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010:飛花落葉

「ウラァァッ!!」

「――!!」


 頭の無い化け物に向かって剣を叩きつけた。

 二つの剣によって俺の斬撃を受け止めた奴の体が一瞬沈み、床に亀裂が走る。

 俺は空中で静止し、奴の魔法の攻撃を察知し――突風が吹く。


 無数の風の刃を発生させたイシダ。

 奴の攻撃によって敵の魔法の武器が弾かれた。

 ごろごろとそれが転がっていき、奴の意識が一瞬だけ逸れた。

 俺はそれを見逃さずに、奴の正面の口に向かって彗星を叩きこむ。


 刺突による攻撃により、奴の装甲の無い口内はズタボロだ。

 血反吐のような黒いヘドロを奴は吐き――畳みかける。


「まだまだッ!!!」


 連続して彗星を放ち続けた。

 連撃であり、合計で三発の刺突による攻撃だ。

 それが奴の体の内側から炸裂し、奴の体が異様な形に圧縮された。

 ぐしゃりと凹みながら、奴は口から黒いヘドロをまき散らす。

 かなりのダメージが入った――そう“錯覚”してしまった。


「――っ! イシダ!」

「……っ!」


 視線を向けた先。

 大きく凹んだ化け物の武器がきらりと光る。

 瞬間、地面にまき散らされたヘドロが蠢いていた。

 それが地面に転がっていた冒険者の残骸に一瞬にして入り込んでいく。

 そうして、瞬く間に死んだはずの冒険者が蘇生されて――目を真っ赤に輝かせる。


「――ッ!!!」


 言葉とも言えない叫び声がこだまする。

 アンデットとして蘇ったそれらが攻撃を仕掛けて来た。

 俺とイシダはそれらへと応戦する事を余儀なくされる。


 男六人の剣士たち。

 その攻撃は生前のようなキレは無いんだろう。

 しかし、目を瞑りながら相手が出来るほど弱くはない。

 そして、後方にて立っている男女の魔法使いたち。

 奴らが詠唱をすれば、大きな火の玉が襲い掛かって来た。

 俺とイシダは互いにそれを大きく回避しながら、魔法使いを先に倒そうとする。

 が、奴らの護衛役の大きな体の盾使いが立ちふさがり俺たちの斬撃を防ぐ。

 

 俺は舌を鳴らしながら、呼吸を整えた。

 体は完全に温まっていて、より動きやすくはなっている。

 が、前世ほどの魔力は無いからこそあまり無茶は出来ない。


 イシダを見れば、魔法使いへの攻撃を中断し。

 盾役を先に排除しようと立ち回っている。

 しかし、イシダの方に向かった冒険者たちは連携が取れていた。

 互いに左右から挟み撃ちにし、双剣によって回避の隙も与えない。

 イシダの動きも熟知しているのか、その動きに迷いはない。


「――ッ!」

「……」

 

 残りの冒険者たちが俺に襲い掛かって来た。

 俺は静かに目を細める。

 俺は一瞬で足で地面を強く踏みつけて床の残骸を舞わせる。

 そして、剣を大きく振りかぶって巨大な風を発生させた。


「――ッ!?」


 踏ん張りも効かずに風に巻き込まれた死体共。

 そして、宙を舞う床の残骸の礫が奴らの体に襲い掛かり、無数の風穴を作っていく。

 大きく舞い上がる死体共はもう動けない。

 俺はそのまま魔法使いへと飛び掛かる。

 すると、控えていた盾役が前に躍り出て――関係ねぇよ。


「……一刀両断」


 剣を上段に構える。

 そうして、魔力を流し込みそれを高速で循環させる。

 剣身で細かい魔力の粒子が激しく流れて、その魔力の色が赤くなっていく。

 そうして、俺はそのまま剣を振り下ろす。


 瞬間、俺の剣から赤い斬撃が飛翔する。

 真っ赤に輝くそれは高音を奏でながら真っすぐに飛ぶ。

 そうして、盾役が持つタワーシールドに当たり――すり抜ける。


 そのまま魔法使いの女の下まで行き、女の死体も通過していった。

 壁まで届いたそれは壁の中に吸い込まれて行く。

 終わった時には真っすぐに続く綺麗な亀裂だけが残っている。

 死体たちは体を真っ二つにされて声も上げる間もなく倒れていった。


 俺は化け物に視線を向ける。

 イシダはまだ冒険者と戦っているが。

 アイツには援護はいらない。

 先にあの化け物を倒さなければならない。


 奴は凹んでいた体を無理矢理に治そうとしている。

 が、再生スピードはそこまで高くはない。

 俺は剣を構えながら、奴の元へと走り――“鈴の音”が鳴る。


「……っ!」


 聞いたことがある音だった。

 奴の武器に目を向ければ、それから音が鳴っていた。

 無数の札が貼られたそれ。

 その札たちが一瞬で焼き消えていき、現れたのは無数の鈴がついた何かであった。

 奴がそれをもう一度鳴らせば――奴の体が光に包まれる。


「こいつは!?」


 

 ――アレは“聖光気(セイコウキ)”だ。


 

