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015:過去の傷と黄金の魂(side:ランス→ジョン)

 村の皆が寝静まった時間。

 ほんのりと白い光を放つ魔法石に照らされながら、魔力を溶かしたインクで術式を書き込んでいく。

 一言一句違う事無く、慣れ親しんだ作業を手早く済ませていった。

 家の地下にある作業場では邪魔する奴はいない。

 眠気覚ましの薬湯を飲む事も無く、俺は黙々と必要な道具の仕込みを済ませていく。

 久しぶりのドラゴン討伐の依頼だが……いや、俺は違うか。


 あくまで俺は奴らの協力をするだけだ。

 ドラゴンを討伐できるかは奴らの腕次第で。

 もしも死んだとしても、金は貰っているので関係ない。


 死ねばそれだけの実力だっただけだ。

 俺には関係ない事であり、祈ってやる事くらいしか出来ない。


「……まぁ最低限、守ってはやるがな……よし」


 “スクロール”への術式の書き込みを終える。

 最後の一巻きであり、俺はそれを手早く丸めて特別な魔力を練り込んだ糸で封じる。

 呪文を唱えて中の術式を止めておく。

 これで紐を取れば自動的に中に書き込んだ術式が発動するだろう。

 合計で十個のスクロールだが、これだけあれば十分だ。


 俺は一息つきながら、軽く汗を拭った。

 今頃、奴らは明日の討伐の為に早めに寝ている頃だろう。

 俺自身も久々の大きな仕事であるから早めに寝ておきたい。


 俺は床に手をつきながら天井を見上げた。

 目を閉じれば昔の事を思い出してしまう。

 百五十年も前の事が、今でも記憶には残っていた。


「……ベリル、ゼス、ケイシー……リーダー」


 竜狩りという言葉を久々に聞いたことで、また過去を振り返ってしまう。

 もうアイツらはこの世にはいないのに、だ。


 ドラゴン討伐の任務を主に請け負ってきて。

 達成した依頼は数知れない。

 上級を超えるようなドラゴンだって討伐してきた。

 俺たちは無敗の冒険者パーティで……だからこそ、驕っていたんだろう。


 

『父さん! 母さん! うわああああ!』

『誰か!! 誰かぁぁぁ!』

『こっちにも来てくれ!! 子供が瓦礫に埋まっているんだ!!』

「……っ」


 

 あの日の地獄が今でも記憶に焼き付いていた。

 轟々と燃え盛る炎の中で蠢く巨大な影。

 巨大な漆黒のドラゴンがワイバーンを引き連れて街を襲う光景だ。

 死んだ子供の光の消えた目が俺を見て、その両目からは涙が流れて行っていた。

 泣き叫ぶ住人たちの声に、逃げまどう女子供を喰らうワイバーンたち。

 

 

 俺が犯した過ち。それが招いた結果であり……それからだ。


 

 俺は竜を殺す事が出来なくなっていた。

 いや、精確に言うのであれば“臆病”になってしまった。


 ドラゴンとの戦闘を極力避けてきた。

 万が一にでも戦闘になるのであれば、戦うのではなく逃走を選んできた。

 それも出来ないのなら、あの手この手で敵の動きを封じて逃げる。

 もう二度と軽はずみな行動によって間違いを犯さないように……いや、違うな。


「……責任を負いたくないだけだ……俺の行動で運命を決めたくないだけだよ」


 俺はただの臆病者だ。

 そして、世界で一番の卑怯者でもある。

 俺が戦う事で救えた命がある筈なのに。

 俺は周りから責められるのが怖くて、逃げ続けて来たんだ。

 

 パーティを勝手に抜けて、俺はそれからずっと全てから逃げて来た。

 かつての伝説はただの腰抜けになっちまったが……アイツらは違う。


 俺とは違い、何時だって前を見ていた。

 どんな逆境も跳ね飛ばし、失敗をしても立ち上がり前へと歩みを進めた。

 俺はそんな馬鹿みたいに笑う仲間たちが大好きで尊敬していた。

 アイツらよりも年上のこの俺が、心の底からアイツらの友達とありたいと思ったんだ。


 ……が、もうアイツらはいない。謝る事も、殴られてやる事も出来ないんだ。


 悔しいし、今でも後悔している。

 過去に戻れるのであれば、過ちを正すだろうさ。

 そうして、また一緒に冒険へと出かけて……。


「……チッ……寝るか」


 俺は魔法石に手を翳す。

 そうして光を消してから、敷いていた布団の上に転がる。


 しみったれた天井を見つめながら、俺は今日出会った奴らの事を考えた。

 一人は金にがめつそうな女で、もう一人はクールを気取った老け顔だ。

 そして、あの男が最も俺の興味をひきつけた……アイツは一体、何者だ?


