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018:刻限が迫る中で

 何も見えない……真っ暗だ。


 此処は何処だ……腹が減った。

 

 呼吸をしているのか。

 手足が見えないが、空腹を感じている事だけは分かる。

 俺は死んだのか。それとも生きているのか。

 死んでいるのなら此処はあの世であるが、あの世でも腹は減るのか?


 

 何も分からない。唯一分かるのは、目的であるドラゴンを倒した事だ。


 もしも、死んだっていうのなら――そんなの認めねぇッ!!


 

 まだ俺はドラゴンの肉を食っていない。

 アレを食わない限りはまだ目的を達成できていない。

 俺は必死に藻掻く、手足が見えない中で意識だけが動いていた。

 俺は必死に死というものに抗って……んあ!?


《――!!》

 

 声が聞こえてくる。

 遠くから聞こえてくる声で。

 何か香ばしい匂いまで漂ってくる。

 それは肉が焼けた匂いであり、俺はそれの引き寄せられるように動いていく。

 先ほどまで動けなかったのに、肉の匂いを感じた瞬間に意識が急速に浮上していく。

 俺はそのまま意識を――――…………




 …………――――目を大きく開く。


「うあぁぁ!!!!」

「ぎゃああああ!!?」


 眼前に肉が掲げられていた。

 ちらちらと振られているそれが目に映った瞬間に、俺は声を上げた。

 

 口を大きく開けて目の前の肉に勢いよく齧り付く。

 こんがり焼けた骨付き肉であり、それを思い切り齧った瞬間に肉汁が弾けた。

 俺はガリガリと骨ごとそれを喰らっていく。

 そうして、喉を鳴らして飲み込んで……っ!!


「うめぇぇぇ!!!!」


 まるで、ワインのような濃厚な肉汁にボリューム満点の肉。

 表面はパリッとしていて、中身は雲のように柔らかい。

 ぷるんとした食感であるものの、その肉から感じる圧倒的存在感だけはドラゴンだと分かる。

 噛む事に肉の旨味が口いっぱいに広がり、振りかけた塩やぴりっとしたスパイスが素材をうまく活かしていた。

 いや、それだけじゃない。

 甘さをほのかに感じる……そうか、“蜂蜜”か!


 肉を食いながらアリスを見る。

 アリスの目の下には少しクマが出来ている。

 彼女は得意げな顔で料理の説明をした。


「ふふ、それはドラゴンの肉をただ焼いただけじゃない……“サウザンド・ハニービー”が作り出す栄養満点の蜂蜜にどっぷりと肉を漬け込む事丸一日……そこから余分な蜜を除去してから、じっくりと弱火で肉を焼いていくのよ……塩だけじゃない、十種類のスパイスを調合したものを振りかけて十時間以上掛けてじっくりと焼いた特製のこんがり肉よ……仕上げにドラゴンの血で作った飲み物も飲みなさい。ポーションよりは安全に魔力が回復するわよ」

「……っ!!」


 アリスは隠し持っていた酒瓶を出す。

 俺はそれをひったくるように奪いぐびぐびと飲んでいった――う、美味いッ!?


 血と聞けばドロドロとしていてまずいような気がするだろう。

 しかし、ドラゴンの血は想像以上にサラサラだった。

 アルコールが含まれている上に、ドラゴンの血であるからか。

 飲めば飲むほどに失っていた魔力が蘇り、体中に熱が広がる。

 まるで、トマトのような味わいであり、抵抗感も全くない。

 俺はそれをぐびぐびと飲みながら、肉をまた頬張っていく。

 

「うぐ、あぐ……!!」

 

 ぐるりと首を動かして漂う匂いの下を辿る。

 すると、何かの葉っぱの上にこれでもかと肉が盛られていた。

 俺はそれに飛び掛かり、一つ一つを手に取って齧りついた。


 肉をバリっと噛み肉汁が噴き出して。

 口内を肉汁で一杯にしながらも、全くと言っていいほどのしつこさは無い。

 これを調理したアリスは天才だ。

 本来は硬いであろうドラゴンの肉を柔らかしているだけでも凄いが。

 それ以上に、旨味を損なう事無く十種類のスパイスを巧みな配分でまぶしていた。

 いや、まだだ、恐らく焼く時にも工夫をしている……香草か……美味い!


 俺は両目から涙をだらだらと流す。

 生きていて良かった。

 これを食べるまでは死んでも死にきれない。

 俺は葉っぱに載った肉を全て平らげる。

 腹は大きく膨らんでいて、体がころりと転がった。

 天井に腹を向けながら、俺は息を吐く。


「ふぅ、食った食った……寝るか!」

「……お粗末……って、寝るなァァ!!」


 瞼を閉じて寝ようとすれば頭を叩かれる。

 両手で頭を摩りながら見上げれば、怒りの形相のアリスがいた。

 彼女は寝ている暇なんて無いと俺に言う。

 どういう事なのかと聞けば、彼女は時間が無いと言った。


「アンタ、ほぼ一週間寝てたのよ!? ほぼ一週間よ!?」

「おぉ……わりぃ!」

「わりぃ、じゃないわぁ!! 処刑の日が近づいてんの!! もう残り二日しかないの! 分かってんの!?」

「え、そうなのか? うし、じゃ肉も食ったしさっさと行くか! よいしょっと――いででででで!!!」

「ちょ、ちょっと!? あぁもう……飯を作っておけって言われたから準備したけど……あいつぅ」


 体をゆっくりと起き上がらせようとした。

 しかし、その瞬間に全身から激痛が走った。

 少しでも体を動かせば強烈な痛みが走る。

 俺はどういう事なのかとアリスを見た。

 すると、家の扉が開かれて誰かが入って来る。

 視線を向ければにやりと笑うランスだった。


「くく、ようやく目覚めたか……気分はどうだ?」

「おう! いてぇけど。肉食ったから満足だ!」

「ふ、それだけの元気があれば十分だ……お前の仲間のイシダは先に王都へと向かった。お前は怪我がひどくてな。動かせば危険だったから残ってもらったぞ……さて、そこの女から聞いただろうが、もう時間は残されていない……言い残す事はあるか?」

