食べてしまった。

 後の素材はアリスが回収していたと思うが。

 それを持っているのはイシダの筈だ。

 しかし、イシダが拘束されている事から手違いがあったのかもしれない。


「え、えっとだなぁ。うーん」

 

 イシダが何もしていない筈が無い。

 完全に仲間を頼りにしてしまっていたからこそ俺は慌てる。

 俺自身もこんな場合を想定していなかったからこそ、此処まで何も持たず帰ってきてしまった。

 俺はだらだらと汗を流しながら視線をさ迷わせて――イシダが叫ぶ。


「王よ! 証拠は私がお持ちした筈です! あれこそがあの山脈にいたクリムゾン・ドラゴンの」

「――黙れ。私は奴に聞いておるのだ。関係の無い部外者は黙っておれ」

「……くっ」


 イシダの言葉は否定された。

 俺はどうしたものかと考えて……気配を感じた。

 

 隣を見れば黒衣の誰かが立っていた。

 全身黒づくめであり、顔すらも見えない。

 そいつは王に跪きながら言葉を発した。


「……発言の許可を頂けますか」

「……良かろう。申してみよ」

「ハッ……この男は確かに例のドラゴンを倒しました。私が証言します。証拠も此処に」


 男か女かも判別できない声だった。

 恐らく、魔法によって誤魔化しているんだろう。

 そいつは懐から布に包まれた何かを取り出す。

 兵士の一人がそれを受け取って中を確認すれば、それはドラゴンの骨の一部だった。


 宮廷魔法使いらしき白い髭の男が近寄る。

 その男が手を翳せば光が発生し……男は本物だと言う。


 王は目を細めながら助けてくれた奴を見つめる。


「……よもや、お前がその男を助けるとはな……良いだろう。認めてやる」

「おぉ!! じゃあ俺は無罪って事だな! なぁ!」

「……くどい……が、今後我が娘に何かをしようものなら、その時は……無知なお前でも分かるだろう?」

「あぁ、分かってるぜ! 一緒に酒飲むだけにしておくぜ!」

「……此処で、殺すべきか?」

 

 王は迷る素振りを見せていたが。

 イシダが必死に言い聞かせておくと言って矛を収めてくれた……別に飲むくらい良くねぇか?


 王は咳ばらいをする。

 そして、用件が済んだのならすぐに帰れと言ってきた。

 俺はよろよろと立ち上がりながら、ありがとうと伝えて去ろうとする。

 イシダも拘束を解かれていて……俺は助けてくれた黒衣の奴に視線を向ける。


「ありがとな! 助か……あれ?」


 手を出せばパシリと払われた。

 そうして、何も言わずにそいつは消えていった。

 姿を隠す魔法であり、奴は何も言わなかった。

 恥ずかしかったのかと思いつつ、俺はイシダと共に城を後にしようと――


「あぁそれと……このガラスは高いぞ?」

「えぇぇ!!? やっぱり払うのか!?」

「……当然だ。馬鹿……はぁぁ」


 王はにやりと笑って言う。

 俺は弁償する事になってしまい絶望した。

 イシダは呆れたように息を吐きながら、俺に肩を貸してくれた。

 また暫くは金を稼がないとと思いながら、俺たちはとぼとぼと歩いていく。

 

 廊下に出て歩いていけば、背後から声を掛けられた。

 見れば、あの時のメイドや護衛を引き連れたレインがいた。

 彼女は俺の体に巻かれた包帯などを見て絶句していたが。

 俺はにしりと笑って親指を立てる。


「ドラゴン、美味かったぜ!」

「……っ! そうか……ありがとう。民を救ってくれたこと、心から礼を言う……私に出来る事は」

「お? じゃ、また飲みに行こうぜ! 良かったら、王様も連れて来いよ!」

「おい! ケイン!? おま、死にたいのか!?」

「えぇいいじゃねぇか! 皆で飲んだ方が楽しいぜぇ?」

「……ふふ……分かった。父上にも伝えておく」

「お、王女殿下。お、お戯れは」


 イシダは顔面蒼白で止めていた。

 レインは冗談だと言いながら、静かに頭を下げる。

 俺は手を上げながら、またなと言って去っていく。

 王女は笑っていて、失恋も吹っ切れていそうだった。


 俺は全て丸く収まって良かったと心から思っていた――



 §§§

 


