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012:竜狩りの情報

「――という事で、ドラゴンぶっ殺しに行こうぜ!」

「は? 死ね」

「……はぁ」


 牢屋にぶち込まれたかと思えば、のこのこと帰ってこられた俺。

 組合へと戻ればアリスとイシダが話し合っていた。

 俺が二人に声を掛ければ、二人は幽霊でも見たように驚いていた。

 そうして、有無を言わさずに何があったのかを説明し今に至る。


 アリスは人殺しのような目で俺を見ながら中指を立てている。

 イシダに関しては眉間の皺をもみほぐしていた。

 俺はどうしたんだと視線を向ければ、アリスは大きく舌を鳴らす。


「……こいつのこういう所はもうどうでもいいわ。いや、良くないけど……兎に角、そのドラゴンを討伐しないとアンタは処刑されるのね……あぁもう! 何で次から次へと」

「まぁまぁ茶でも飲んで落ち着けよ」

「ありがとう……って飲んでる場合かぁぁぁ!!」

「あちぃ!!」


 置いてあったポッドからお茶を注いでやる。

 アリスは飲もうとして中身を俺に掛けて来た。

 ほどよくぬるい気がしたが熱い気もして叫ぶ。

 イシダはハンカチを渡してくれて俺はそれで顔を拭う。

 アリスは呼吸を大きく乱しながら、俺をガン開きした目で睨んでいた……こえぇ。


「いい。よく聞けよカス。お前は死ぬんだ。私たちが今すぐにドラゴンを討伐しに行かなかったらお前は首ちょんぱだ。分かるか?」

「おう!」

「……返事だけはいいのよねぇ……はぁぁぁ、兎に角。今すぐに人を募集しないと」

「お? すぐに行かねぇのか?」

「おバカッ!! アンタとイシダさんだけで勝てる相手と思わないで! 相手はドラゴンよ!? 物語で定番の存在で、この国の“守護聖霊”もドラゴンなのよ!」

「あぁ……あ、そっか」


 俺は少し考えて納得したように手を叩く。

 俺とイシダとアリスで勝てると思ったが。

 この世界でのドラゴンの強さが俺の世界と同じだとは限らない。

 いや、強いのは強いだろう。

 しかし、もしも俺の認識を遥かに凌駕する存在であれば……確かに厄介だな。


 少なくとも、前世のように歴戦の猛者が十人以上いたのなら簡単に勝てるだろう。

 あの頃の仲間たちがいれば心強いが、そうは言ってられない。

 現時点では俺とイシダが前衛であり、アリスが後衛だろう。

 バランス的にはいいかもしれないが、贅沢を言うのなら魔法を操れる人間が欲しい。

 魔法とは万能であり、前衛でも後衛でも活躍できる可能性がある。

 勿論、強力な魔法を使うのであれば長い呪文の詠唱を必要とするから、前衛には出られないが。

 無詠唱で魔法を操れる人間であれば、前衛でも十分に戦える。


「……魔法使いが欲しいなぁ」

「……そうねぇ。魔法使いが一人でもいてくれるのなら、十分、勝機もあるわ……ただねぇ」


 俺は周りを見る。

 疎らだが冒険者が何名か立っている。

 その中には魔法使いらしい装いの人間もいるにはいるが。

 そういう人間の周りには既に仲間らしき人間がいる。

 何処の世界でも魔法使いは重宝される存在であり、元々の数も少ないんだろう。

 だからこそ、有能な魔法使いなんてのは冒険者になった瞬間に誰かからスカウトを受けているものだ。


 アリスは大きくため息を吐く。

 そうして、鞄から手帳のようなものを出す。

 パラパラと捲りながらぶつぶと言っていて、俺はそれは何かと聞いた。


「……これは名簿みたいなものよ。私のどれ……お友達よ。魔法使いの人間もいるから、声を掛けてみるわ。イシダさんもパーティのメンバーとしてついてきてくれる?」

「分かった。共に行こう」

「俺も行こうか?」

「――アンタはダメよ。絶対にやらかすから」

「えぇぇ……ま、いっか。じゃ、俺も適当に探してみるぜぇ」

「はいはい。期待しないでおくわー」

「あいよぉ。それじゃ、また明日なぁ」


 俺は席から立ち上がる。

 そうして、ひらひらと手を振るアリスを見て後ろ手に手を振りながら歩き出す……さぁ、見つかるかなぁ。


 