 こっそりと魔法を使って奴を分析しようとした。

 魔力量はそれなりに高く、優秀と呼ばれるくらいの冒険者だろう。

 筋力などはかなりのものであり、俺の見立てではAランクかそれ以上の冒険者並みだ。

 しかし、何よりも俺が驚いたのは奴の魂の輝きだ。


 

 まるで、“黄金”――いや、“太陽”そのものだ。


 

 少しの陰りも無く、一部の隙も無い光の塊。

 常にあらゆるものを明るく照らし、熱く燃え滾ったそれは見た事が無い。

 英雄なんて呼ばれた奴は腐るほど見てきたが。

 奴ほどに光に満ち溢れた魂を持つ存在はいなかった。


 アレは人間なのか……いや、でも悪くはねぇ。


 アイツには間違いなく英雄になる素質がある。

 そして、奴からは竜狩りのパーティを纏めた俺たちのリーダーの面影を感じた。

 楽観的でありながら、誰よりも仲間の身を案じ。

 暑苦しいが、すっぱりとした性格の男。

 


 

『分かってるよ。けど、アンタほどの男を雇うっていうのなら、これくらいは当然だろ?』

「……ふ、リーダー以来だぜ。そんな事をハッキリと言ってきた奴は」




 ドラゴンなんかと関わりたくは無いが。

 アイツが何をするのかは気になる。

 もしかすれば、アイツの何かが俺の臆病さを消してくれるんじゃないかと思って……やめだやめ!


「たく、何考えてんだ…………そういや、名前…………また聞けば、いい、か…………」


 眠気が襲ってくる。

 俺はゆっくりと瞼を閉じた。

 意識が静かに沈んでいって、俺はそれに抵抗する事無く――――…………



 〇〇


 

「ふ、ああぁ……やっぱりまだちょっと暗いわね」

「まぁ時間が時間だからな……で、どうする?」


 アリスが眠気を表すように欠伸をする。

 イシダは冷静に空を見ながら俺にどうするのかを尋ねた。


「決まってるだろ……アイツを連れて行く」

「……まぁ金も払っているしな。当然か」

 

