017:必殺の一撃
「うおあぁぁぁ!!!?」
ドラゴンがその巨体を震わす。
回転と共に振られた長く巨大な尻尾。
それが神殿の残骸を弾き飛ばしていった。
散らばった瓦礫が雨のように降り注ぎ、俺たちは体を転がし回避をする。
「ハアァァ!!!!」
イシダがドラゴンに飛び掛かる。
腹を見せないからこそ、その頭へと飛び掛かった。
魔力を研ぎ澄ませる事によって切れ味が増したのか。
イシダが両手の力を込めて突き刺した刀が僅かにドラゴンの額に刺さる。
ドラゴンは叫び声をあげながら、イシダを振り落とさんと頭を振るう。
イシダは必死に刀を握っている。
が、長くは保たないだろう――だが!
「ありがてぇ!!」
イシダが奴の注意を逸らしてくれた。
奴はイシダを振り落とす事で頭が一杯であり。
その腹が僅かに露出していた。
俺はすかさずそこへと走り込み――ドラゴンが口を開けた。
ブレスが来る。
そう察知した瞬間に、俺は体を地面に滑らせた。
頭上スレスレを奴の炎が飛び、俺は熱を感じながらもギリギリで腹の下に潜り込む。
そうして、魔力を剣先に集中させて――突き刺す。
「彗星・三連ッ!!」
「――!!!」
勢いのままに振るった刺突。
その三連撃が奴の巨体を僅かに浮かせた。
俺はそのまま地面を叩き、横へと転がるように避けた。
その巨体が地面に当たり、地面が大きく揺れる。
ドラゴンは腹から血を流しており、唸り声を静かに響かせていた。
確実にダメージが入っている。
この調子で行けば、奴も長くは――怖気が走る。
ドラゴンがカッと目を見開く。
瞬間、奴の体に魔力が流れていくのが分かった。
そうして、イシダの刀が激しく振動し――勢いよく弾かれた。
「イシダッ!!」
イシダは宙を舞う。
奴はそのまま体を回転させながら、地面に着地し――ドラゴンが飛び掛かる。
その大きな前足を振りあげながら。
体重を乗せた攻撃をイシダに振り下ろす。
大きく地面が揺れて雪が土と一緒に舞った。
俺はイシダの名を叫ぶ。
すると、煙は一瞬で晴れて――イシダが刀で奴の攻撃を防いでいた。
「うぐぅぅあああぁぁ!!!」
ギリギリであり、体が半分ほどめり込んでいる。
ドラゴンがイシダを押しつぶさんと力を込めていた。
バキリと音がしてイシダの体が更に地面にめり込んだ。
イシダは全身から血を噴き出しながらも持ちこたえている。
両腕でドラゴンの体重を支えていて――俺は奴へと飛ぶ。
一息で距離を詰めながら、剣に魔力を流し込んでいく。
中心を起点に渦を巻くように魔力を流せば、剣身は真っ赤に輝き――放つ。
斬撃を高めた一撃であり、それがドラゴンの体に触れて。
甲高い音を立てながら、奴の鱗を削り取っていく。
ドラゴンの巨体が僅かにだが傾いていた。
ギャリギャリと音が鳴り激しく魔力の火花が散っていた。
「行けェェッ!!!」
俺は叫ぶ――瞬間、俺の魔力が四散する。
空中を赤い魔力が無数に浮遊している。
まるで、魔法石がいくつも空中で漂っているようで。
俺はそれを見つめて――
「避けろッ!!!!」
「――!」
――イシダが叫んだ声が聞こえた。
ハッとして、俺は一気にバックステップで後ろに飛ぶ。
瞬間、浮遊していた無数の魔力の塊が爆ぜた。
閃光が眼前で迸り、俺は衝撃で後ろへと吹き飛ばされる。
ごろごろと転がりながら、俺はイシダを見た。
すると、ドラゴンの足が宙に浮いていてイシダが攻撃を仕掛けていた。
無数の風の刃がドラゴンを襲うが、それらは魔力の鎧で防がれる。
ドラゴンはそのままブレスを――違う!!