 §§§



 「……はぁ、ダメだった」


 アレから王都を散策し、魔法使いっぽい人間に声を掛け続けた。

 しかし、どいつもこいつも既に別のパーティのメンバーかそもそも冒険者ではなかった。

 臨時で良いのならと言ってくれた奴もいたが、ドラゴンの話をした途端に顔を青くして逃げていった。

 やっぱりこの世界でもドラゴンと戦うというのは勇気がいるんだと思いつつ、俺はどうしたものかと考えていた……にしても。


 一日中歩き回っていたから嫌でも分かっちまう。

 俺に向けられる視線の中で、全く気配の消えないものがあった。

 気配を探ろうとすれば姿を隠し、絶対に位置を悟られないように動いている人間がいやがる。

 完全に俺を付け回していて監視しているようで……大方、あの王様の指示だろうな。


 俺が国外に逃亡しようものなら即刻処刑するという言葉。

 それは脅しではなく、本気で殺す気なんだろう。

 俺は厄介な奴に目をつけられたもんだと思いつつ、どうすれば優秀な魔法使いを招き入れる事が出来る考える。


 人通りの少ない路地裏にある一軒のさびれた店。

 最近見つけた俺の隠れ家的な酒場だった。

 奇妙な置物や何処かの部族が着けているような仮面を壁一面に飾っている。

 椅子は小さめの酒樽であり、机に関してもカウンター以外は酒樽と廃材を繋げただけのものだ。

 広さはまぁ十人ちょっと入れるくらいだろう。

 店主は少し頑固そうなドワーフの老人であり、頭には黒い三角巾を被っていた。

 少しでも提供しているものにケチをつけようものなら、空の酒瓶を飛ばして攻撃をしてくる荒くれものだが。

 この親父が作るソーセージやハムは絶品だった。

 そしてそれ以外でも、何処で仕入れているのか絶対に教えてくれないミードなんかも中々にいける。


 天井の魔法石がオレンジ色に輝いていて路地裏でも此処は比較的明るい。

 それなりに目立つ気はするが、店主の性格と店の禍々しさから客は寄り付かない。

 損しているような気はするが、俺はくつろげるのなら何だっていい。

 そう思いながら、俺は木のジョッキに入ったミードを飲みながらソーセージにかぶりつく。


 蜂蜜の甘さは濃厚でありながらも、しつこさは微塵も無い。

 上品な甘さとでもいうのか、気品すら感じる味だった。

 そして、そんなミードに合うのがこのぷりぷりの少し焦げ目のついたソーセージだ。

 噛めばカリッと音がして肉汁が弾けるんだ。

 噛めば噛むほどに肉汁が口に広がっていき、ほどよい塩味と肉の旨味が俺の口内を唾液で満たしていく。

 恐らく、こいつの原材料は牛でも豚でもない。

 モンスターの肉だと思うんだが……何の肉か分かんねぇんだよなぁ。


「うーん……獣系か。爬虫類系か? いや、でもなぁ」

「……ふん。小僧如きが儂のレシピを盗もうなんざ百年早いわい」


 爺さんは鼻を鳴らして得意げだった。

 俺は悔しさを滲ませながらもソーセージを平らげてお代わりのハムを注文する。

 親父はにかっと笑いながら、ハムを取りに行った。

 すると、ガラガラと扉を開けて誰かが入って来た。


 顔まですっぽりと覆い隠したローブの人間だろうか。

 骨格からして女であり、隣に立っている奴も女だな。

 控えている奴よりも前に立つ奴の方が身長は高い。

 おおよそ170くらいで……何だ。覚えがある気が……。


 そのローブは俺の席に近づいてきた。

 俺が周りを見るが、空いている席はあるだろうに。

 何故か、そいつらは何の断りもなく俺のテーブル席につく。


 俺が目を細めながら見ていれば、ローブ野郎たちは顔を明かす。

 一人はそばかすが特徴的な田舎者といった風貌の黒いおさげの女だ。

 丸眼鏡を掛けているところも田舎的であり、もう一人の女を見れば……あぁ、そういう……。


 濃い青い髪に青い瞳。

 ローブを押し上げるほどの巨乳の時点で何となく気づいていたが。

 まさか、一度ならず二度までも俺の前に姿を現すとはな。


「……で、王女様が何で罪人の前に?」

「う……いや、その件に関しては本当にすまなかった……今日はその件の謝罪と“情報”を渡しに来た。聞いてはくれないだろうか?」

「で、殿下! このような野蛮な男に謝罪など! 私から見ても、この男は殿下に対して不埒な考えをもって接触したと思います! 王でなくとも、処刑は妥当です!」

「……って、言ってますけど? ん?」

「……申し訳ない。メイドの無礼も含めて心から謝罪する」

「で、殿下!?」

「……お前も大変だな……ま、別にそんな事は良いよ。気にしてねぇし!」


 俺はカラカラと笑いながら酒を飲む。

 すると、メイドらしき女は少し引いていて王女であるレインは少し驚いていた。

 俺は何をそんなに驚いているのかと質問する。


「いや、処刑されるんだぞ……殴られる事も覚悟してきたんだが」

「そんな事をすれば私が許しません!」

「……別に、ドラゴンをぶっ殺せば良い話だろ? 何とかするさぁ」

「……この男、ひょっとしてかなりの大物なのでは?」

「……お前は凄いな。微塵も恐怖を感じない……もしかしたら、こんな情報も必要ないのかもな」


 メイドは訝しみ、レインは少し笑う。

 俺はさっきから情報情報と言っているが何なんだと聞く。

 すると、レインはハッとしたように小声で話をしてきた。


「あまり大きな声では言えない。私が手を貸したと知られれば、父も黙っていないだろう」

「いや、もうバレてるだろ? 俺を一日中つけてる奴がいるぜ」

「……そうか。やはり“暗部”の人間を動かしていたか……いや、問題ない。念の為に根回しはしておいた……それで、情報なんだが……かつて“竜狩り”と呼ばれた伝説の冒険者パーティがいた事は知っているか?」

