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016:深紅の竜に挑む者たち

 ハイデン山脈を俺たちは登る。

 先頭には魔法使いであるランスが立ち。

 俺たちは彼に守られるようについていった。


 山を登れば登るほどに空気は冷たくなっていく。

 俺たちの装いは変わっており、皆が皆、持って来ていたコートを羽織っていた。

 対策は色々としてきたものの、それも僅かながらに冷たさは感じられる。

 もしも、何の対策もしてこなかったらと思うとゾッとするな。


「……」

 

 歩を進めながら、空を見上げる。

 そこには遥か空の上を滑空するモンスターの姿があった。

 

 時折、上空をワイバーンが飛行したり近くに止まったりするが。

 奴らは俺たちを視界に入れた途端、鼻を鳴らして去っていく。

 それもこれも、ランスが山を登る前にくれたこの“お守り”のお陰だろう。


 薄っすらと真っ赤に輝く鳥の羽がつけられた首飾りで。

 ランスの話ではこれは神鳥ガルーダと呼ばれる伝説級のモンスターの羽を模して作ったお守りらしい。

 所謂、贋作ではあるが。似たような性質を魔法によって再現させているからか。

 低級のモンスターは近寄ってこず。

 中でも、竜種のモンスターは警戒して襲ってこなくなるらしい。


 彼曰く、ガルーダは竜種にとっては因縁深い存在らしく。

 その恐ろしさは遥か古の時代からその血に染み込んでいるようだった。


 険しい山道を進みながら、俺はあの村が襲われた無かったのもこれのお陰では無いかと考えた。

 でなければ、ただの白鷺の枝だけで全てのモンスターが来なくなる訳がない。

 村のばっちゃんやじっちゃんはこいつに頼みごとをするなと忠告していたが。

 こいつはこいつで陰ながら人助けをしていたんだと思った。


 あまり話すなと言われたので黙っているが。

 もしも、無事にドラゴンを倒する事が出来たなら。

 こいつの事をうんと褒めてやりたい気持ちだ。


 それ以外にも、イシダが人術で俺たちの体に強化を施してくれた。

 身体能力の向上であったり魔力の自然回復の上昇。

 自然治癒能力も高めた上に、目に見えない勘の鋭さなどの上昇効果も加えてくれた。

 アリスもアリスで、持ってきたポーションの中で体を温めるものを俺たちに飲ませてくれた。

 空気が薄くなる事への対応策も用意していたらしいが、それはランスが魔法で解決してくれた。

 ランスが使った魔法は環境への対応を促す魔法で、空気が薄くなっても体の機能がある程度であれば素早く順応できる魔法らしい。


 便利な魔法を幾つも知っているんだと素直に言えば。

 伊達に何百年も生きてはいないと言われてしまった。

 本当に頼りになる男であり……ついてきてくれねぇかな。


 もしも、こいつがパーティに入ってくれたなら。

 きっとこれから先も楽しくなるだろう。

 一目会った時から、こいつとは運命のようなものを感じていた。

 絶対にこの先の冒険でも、このランス・ブルームの力は必要になってくる。

 いや、力がなくたっていいんだ。

 俺は俺が気に入って友達になった奴と一緒に冒険がしたい。


 俺はそんな事を考えながらランスをジッと見つめる。

 すると、彼は足を進めながらチラリと俺を見てくる。


「……何だ」

「……いや、楽しいなぁって思ってさ……なぁ、ドラゴンを倒したらさ。俺たちのパーティに入らねぇか?」

「……何言ってんのよ、アンタ」

「俺は一向に構わないぞ?」

「い、イシダさんまで……」


 アリスは気乗りしていなさそうだが。

 イシダに関しては別に問題ないようだった。

 俺はランスはどう思うのかと聞いてみた。

 すると、奴はにやりと笑いながら提案をしてきた。


「報酬の八割を俺に渡すなら、考えてやろう」

「……守銭奴め。誰がアンタなんかに!」

「……うーん。それは俺だけの問題じゃねぇから無理だ……じゃ、俺の取り分をお前にやるってのはどうだ?」

「……お前には欲が無いのか? それとも金の価値を知らないのか……」

「いや、金は大事だ。でも、それ以上に俺は仲間が欲しい! ランスとなら絶対に楽しい冒険が出来そうなんだ!」


 俺は正直に伝える。

 すると、ランスは少しだけ目を丸くする。

 そうして、前を向き直してから「変人め」と言う。


「…………冒険か…………ふん」

「絶対に楽しいと思うんだけどなぁ」


 俺は両手を後頭部に回しながら空を見る。

 ワイバーンたちがくるくると飛んでいた。

 周りの岩影には低級のモンスターが隠れている。

 とても和やかな会話をするような状況では無いが。

 ランスのお陰で全く怖くはない。


 これが歳の功かと思いながら、俺たちは山道を進んでいった。




「……アレだな」

「……あぁ、間違いねぇな。クリムゾン・ドラゴンだ」

「……でっか。ひぇぇ」

「……刃が通るかどうかだな。ふむ」


 頂上へとたどり着いた。

 風が少し強く、吹雪いていたがランス曰くまだマシらしい。

 途中から雪が積もっていって。

 ざくざくと雪の中を踏みしめて何とかたどり着いた。

 