ドラゴンの体内の中心部。
心臓を起点として荒々しい魔力が何かと混ざっていた。
この目でハッキリと見えていた。
そこから練り上げられた魔力が渦を巻くように蠢いていた。
体内で蓄えられているそれ。
それが堰を切ったように奴の体から出て行こうと流れていき。
魔力によって炎の火力が底上げされて圧縮されて放たれるブレス攻撃は――俺は叫んだ。
「逃げろォォォ!!!」
「――ッ!!」
かつてないほどの危機感が働いた。
アレを受けてはいけない。
咄嗟にそう判断し力の限り叫ぶ。
イシダは防御の姿勢を止め、そのまま一気に横へと飛ぶ。
俺も同時に駆けだして、アリスも呪文の詠唱を続けるランスの前に躍り出る。
そうして、奴の体内で高められたそれが吐き出されて――赤黒い光の奔流が放たれた。
圧縮されて細く定まったそれは甲高い音が鳴り響いていた。
それが地面の雪を一瞬で蒸発させて、回避したイシダを襲おうとする。
俺はそんなイシダに追いつき、手をしっかりと握った。
俺は魔力を足に全力で流し込む。
そうして、歯が砕けんばかりに噛み締めて――跳躍。
ミシミシと足がから嫌な音が鳴った。
それでも俺は全力で上へと飛ぶ。
瞬間、奴の魔力で強化されたブレスが俺たちが元いた場所を通り過ぎていき、雪や柱が一瞬で溶かされた。
遥か上空から下を見る。
そこにはブレスによって出来た赤熱する地面が見えていた。
ズクズクに土や岩が溶けていて、それを見ただけでアレの威力は嫌でも分かる。
防御なんてものは意味がない。
触れれば最期であり、俺たちは覚悟を決める。
アリスは怯えながらも必死にランスを守っていた。
ランスは涼し気な顔で呪文の詠唱を続けている……流石に余裕そうだな。
アリスが守らずとも問題なかったんだろう。
流石は伝説であり、俺は冷汗を流しながら薄く笑う。
意識を一瞬で戻しドラゴンへと視線を向ける。
ドラゴンは再びブレスを放つ姿勢を取り、上空の俺たちに狙いをつけていた。
俺はイシダから手を離す。
そうして、互いに足をぶつけ合い――飛ぶ。
一瞬で放たれたブレスが俺たちがいた場所を通過していった。
空に向かて赤黒い光が勢いよく流れて行って。
俺たちはそれを見てから、剣を構える。
奴のブレスは勢いのままに障壁へと当たり――バキリと音がした。
「まずいッ!」
あのブレスの威力は今までの攻撃の比じゃない。
何度も受けた事によって障壁に亀裂が走っていた。
ドラゴンがにやりと笑ったような気がした。
奴は羽を広げて一気に羽ばたく。
そうして、障壁の亀裂に向かって飛んでいった。
俺たちは地面に着地し――何だ?
俺の剣に何かが流れ込んできた。
それは魔法であり、俺の赤黒い剣身が更に輝きを増す。
力だ。かなりの力を今、愛剣から感じていた。
前世でも滅多お目にかかれないほどのものであり。
この強力なバフを掛けたのが誰なのかはすぐに気づいた。
まるで、太陽の如き光量で――はは!