「いや、知らん!」

「そ、そうか……その竜狩りはおよ150年前に解散し、パーティメンバーたちにも子孫はいなかった……が、たった一人だけ今も生きている者がいる……幸いにも、その者は我が領内にいる事が確認されていて、ドラゴンがいる山脈への道すがらに立ち寄る事が出来る。その者がいる村の場所と名前。それと、その者の特徴を紙に書き記しておいた。受け取れ……ど、どうだ?」


 レインは竜狩りの情報とやらをくれた。

 渡された紙を受け取り軽く確認してからそれをポケットに仕舞う。

 俺は静かに頷いて、これで助かったと考える。

 

 つまりだ。その竜狩りに協力を仰げば、ドラゴン討伐も楽になるってことだろう。

 俺は少し考えてから、にかっと笑う。


「良い情報だな! ありがとな、レイン!」

「き、貴様ぁ。事もあろうに第一王女殿下を呼び捨てなどとぉ!」

「良い。私が許す……それで、この情報と引き換えに一つ約束して欲しい事がある」

「お? 何だ?」

「……こ、この前に話したことは……た、他言無用で頼むぞ! ぜ、絶対だからな!」


 レインはずいっと顔を近づけて俺を睨む。

 まるで、誰かに話せば俺を殺して自分も死ぬと言わんばかりだ。

 俺は少し引き気味に了承する。

 レインはホッと胸を撫でおろしてから、何時、出発する予定なのか聞いて来る。

 俺は両腕を組みながら考えて……。


「そうだなぁ……まぁ山脈までは馬車で三日くらいだろ? 昇って倒して下れば多く見積もっても一日くらいだろう……だから、一週間は最低でもいるからなぁ……ま、明日か明後日には行くと思うぜ!」

「……父はお前を殺す気だろう。でなければ、ドラゴンの討伐を二週間でしろなんて無謀な事は言わない……父は私の事を心から愛してくれているからこそ、今回の事が許せなかったんだろう……私が浅はかだった。巻き込んでしまって本当に――うぐ!」

「で、殿下!」


 俺はまたうじうじした事を言おうとした口を酒瓶で塞ぐ。

 とくとくとミードを飲んでいく王女。

 俺はゆっくりと酒瓶を抜きながら、美味いだろうと聞いた。

 王女は口を手で拭いながら頬を赤くしてキッと俺を睨む。


「…………確かに、美味い」

「だろ! よーし、飲め飲め! 今日は俺の奢りだ!」

「い、いや! 私はお前と飲むために来た訳ではなくて」

「――親父ぃ! もう一本くれ!」

「……あぁもう!」


 親父は俺の考えが分かっていたのか。

 ハムが切り分けられた皿と瓶を持って来て、カウンターに無造作に置かれていた木のジョッキをどかりと机に置く。

 レインは頭を抱えて、メイドの女はハムを見て涎を垂らしていた。

 

 メイドにハムをちらつかせれば、ひょいっと摘み口に入れていた。

 そうして、目を輝かせながら両手で頬を抑えている。

 レインは観念したように「い、一杯だけだぞ」と言う。

 俺は空のジョッキに並々とミードを注いでやった。

 レインはごくりと喉を鳴らしてから、ゆっくりと口をつけて――呷る。


「……うはぁ!!! う、美味い!!!」

「いいねぇ! そうでなくちゃ! さ、どんどんいけ!」

「あ、あぁ!」

「うぅぅ! このハムおいひぃ!」

 

 楽しい酒の席になった。

 俺はそれを喜びながら、再び王女との一夜を楽しむ。


 ……にしても、竜狩りか……ふふ、どんな奴だろうなぁ。


 有益な情報を手に入れた。

 明日はアリスとイシダに合流し、可能ならすぐにそいつがいる場所に向かおう。

 150年前に解散した伝説のパーティ“竜狩り”。

 そのメンバーのほとんどは死んでいる。

 いや、普通の人間であればそれほど長く生きられる訳が無い。


 となると十中八九が、人間ではない何かで……アレだろうなぁ。


 何となく、人間と話が出来てある程度の友好関係がある種族であるのなら。

 それしかないだろうと俺は思っていた。

 果たして、一体どんな奴なんだろうと思いながら、俺は一気飲みするレインを静かに見つめていた。

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