「……それで、お前たちは……本当にドラゴンを倒したのかよ?」

「あぁ、こうプスッと刺してな! いやぁまた食べたいなぁ」


 俺たちは酒場に集合し、そこに集まった冒険者たちに冒険譚を聞かせた。

 クリムゾン・ドラゴンとの戦いに新たな仲間との出会い。

 こいつらも根っこでは冒険が大好きなんだ。

 まるで、童心に返ったように目を輝かせて俺たちの話を聞いていた。


「ふん。ドラゴンくらい俺だって……クソ」

「おぉ? ザップもドラゴン討伐に行きたかったのか? 言ってくれれば連れてってやったのによぉ!」

「うるせぇ。俺は別に」


 あの時にダンジョンから生きて帰った山賊風の冒険者ザップ。

 その傷は完治しつつあり、そろそろ復帰すると言っていた。

 こいつはすぐに俺たちに礼を言ってきて、今までの非礼も詫びて来た。

 俺は別に気にしないと言ったが、この礼は何時かすると言ってきて。

 それを今夜に使わせてもらった訳だ。


 アリスはイシダと一緒に酒をたらふく飲んでいる。

 アイツはあぁ見えてかなりの酒豪であり、イシダも目をくらくらとさせていた。

 一方で伝説の存在であるランスは先ほどまでは一緒に飲んでいたが。

 次から次へと質問される事に嫌気がさして隅っこの方に行ってしまった。


 ……あぁやっぱり。この空気は最高だな。


 仲間と一緒に酒を飲み。

 自分たちの冒険譚を仲間たちに聞かせる瞬間。

 これこそが冒険の楽しみの一つであり、世界の共有と呼べるものだろう。

 俺たちは俺たちの冒険をして、こいつらもそれぞれの冒険をする。

 そうして、その話を聞かせる事で互いの経験に想いを馳せる。


 こんな時に飲む酒は最高に美味い。

 俺は大きな声で笑いながら、仲間たちとの時間を大いに楽しみ。

 店内には旅の音楽家が奏でる明るい音色が響いて。

 男たちは酒の飲み比べを始めていた。

 夜であっても賑やかであり、俺は酒を浴びるほど飲んでいった。


「あ、そういえば……なぁなぁ。聞いたか?」

「んあ? 何がだ?」


 近くに座っていた冒険者が俺に声を掛けて来た。

 何の事だと聞けば、近々、レーンヘイル領内の街で行われる一大イベントがあるらしい。


「降臨祭だよ! 降臨祭! 世界中の冒険者が集まる祭りで、聖心教の聖堂で神様がそいつの未来を見てくれるんだぜ」

「へぇ、そんな祭りがあったのか……それってさ。誰でも参加できるのか?」

「いやいや、最初に簡単な審査があるらしいぜ? 俺も詳しくは知らねぇが。参加した人間から聞いた話じゃ、特別な剣を持つらしいぜ?」

「特別な剣……? 変な審査だな」


 俺は酒を飲みながら話を聞く。


「まぁ行ってみろよ! ドラゴンを倒した男ってのは珍しいしよ。多分、資格は十分じゃねぇか? もしも、面白い未来だったらまた聞かせてくれよ!」

「……そうだな。ちょっと息抜きもしてぇし。行ってみっかな……ありがとよ!」

「おう。別にいいぜ!」


 男に礼を言う。

 男は手をひらひらさせながら、他の冒険者と降臨祭について話を始めた。

 俺はその降臨祭なるものについて考える。

 面白そうな祭りではあるが、別に自分の未来についてはそれほど興味は無い。


 未来ってのは分からないから楽しいんだ。

 どんな人間になれるのかを想像し、イメージに近づけるように進み続ける。

 だからこそ、苦しくても辛くても人生は楽しいんだ。


 俺はそう考えながら、酒を静かに飲む。

 まぁ別に未来をどうのこうの言われようとも関係ない。

 俺は俺がなりたい人間を目指すだけだ。

 例え、神様がどんな人間になると言っても、それが絶対じゃない。


「……降臨祭……神様ねぇ……そういえば、アイツは……」


 神という言葉を聞いてふと思い出す。

 何時だったか、神を名乗る何かの声を聞いた時がある。

 その時は聞き流していたが、もしかしたら俺も神の声とやらを聴いたことがあるのか。

 分からないが、もしも聞いていて無視をしたのなら……祟られるかぁ?


 神が人を祟るのかは分からない。

 だが、もしも降臨祭にその時の何かの声が聞こえたのならば……まぁその時は謝ろう。


 俺はそんな事を考えながら苦笑した。

 ドラゴン討伐は終わり、金はランスにくれてやった。

 ドラゴンの素材を売却するのは明日であり。

 アリスがそれは自分がやると言っていた。

 あの便利な魔道具のお陰であり、俺は仲間たちに頭が上がらない。


 アリスもイシダも、ランスもいなかったら俺は死んでいた。

 何時だって俺は仲間に助けられている。

 誰一人としていらない人間はいない。

 俺はこれも運命何だと思いつつ、瞼を閉じて人の声と音楽を聴いていた。

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