 目標であるクリムゾン・ドラゴンは確かにそこにいた。

 朽ち果てた神殿の中で身を丸めながら眠っている。

 その体長は尻尾を含めれば恐らく、五十メーテラ以上はありそうだ。


 深紅の体をしており、その体には少なからず傷がついていた。

 背中からは黒いとげが何本も突き出していて、畳まれているが両翼はかなりの大きさだろうと予想がつく。

 周りにはモンスターの骨が無数に散らばっている。

 その中には冒険者が身に着けていたであろう皮の鎧や黒く煤けた壊れたヘルムが転がっている。

 かなりの数を食してきたんだろう。

 今も食事を終えて腹が一杯になって眠っているのかもしれない。

 

 多くの戦いを経験しているだけの風格を感じる。

 周りには手下のワイバーンはおらず。

 自分の縄張りには手下であろうとも近づけないんだろう。


「……アイツは夜に狩りに出かける。その方が獲物たちもトロイと気づいているんだ……馬鹿な冒険者が名を上げる為に奴に戦いを挑んだんだろう。その結果、人の味を覚えて人里を襲うようになった……よくある話だ」

「……此処までは来れたけど、勝てなかったって事ね」

「だろうな。アレほどの奴に何の準備も無しに挑んで勝てる方があり得ない……もう少しでも近づけば奴は気づく。俺はお前たちのサポートに徹するが。別に俺の方に敵が来ても助けに来る必要はない。お前たちはただ敵を殺す事に集中しろ」

「……作戦を聞いても?」


 イシダは説明を要求する。

 すると、ランスはこれから行う事を簡単に説明してくれた。

 俺たちはそれを素直に聞いてから、静かに頷く。


「……では、行くぞ。あまり時間を掛けていれば気配に気づかれる……お前の勧誘の話は生きて帰った後だ」

「……うし。行くぜぇ」

「腕が鳴るな」

「……わ、私には期待しないでよ」


 それぞれの気持ちを吐く。

 そうして、俺たちは立ち上がり剣を抜いた。

 アリスも弓と矢を掴み構える。


 イシダと一緒に視線を交わして頷き――俺たちは飛び出した。


 声を出す事も無く、全力で走る。

 すると、奴は一瞬にして眠りから目覚める。

 そうして、ばさりと翼を広げながら天高く咆哮を上げた。

 空気が激しく振動し、大地もぐらぐらと揺れていた。


「――突っ込め!」


 ランスが叫ぶ。

 瞬間、奴の周りから魔力が一気に放出された。

 それが一瞬にして俺たちを通り過ぎて遥か上空まで広がっていった。

 見れば魔法の結界が展開されていて、加勢しようとしたワイバーンたちを阻んでいた。

 これが奴の作戦の一つであるスクロールを使った取り巻きの遮断か。


 俺はにやりと笑いながら、ドラゴンに目掛けて駆けていく。

 瞬間、奴は頭を揺らして――俺たちは横に飛ぶ。


 一気に口から炎を吐き出した奴。

 紅蓮の炎が全てを焼き尽くさんと広がっていく。

 地面を転がりながらアリスを見れば、魔法の障壁によって守られていた。

 アレはランスの魔法であり、ブレスを防ぐ為のものらしい。

 魔力の消費が激しいからか、俺たちには掛かっていない。

 

 アリスは頷きながら、矢を番えてドラゴンに放つ。

 それは魔法の矢であり、それが竜に触れた瞬間――奴は体をびくりとさせた。


 体が一瞬だけ硬直した。

 魔法の矢の効果である石化であり、奴の動きが止まる。

 それによりブレスが中断された。

 俺たちはその隙を見逃す筈もなく、一気に間合いに入る。

 そうして、剣を振るって――うぉ!


 奴が体を回転させる。

 硬直が瞬く間に解かれて攻撃を仕掛けて来た。

 尻尾による攻撃であり、俺とイシダは咄嗟に防御をした。


「ぐあぁ!!」

 

 体が曲がっていき、剣が悲鳴を上げていた。

 勢いのままに振りかぶられた攻撃はそのまま俺の体を大きく弾き飛ばす。

 真面に喰らった事で体が回転しながら宙を舞う。

 俺は神殿の柱を壊しながら地面を転がった。


 すぐに体勢を立て直しながら、奴を見る。

 すると、羽を広げながら上空へと飛んでいった。

 だが、障壁があるからこそ自由には飛べない。

 奴は煩わしそうにその障壁を破壊しようとして――地上から光の鎖が飛ぶ。


 ランスを見れば、空中にスクロールを展開していた。

 それによって発動した魔法であり、光の鎖がドラゴンの体を絡めとる。

 動きを強制的に封じられてドラゴンがもがいていた。


「今だ!」

「「おう!」」


 俺とイシダは一気に駆ける。

 光の鎖に飛び乗り、そこを駆けあがっていった。

 そうして、ドラゴンの下まで一気に辿り着き刃に魔力を流し込む。

 切れ味を限界まで底上げし、俺たちは力の限り剣を振りかざし――甲高い音が鳴る。


「かてぇ!!」


 鱗に阻まれた。

 かなりの強化を施したはずだ。

 それなのに、鱗に薄く傷を作っただけに終わる。

 剣がびりびりと振動し、腕が痺れていた。

 イシダも同じであるが、俺たちはそれを無視して更に攻撃を仕掛けて――!