「――無い! それに、まだ諦めるには早いぜ!! 今からでも走っていけば……っ!」

「怪我はまだ完治していない……底抜けの明るさは尊敬するが。諦めろ。今からでも国外へ向かえば」

「嫌だ! 男は一度決めた約束を破らない!! 俺は絶対に王都へ戻る!!」

「……それで無残に処刑されてもか?」

「――約束を破るくらいなら死んでやるよ!」


 俺はきっぱりと言う。

 すると、ランスは大きくため息を吐いて首を左右に振る。

 俺に呆れたような素振りだが、下からならその表情は見える。

 笑っており、喜んでいるようで……奴が顔を上げた。


「お前は本当に面白いな……負けたよ。サービスだ。王都へ“最短最速”で連れて行ってやる」

「お! 本当か! ありがとう!」

「ちょ! どうやって行くっていうのよ!? 今から馬車を使ったって三日は掛かる距離で」

「――誰が馬を使うと言った?」

 

 ランスがパチリと指を鳴らす。

 すると、外から何かの鳴き声が聞こえて来た。

 俺はアリスに支えられながら立ち上がり、ゆっくりと外へと出る。

 外にはワイバーンが二匹いる。

 俺はそれを見た瞬間にランスの考えを理解した。


「そうか! これなら!」

「あぁ、乗っていけ……じゃあな。達者でな」


 ランスはそう言って部屋の中に戻ろうとした。

 俺はそんな奴の肩を掴んで何処に行くのかと聞く。

 奴は俺に顔を向けながら「仕事は終わりだ」とだけ言う。

 俺はそれを聞いて納得し、にかっと笑った。


「よし、それじゃ一緒に行こうぜ!」

「……話を聞いていなかったのか? 仕事は終わったと」

「――仲間になってくれ! お前と一緒に冒険したいんだ!」


 俺はハッキリと伝えた。

 するとランスは「やっぱりか」と言う。


「……悪いがな。俺はこれから先、お前が思うような活躍は出来ないぞ? ドラゴンを見れば絶対に戦わない。他のモンスターであっても、積極的に戦う事は無い。精々がサポートくらいだ。そんな男がついていったところで」

「――いいじゃねぇか! お前はお前の好きなように冒険すればいい! 好きに生きて自由に旅するのが冒険だ!」

「……っ!」


 俺にとって活躍とか利益とかはどうでもいい。

 ただ好きな奴と一緒に冒険がしたいだけだからだ。

 弱くたって戦えなくたって冒険は出来る。

 俺はランスに手を差し伸べた。



 

「握れ。そして、来い――お前が欲しい」

「……く、くくく、くふふ……はぁ……お前は本当に愚かだよ……でも、そんな奴が俺は好きでな」



 

 ランスはゆっくりと俺の手を握った。

 俺は笑みを浮かべながら、よろしくと伝えた。

 ランスは静かに頷き、俺の事を“リーダー”と呼んだ。


「よせやい。ケインでもジョンでもいいからさ」

「いや、俺にとってはリーダーだ……こうやって呼ぶのも久しいな」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、何でもない……さ、そうと決まればすぐに行くぞ!」


 ランスが手を叩く。

 すると、その掌からあの黒い杖が出て来た。

 彼がそれを振るえば、彼の家が一瞬にして縮小される。

 手のひらサイズになったそれをランスは引き寄せてからポケットに入れた。

 そうして、これで大丈夫だと彼は視線を前に向けて――笑う。


「……ポック! 次に会う時は、料理を覚えておけよ!」

「……っ!」


 視線を向ければあの坊主頭の少年がいた。

 彼は建物に身を隠しながら此方を見てくる。

 そうして、ワイバーンに跨った俺たちに手を振って来た。


「絶対に帰って来いよぉぉぉ!! 待ってるからなぁぁぁ!!」

「……あぁ! 必ずな!!」


 ランスは手を振り返した。

 そうして、ワイバーンはゆっくりと上昇を始めた。


「……あ! 荷物が!」

「それなら大丈夫! 先にイシダさんが持って帰ったから! アンタの友人の証明になると思ってね! 念の為に私の荷物も預けたから!」

「……まぁ意味はないだろうがな」


 ランスは不穏な事を言う。

 そうして、ワイバーンは羽を羽ばたかせて大きく加速した。

 ぐんとスピードが上がり、俺たちはしっかりと背に掴まった。

 ワイバーンの全速力であれば、恐らく二日……いや、一日で着くかもしれない。


「待ってろよ、王様! すぐに行ってやるからな!」

「ひぃぃぃ速過ぎよぉぉぉ!!!」


 ワイバーンは鳴き声を響かせながら進んでいく。

 俺はそんなワイバーンの背中を撫でて鼓舞する。

 間に合うのか。否、間に合わせて見せる。

 絶対に俺たちの冒険を終わらせたりしない。

 こんなところで死んでたまるか。

 俺は生きてこの世界の全てを手に入れるんだ。


 世界の全てだ。

 ひどく抽象的な言い方だろう。

 誰も俺にとっての全てを分からない。

 話したところで分かってくれる奴も少ないだろう。


 そんな事をこの仲間たちに話せる時は何時か来る。

 少なくともそれまでは俺は死んでいられない。

 生きてやる。生きて、生きて――俺はこの夢を叶えて見せるんだ。

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