「詠唱完了……さぁ行ってこい!」
ランスが俺に指を向ける。
宙には奴が放り投げたスクロールが舞っていてそれから光が迸る。
瞬間、地面から魔法の鎖が出現し俺の体にそれが巻かれた。
ランスは腕を振るって俺事鎖を大きく回転させた。
俺はぐるぐると回りながらドラゴンを見る。
すると、奴は障壁へと突っ込みそのまま障壁を砕いて大空に飛んでいった。
ランスは鎖を回転させて、俺に巻いた鎖を解除させた。
そうして、俺は遠心力が加わった事で空を一時的に飛び、飛び去ろうとしたドラゴンの背中に飛び移る。
「う、ああぁぁ!!」
凄まじい速度で空を飛ぶドラゴン。
冷たい風が俺の体を襲い、腕の力を抜けば今にも振るい落とされそうだった。
ドラゴンは大きく上昇し、雲を突き抜けて遥か上空を舞っていた。
空が何時も見ていたものよりも青く、視線の先には白い輝きを放つ太陽が。
魔法を掛けていても呼吸が僅かにし辛い……何処まで高く飛んだって言うんだ。
「しのごの言っている、場合じゃねぇ!」
俺は必死にしがみつきながらも、己の役目を理解する。
この剣に纏わせた魔法。
これは剣の切れ味を底上げするだけじゃない。
対象の命を確実に終わらせるだけの力がある。
奴の硬い鱗の防御も関係ない。
魔力の装甲だって貫けるだろうさ。
……だが、何処にでも刺せば良い訳じゃない。
ドラゴンは既に全身に魔力を流している。
これでは如何に必殺だったとしても、奴を確実に殺せるかは賭けだ。
もしも、少しでも息があるのならこいつをなりふり構わずに逃走を図るだろう。
そうなれば他の村や集落を襲いに行く可能性だってある。
ちらりと確認したが、こいつは魔力の操作で治癒能力まで獲得していた。
出来ていた筈の傷が塞がりつつあったのが良い証拠だ。
どんなに強力であろうとも、一撃で終わらせなければ意味がない。
ランスは役目を果たした。
最後の仕上げは完全に俺の腕次第であり……燃えるじゃねぇか。
俺は腕に力を込めながら、ゆっくりとドラゴンの体を昇っていった。
もしも、刺すのであれば心臓が脳みそだ。
それ以外ではこの魔法の効果は薄い。
確実に一撃で始末する為に、急所以外の選択肢はない。
「まだ、まだぁ!!」
俺はドラゴンの背中のトゲに触れる。
そうして、体を起き上がらせながら着実に奴の頭部を目指して進んでいった。
すると、ドラゴンは俺に気づいたのか体を激しく回転させ始めた。
「うあぁぁ!!?」
俺はとげを掴みながら奴の振り落とし攻撃に耐える。
体が上下左右に揺れて、今にも空へと放り出されそうだった。
耳元で鳴り響き続ける風切り音に、ドラゴンの呼吸音。
ぐるぐると宙を回転していて、このままでは振り落とされるだろう。
どうすればいいのか――声が響く。
《行きているか? もう少し耐えろ!》
「この、声は、ランス!?」
《念波だ。今、ワイバーンを操ってお前の仲間と共に向かっている……よし、並んだ!》
俺はドラゴンが回転を止めたのを確認した。
そうして、視線を空に向ければワイバーンに跨ったアリスとイシダ、そして、ランスがいた。
アリスは魔法の矢を番えていた。
その魔法の矢は凄まじい光を放っていた。
ドラゴンはワイバーンに乗ったアリスたちを睨む。
そうして、今にもブレスによる攻撃をしようとしていた。
アリスは引かない。
真っすぐにドラゴンを見つめながら。ギリギリと弦を弾き絞っていた。
強く強く弦を引き絞り――放つ。
ドラゴンがブレスを吐こうとした瞬間。
奴の隙を縫うように飛翔する光の矢。
真っすぐに飛んでいったそれはドラゴンの頭部に向かい――ドラゴンが絶叫した。
頭部を激しく揺らしている。
その瞳には光を放つ矢が深々と刺さっていた。
奴は痛みに悶え苦しんでいて、飛ぶこともままならずに落下を始めた。
俺は急にドラゴンが落下した衝撃によって振り落とされる。
空を回転しながら舞い、俺は叫び声で上げて――誰かが俺の腕を掴んだ。
「……っ! イシダ!」
「ケイン! 行くぞ!」
「おう!」
イシダの背中へとつき、イシダはワイバーンを操って落下するドラゴンを追う。
ドラゴンは雲を抜けていき、地上に広がる平原が俺たちにも見えた。
凄まじい勢いで落下していけば、ドラゴンはその平原へと――あれは!?