 空にはまだ陽は昇っていない。

 少し暗いが、何も見えないというほどではない。

 俺たちは足を進めながら、宿屋を出てランスの家を目指した。

 途中でじっちゃんばっちゃんから挨拶されたが、何処に行くのかは誤魔化しておいた。


「……ん?」


 ランスの家に着いた。

 が、人の気配がまるでしない。


 念の為に扉に近づいてノックをするが。

 今度はロックが解除される事も無かった。

 それを見ていたアリスがキッと目つきを鋭くさせながら扉に近づく。

 そうして、乱暴に扉を叩きながらランスの名を呼んだ。


 が、やっぱり反応は返ってこない……やべぇ。


「――あのクソエルフゥゥ!! やぁぁぁっぱり私たちを騙したなぁぁぁ!!」

「おいおい、アリス。時間を考えろって。若い奴らはまだ寝てるんだぜ?」

「あ、そうか――って落ち着けるかぁぁぁクソボケぇぇぇぇ!!!」


 アリスは俺の服を掴む。

 そうして、激しく揺すって来た。


「アンタは悔しくないの!? 全財産取られたのよ!!? 無一文よ!!!?」

「ああぁぁ……ま、いいじゃん! また稼げば! ははは!」

「何処まで能天気なのよぉぉぉ!! ちょっとは怒れぇぇぇ!!!」


 笑いながら揺さぶられる。

 イシダは大きくため息を吐いてからそこまでにしろと言う。

 アリスは俺の服から手を離し、地面に手をついて項垂れていた。


 まぁアリスが言いたい事は分かる。

 こいつは自分の金じゃないのに、此処まで怒ってくれていた。

 本当に優しい奴であり、感謝しかない……でも、俺はアイツが逃げたなんて思っていない。


「アリス、アイツは来るよ。逃げてなんかいないさ」

「……何で、そう言えるのよ。会って間もないのよ? それに」

「――それでもさ! 俺はアイツを信じるって決めたんだ! だから、此処で待つ!」


 俺は堂々と宣言する。

 そうして、どかりとその場に座り込んだ。

 イシダはくすりと笑い、アリスは信じられないものを見る目で俺を見て来た。


「……っ。来ないわ! 絶対に! もうあんな奴は放っておいて行きましょう! こんな所でアイツの為に時間を割いてたら……アンタ、間違いなく処刑されるわよ?」

「分かってる。けど、俺は約束した……男は一度交わした約束を破らねぇ」

「……死んでもいいの? 私たちに時間は無い。このまま冒険が終わってもいいっていうの?」

「終わらねぇよ。冒険はこれからだ!」

「……あぁもう……勝手にしろ!」


 アリスはそう言って壁に背中を預ける。

 イシダも頷きながら俺の隣に腰を下ろした。

 俺は二人に礼を言いながら……ふふ。


 

「……出て来いよ。いるんだったら、そう言えよ」

「……え?」


 

 アリスは驚いたような声を上げた。

 すると、くつくつと笑う男の声が聞こえて来た。


 空間が揺らいで灰色を基調としたローブを纏った男が現れる。

 その手には飾っていた黒い大きな杖を持っていた。

 背中には大きなリュックを背負っていて、中から魔法の気配を複数感じた。

 フードの中には目を細めながら笑うランス・ブルームの顔がある。


「……なるほど。何となくお前たちの事情が分かったぞ」

「あ、アンタねぇ!!」

「カッカッカ! そう怒るな。ちと試しただけだ……お前、何の罪を犯したんだ?」

「いや? 罪なんて犯してねぇよ。ただ、王女様と一緒に寝たら王様が激怒してよぉ」

「ぶふ!! く、くくく……ね、寝た……あははははは!!! お、王女と寝たぁぁ!!? あははははは、こ、こいつは傑作だぁぁ!! こんな馬鹿な話、今まで聞いたことも無いぞ!! はははは!!」


 ランスは馬鹿みたいに笑っていた。

 アリスは舌を鳴らし、イシダはため息を吐く。


「――はぁ、笑った笑った……気に入ったぞ。俺はお前の事がひどく気に入った……いいだろう。協力してやる」

「お! そっか、ありが」

「――ただし、俺はドラゴンを殺しはしない。あくまでお前たちのサポートをするだけだ。いいな?」

「……なぁにが、いいな、よ! 良くないわい!! 大金払ったんだから全力で戦いなさいよ!」

「ふん、貴様には聞いていない……どうだ?」


 ランスは俺に聞いて来る。

 俺は考える素振りも無くそれで良いと伝えた。

 アリスは抗議していたが無視する。

 ランスはにやりと笑いながら、手を差し出してきた。

 それをしっかりと握って立ち上がり、ランスは手に少し力を込めて上下に軽く揺らす。


「短い間だが、よろしくな。改めて、俺はランス・ブルーム。エルフだ……お前たちは?」

「こいつはアリス・イングラード! こっちはイシダ・クロー! それで、俺はジョン・ケインだ! よろしくな!」

「……よし、覚えた……では、早速行くぞ。もたもたしていたら日が暮れる」


 ランスは手を離して歩き出す。

 アリスはそんな彼の背中を睨みつけながら低い声で呟く。

 

「お、お前が言うなぁぁ」

「まぁまぁ……それで、ブルーム殿には秘策があるのか?」


 イシダは質問する。

 彼は歩みを止めてゆっくりと振り返った。

 目を細めながら歯を見せて笑う彼は悪だくみをする少年のようで――



 

「ある。竜狩りの秘術――とくと見せてやろう」

「おぉ、楽しみだなぁ!」




 ランスは再び歩き出す。

 俺はそんな奴の背中を追っていった。

 アリスとイシダもついてきて、俺たちはこの四人でドラゴンに戦いを挑みに行く。

 果たして、竜狩りの秘術とは何か。

 そして、ランス・ブルームがパーティに加わった事で、俺たちはどれほど戦いやすくなるのか。

 俺は童心に返ったように心をワクワクさせながら、静かに笑みを深めていた。

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