 鎖がぶちぶちと千切られて行く。

 ドラゴンの体が激しく動き、俺たちは強制的に振り落とされた。

 空中から地面へと落下していき、俺は体を回転させながら地面に着地した。


 ドラゴンは全ての鎖を引きちぎる。

 そうして、怒りに満ちた咆哮を上げながら此方にブレス攻撃を仕掛けて来た。

 俺たちは堪らず地面を転がりながら回避する。

 奴は一直線に炎を吐き出しながら空を飛行し、アリスはそんな奴に目掛けて矢を放っていた。

 が、アリスが魔力で強化しただけの矢では奴の硬い鱗を貫けない。


 俺は剣を握り直しながら、たらりと冷汗を流す。

 ドラゴン――この世界でもやはりかなりの強敵だ。


 心が躍る。

 恐怖よりもワクワクが一杯で笑みが止まらない。

 俺は勢いよく駆けだしながら、魔力を剣に流し連続して振るう。

 斬撃を飛ばせば、ドラゴンはそれに当たり少し姿勢を乱す。

 が、碌なダメージにはなっていないようで怒りだけを積もらせた。


 奴は真っ赤に充血する目を俺に向ける。

 翼をはためかせて――眼前に竜のか顔が迫る。


 一瞬にして俺との間合いを詰めた。

 心臓の鼓動が早鐘を打ち、全身に怖気が走る。

 ゆっくりと感じる時間の中で、奴が口を大きく開けていくのが見えていた。

 あの図体でこれだけの動き――回避は間に合わない!


 俺は覚悟を決める。

 そうして、全力で魔力を剣と体に駆け巡らせた。

 

 

「来いやァァァ!!!」

「――ッ!!!」

 

 

 奴が眼前で大きく口を開いた。

 その中から猛烈な勢いで炎が噴き出し俺を包み込もうとする。

 特大の炎のブレスによる攻撃を俺に放ってきた。

 俺はそれを魔力をたんまりと流した込んだ剣を盾にして切り払っていく。


「ぐぅぅあああああぁぁ!!!!」

 

 強力な火力であり、その熱の余波だけで体が焼かれてしまいそうだ。

 刃に添えた手から肉を焼く音が聞こえてきて。

 俺は歯を食いしばりながらそれに耐える。


 熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――アッチィィなぁぁぁ!!!

 

 奴が上空を通り過ぎていき、俺の体は一気に冷たさを感じた。

 体中から焦げ臭い臭いが漂ってきやがる。

 ぷすぷすと煙を発生させながら、俺は笑みを深めて奴を睨む。


 俺は剣を強く握りしめて、その場から駆けだした。

 奴が優雅に飛んでいる中で、奴の腹の下で走る。

 そうしてその隙だらけの“腹”を狙って剣を全力で振るった。


 ――鱗がダメなら、それがない腹ならどうだ!

 

 体を回転させながら放つ魔力の刃。

 魔力を全力で込めた斬撃が飛翔し、青い光の刃が奴の腹に触れて――ドラゴンが叫ぶ。


 うっすらと筋が入り、そこから血が噴き出した。

 真っ赤な鮮血が宙を彩り、空を舞う雪を赤く染めていく。

 ドラゴンは叫びながら姿勢を乱し、障壁に体を打ち付けた。

 バチバチと障壁から音が鳴り、そのまま奴の巨体が地面に落下した。

 大きな地響きを盾ながら墜落したそれが、殺気を多分に含んだ視線を俺に向ける。


「はは、当たりだ……だが」


 ダメージは薄い。

 奴はそのまま姿勢を低くして弱点である腹を隠す。

 ジッと俺を睨みながら、炎を発射する姿勢を作っていた。

 俺はそんな奴を警戒しながら、どうしたものかと考える。

 アリスを見れば神殿の残骸に体を隠して隙を伺っている。

 イシダも奴の側面へと回り込もうとしていた。


 ランスは……準備中か。


 奴は呪文を詠唱していた。

 その間は無防備であるが。

 今、ドラゴンのヘイトは完全に俺に向いている。

 奴もそれを知っているからこそ、呪文の詠唱に取り掛かったんだろう。


 俺は少し焼けた手で剣を握り構える。

 強敵であるドラゴンとの熾烈な戦いに挑む。

 

 生きるか死ぬかの戦いだが。

 これほどまでに心がワクワクする事なんてそうはない。


 俺は笑みを深め目を輝かせながら奴を見つめる。

 さぁ殺ろうぜ――どちらかが死ぬまでなァ!!

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