落下している先に村がある。
そして、その村は記憶が正しければ俺たちがいた村だ。
ランスに念波で声を掛ければ奴も少なからず焦っていた。
これは完全ある計算外。ランスの息遣いでその動揺は分かる。
《また、俺は……俺がっ!!》
「ランス! どうした!? しっかりしろ!」
ランスが慌てている。
息遣いが乱れており、完全に動揺していた。
このままでは村にドラゴンが墜落し、村に甚大な被害が出る――それが奴を焦らせたのか。
《チィ!!!》
「ランス!」
ランスはアリスと一緒にワイバーンを操ってドラゴンを追う。
そうして、二枚のスクロールを展開し、発生させた魔法の鎖をドラゴンに巻き付けた。
鎖がぎちぎちと引っ張らっれて、反対からランスたちがドラゴンの落下位置を逸らそうとしていた。
高威力の魔法には長い詠唱を必要とする。
詠唱の短縮をしても、威力が足りない可能性の方が高い。
短い時間で考えたのがあの鎖で――ダメだ!
アレでは無理だ。あの巨体を引っ張るのは不可能だ。
ランスだって分かっている筈だ。しかし、それでもアイツは村の被害を食い止めようとしていた。
アイツのは表情を一瞬だけ見たが、初めて会った時のような軽薄さは無い。
必死であり命を掛けていて――分かったぜ。
「イシダ。お前の魔力を俺にくれ!!」
「――考えがあるんだな! 分かった!」
俺はイシダの手を掴む。
イシダもしっかりと俺の手を握って魔力を俺に流し込んできた。
他人の魔力を受け取った事によって体が少し拒絶反応を起こしていた。
頭がずきずきと痛み吐き気がして――関係ねぇ!
俺はありったけの魔力をイシダから受け取る。
そうして、イシダは俺の手を握りながらドラゴンへと追いつき更に落下し――
「決めてやれッ!!! ケインッ!!!」
「オウッ!!!!!」
イシダは俺の腕を掴んだまま腕を振るう。
俺はそのまま猛烈な勢いで空を飛ぶ。
そうして、ドラゴンの腹がそこにあるのが分かった。
奴の心臓の位置は分かる。
魔力を込めたブレスを放つ時に大体分かった。
俺はそこに狙いを定めながら、全ての魔力を剣に込めていく。
渦を巻くように剣先に魔力が集中し、螺旋のように切っ先から風が発生していた。
剣が激しく揺れていて、“愛剣・ブラッドムーン”が激しい声を上げていた。
まるで痛みに絶叫するような声であり、俺は我慢してくれと念じる。
限界まで。いや、それを超えても尚、魔力を込め続ける。
体から力が抜けていく。意識が朦朧としていた。
が、俺は根性で意識を繋ぎ留めながら、全ての魔力を注ぎ込み――今だッ!!
これが、俺が今出せる最大威力の技。
俺がこの世界で新たなに生み出した必殺の技だ。
さぁ喰らっておけ。お前が第一号であり、お前が俺の冒険譚に刻まれる――最初のドラゴンだッ!!
俺は剣を振るう。
勢いのままに剣を奴の腹に目掛けて振り――叫ぶ。
「――超新星ェェェェッ!!!!!!!!」
眼前を埋め尽くすほどの赤き光。
それが巨大な爆発を起こしたように膨れて広がり。
触れた瞬間に巨大なドラゴンの体が一気に折れ曲がっていった。
そうして、奴は悲鳴を上げる事も無く吹き飛ばされて――爆ぜた。
その巨体が目の前でバラバラに砕け散る。
空にはドラゴンの残骸が無数に散らばって、血の雨が村と平原に降り注ぐ。
俺はその衝撃波で体を大きく吹き飛ばされるが。
指一本たりとも体が動かない。
俺はひらひらと落下していって……誰かが俺をキャッチした。
薄く目を見開きながら見ればアリスだった。
奴は今にも泣きそうな顔で俺を見つめて何かを叫んでいた。
俺はにへらと笑いながらアリスに手を伸ばす。
親指を立てようとしたが、力が無くなってワイバーンの背中に手が落ちる。
ランスも振り返って俺の事をジッと見つめていたが、今、すごく眠くてな……。
「は、はは……どんな、もんだぁ……」
ドラゴンを倒してやった。
誰でもないこの俺がだ。
最高の仲間と共に成し遂げた成果であり。
俺は今日は最高にいい夢が見られると思いながら、静かに意識を闇の底へと沈めていった。