 神に仕える人間だけが使う事が出来る術。

 魔法とは異なる神の加護によって使う事を許された技だ。

 あの化け物は間違いなく、それを今此処で使用した。

 そして、それによってもたらされる効果は――“治癒”だ。


 一瞬にして奴の体が再生する。

 そして、倒れていた筈の死体たちも体を復元していた――“二体に分裂した”状態でだ。


「……クズがッ!」


 死んだ人間を無理矢理に二人にしやがった。

 そのせいで体がぐずぐずになっていやがる。

 あんなものは人間ですらない。

 奴らは両目から涙を流しながら叫んでいた……つれぇよな。


 俺は歯を強く噛む。

 瞬間、回復した奴が剣を振りかぶった。

 奴は剣に魔力を流し込み、俺やイシダのように斬撃を放ってきた。

 俺はそれを剣でガードし受ける。


 目の前で特大の魔力が迸る。

 剣がガタガタと揺れて目の前で火花が散っていた。

 俺はそれを見ながら、強制的に後退させられた。

 床に両足をつけながら、一気に後方へと飛ばされて――弾かれる。


 俺は床をごろごろと転がっていく。

 そうして、床に剣を突き刺して何とか止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

「――!!!」


 歪な形になった冒険者の死体たち。

 それらが剣を振りかぶり、俺を襲おうとして――その頭部に矢が深々と突き刺さる。


 矢からは炎が噴き出し、死体共は炎に包まれてもだえ苦しんでいた。

 チラリと見れば、アリスが台座に隠れながら攻撃してくれたようで。

 彼女は首を左右に振って撤退しようと提案してくる……逃げる、か。


 俺はにやりと笑う。

 そうして、ゆっくりと立ち上がってから剣を抜く。


 

「勝てない戦いはしねぇ。負ける戦はもっとしたくねぇ。だが、尻尾撒いて逃げるなんざ――死んでもごめんだぜ」


 

 俺はゆっくりと腰を低くする。

 そうして、目を細めながら剣を静かに鞘に納めた。


 あの化け物はどんなにダメージを与えても無意味だ。

 致命傷を負ったとしても、あの聖光気の武器で回復しやがる。

 冒険者たちの相手をしていても体力が削られて行くだけだ。

 ならば、どうすれば勝てるのか――そんな事は分かりきっている。


 

 一撃だ。一撃で――終わらせればいい。



 魔力を全身に駆け巡らせる。

 そうして、体が火で包まれたような熱を感じた。

 やがてそれが足と腕に流れていき、皮膚が焼けるような痛みを感じた。

 流れる魔力が高まっていき、より洗練されて行く。

 床が大きく凹み亀裂が走った。

 魔法使いは俺を見つめながら、長い呪文を詠唱していやがる。

 その頭上には赤から青に変わった巨大な火球が発生していた。


 俺は静かに目を閉じる。

 全ての視線、全ての敵意、全ての音――全て、断ち切る。


 無音の空間の中で、無数の白い影が揺らめく。

 仲間たちと死体と親玉が一体。

 それを正しく認識しながら、俺は鞘に納めた剣に魔力を流し続けた。


 流して流して――中で激しく渦を作る。


 剣の中心を起点とし、渦を発生させるイメージで魔力を流す。

 それにより、剣がカタカタと激しく揺れていた。

 本来であればこれほどの洗練された魔力に並みの武器は耐えられない。

 だが、この武器はただの剣じゃない――問題ねぇさ。


 柄を握りしめながら、俺は奴との間合いを図る。

 イシダが冒険者の包囲網を抜けて奴に襲い掛かる。

 奴はイシダの攻撃を武器一本で防ぎ、衝撃波によって吹き飛ばす。

 そうして、魔法の武器を使って竜のような炎を発生させた。

 それがイシダを襲い。奴はそれから逃れて、その炎は俺へと向かってくる。


 奴は俺を見ている。

 俺の状態を見て危険度を上げていた。

 だからこそ、間合いを詰めずに殺そうとしていやがる……あめぇよ。


 魔法使いが火球を放ち、竜のような炎が迫る。

 体が焼き付くような熱を感じながら、俺はふらりと体を前に倒していく。

 

 体が真っ赤になるほどの熱だ。

 熱くて熱くて、死にそうなほどだ。

 吐く吐息は血の蒸気であり――俺は歯を見せて笑う。


 カッと目を見開き、足に力を加えた。

 床が大きく抉れていき、足の筋肉が一気に肥大化する。

 まるで、電流が駆け巡ったかのように俺の体は痺れて――翔けた。

 

 一瞬にして奴との距離を詰める。


 炎の中を一瞬で駆け抜けた。

 だが、一瞬でも受けた熱によって服はボロボロになっていた。

 体中が火傷を負っていて、血も噴き出していた。

 が、眼前には敵が大きく口を開けながら待ち構えている。


 

 

 俺はそんな間抜け面を見ながら――振るう。


 

 

 一瞬。ほんの瞬きにも満たない時間。

 

 眼前にいた敵は消えていて、背後には奴の気配がした。

 

 全ての音が消えた中で、俺は静かに剣を鞘に納める。


 そうして、静かに技の名を紡いだ。


 

 

「――飛花落葉(ヒカラクヨウ)




 鞘に納めた剣の音が静かに響く。

 それと共に背後の化け物の体が四散する。

 体内から破裂するようにその穢れが払われていった。

 俺は静かに息を吐きながら、地面に両膝をつく。


 見る必要なんてねぇ。

 確かめる動作もいらねぇ。

 死んだ。確実に、あの世に行った……それだけだ。


 俺はごろりと床に寝転がる。

 そうして、大きく息を吸ってから豪快に吐く。


「……はは、はははは!! 疲れたぁぁ!!」

「……ケイン! お前、今の技は……っ! ひどい火傷じゃないか! イングラード殿!!」

「あぁはいはい!! 待ってて!! 今行くからぁぁ!!」


 イシダは俺を見下ろしながら傷を心配する。

 しかし、イシダの方も少なからず傷を負っていた。

 俺は奴に笑みを向けながら、楽しかったかと聞く。

 すると、奴は一瞬口を開けて固まり、すぐににやりと笑って頷いていた。


「はいはいっと……え、ええええぇぇ!!? 何よこれぇぇ!!? 体中真っ赤じゃない!? い、痛くないのアンタ!?」

「あぁ? いてぇけど……ま、寝たら治るだろ! それより、酒が飲みてぇ! アリス、酒出してくれよ!」

「は、はぁぁ!!? 怪我人の癖にそんなもん飲むんじゃないわよ!! いいから黙ってポーションがぶ飲みしなさい!」

「うぐぅ!?」


 アリスは腰のポーチから緑色の液体が入った瓶を俺の口に三本も押し込んできた。

 俺はもがもがと暴れるが、アリスは邪悪な笑みを浮かべながら無理矢理飲ませてくる。

 イシダはおろおろしながら、俺たちの様子を見守っていた。


 やがて、全部を飲み切り。

 俺はだらりと四肢を伸ばす。

 アリスは空き瓶を適当に転がしてから、俺の体を見ていった。


「……ま、気休め程度にはなったでしょ。後は帰って医者に診てもらいなさい……あのバカも、目覚めたらアンタに泣いて感謝するでしょうねぇ」

「……生きていたのか。それは良かった」

「……ま、あんな奴でも目の前で死なれたら寝覚めが悪いし……起きられる?」

「おぅ! 大丈夫だ」


 俺は両手で床を叩いてから起き上がる。

 そうして、軽くジャンプをしてから腕を回してみた。

 痛みはあるにはあるが、動けない程じゃない。

 俺はアリスに感謝して……ん?


 彼女は無言で魔法のポッドを出す。

 そうして、つるはしと大きな袋を出した。

 彼女は俺とイシダにつるはしを持たせて……まさか。


「ふ、ふふ、これからなのよ。これからが本番……さぁジャンジャン掘りなさい!! 私の未来の為に!!」

「……アリス、俺たち、仮にも怪我人で……」

「だから治したじゃない! その程度なら、アンタたちにとってかすり傷同然よ。さぁ働きなさぁい!! おほほほほ!!」

「……お、鬼だぁ」

「……一食の恩がある。逆らえんぞ」


 イシダは覚悟を決めて壁の方に向かう。

 俺もがっくりと肩を落としてから壁の方に向かった。

 恐らくは、あの大きな袋が一杯になるまで掘れと言うんだろう。

 ダンジョン・メタルはこの部屋の壁全てだが、それを崩すとなるとかなりの力がいる。

 その証拠に、床には亀裂や罅が入っているが。

 壁にはそこまで大きな傷は無い。

 

 ダンジョン・メタルが高値で取引されるのはそれ自体が珍しいからだけじゃない。

 少しでも採取するのにかなりの時間と労力がいるからだ。

 俺たちほどの魔力の使い手でもなければ、一欠けらでも取る事は出来ないだろう。

 だからこそ、入手が難しいという理由で市場価格が高いんだ。

 ここのはボス自体が力をつけていた事もあって、かなりのレアものには違いない。

 しかし、それの見合うだけの採掘の何度で……はぁぁ。

 

 精々が、俺が放った赤い斬撃によって少し深い亀裂が出来たくらいだ。

 それなりに魔力を込めた斬撃であれであり……大変だなぁ。


 体中の痛みを無視して、俺たちは壁に向かってつるはしを振るう。

 甲高い音が鳴り響き、全く傷ついていない壁を見て俺たちはため息を吐く。


「ほら、ぼさっとしない!! 帰ったらたらふく食べて飲んでいいから!! 今は無心で手を動かすのよ!!」

「「……はぁ」」


 俺たちはなけなしの魔力をつるはしに注ぐ。

 そうして、カンカンと壁につるはしを打ち続けた。

 

 ダンジョンのボスの討伐。

 そこには宝箱らしきものがこれ見よがしにあるが。

 アリスにとってはダンジョン・メタルの方が先らしい。


 これも冒険と言えば冒険だけどよぉ……俺は考えるを止めた。

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