第1話
この世界は恋愛に満ちている。
2月、バレンタインデー。本来は聖バレンチヌスを祭る日。
海外では好きな人、恋人、夫婦関係に限らず、大切な人に花やお菓子を贈る日。
しかし、日本では好きな人、恋人などに
女の子、女性が男の子、男性にチョコレートを贈る恋愛を象徴するイベント。
まあ、義理チョコや友チョコなどもあるが、学校はもちろん会社などでも空気が明らかに色めき立つ。
3月。ホワイトデー。バレンタインデーのお返しをする日。お返しは飴、マシュマロ、いろいろ意味が違うらしい。
ちなみに本命チョコの返答としてオッケーはマカロン、キャンディー、マドレーヌ、金平糖らしい。
4月、入学式、入社式。新たな出会いが生まれる季節。
5月、中間試験。一緒に試練を乗り越えれば自然と一体感が生まれる。
6月、体育祭。中間試験で一体感が生まれ、さらに体育祭で優勝しようと一体感が増す。
そして体育祭で活躍した男子はいつもの5割増でカッコよく見えるらしい(噂)
体育祭の後の打ち上げも、きっと当たって砕けろの告白祭りと化す。
7月に入れば夏休み目前。期末試験があるが、時間さえ経てば夏休みに突入できる。
テストの結果次第では夏休み、補習祭りになる可能性の充分あるが。
しかしその補習でも「恋」が生まれる可能性だって充分ある。
そして8月、夏休み本番。花火に海にプール、夏祭り。恋愛に恋愛に恋愛、恋愛。と書かれているようなものだ。
9月、2学期が始まり、夏休み明け、学力チェックがある。
学校が始まったとはいえ、9月はまだ夏休み気分が残っているだろう。
10月。学校によるが1年生は林間学校2年生、もしくは3年生は修学旅行。
林間学校や修学旅行では先生に見つからず女子部屋へ行くなんてイベントがあるそうだ。
11月、球技大会や文化祭。球技大会で活躍した男子も5割増でカッコよく見えるらしい(噂)
文化祭なんて目を細ければ…ほら、恋愛祭に見え…見えますよね?(圧)
12月。もう言わなくてもいいくらいのイベント。
クリスマス。海外でも恋人と過ごす人もいるが一般的には家族と過ごすのが主流だ。
しかし日本は家族は二の次。恋人と過ごすためのイベントである。
そして1月。初詣イベントはギャルゲーやマンガ、アニメでは好きな人、友達カップルで行くイベントである。
そう。この世界、特にここ日本は1年、12ヶ月。恋愛に結びつくイベントばかりなのである。
今年4月。猫井戸高校2年生となるこの物語の主人公、紺堂名良。
クラス替えで見慣れないクラスメイトのいる教室を考えると
まだ少し緊張気味ではあるが慣れた様子で通学路を歩く。
ワイヤレスイヤホンで曲を聴いている。曲が終わる。周りの音や声が聞こえてくる。
「他校だから浮気しないか心配でぇ~」
「わかる~。でもさ、まだ付き合って1ヶ月ちょっとでしょ?それなら平気だって」
「そうかなぁ~」
「はぁ~…」
名良がため息をつく。
やっぱ恋愛ってめんどくさい
そう思い、学校へ歩を進めた。教室の扉をスライドで開き、自分の机に向かう。
「お、名良!おはー」
「おはー」
「名良おはー」
「変な言葉作んな」
イスをひいて座る。机のサイドのフックにスクールバッグをかける。
スマホを取り出し、音楽を止め、ポツッターを開く。
好きなアーティストさんの投稿を眺める。担任の先生が入ってくる。
「おはよーございます。学級委員長よろしく」
「きりーつ」
生徒が起立する。
「礼」
なにも言わずに礼をする。
「おはようございます」
先生だけ言う。いつも通りホームルームが始まる。かと思いきや
「えぇ~新学年が始まってすぐですが転校生を紹介したいと思います」
廊下側の名良も多少は興味があった。辺りを見回す。真隣に昨日までなかった机とイスがあった。
「名良の隣じゃん」
サッカー部の次期エースの呼び声高い、木扉島 雲善に言われる。
「な」
とびきりのイケメンとか、そんなのどうでもいいから、とりあえずめんどくさい人でありませんように。と祈った。
「どうぞ~」
教室のスライドドアが開き、ピンクの髪の子が入ってくる。まさかの女子。
透き通ったような綺麗な白い肌に大きな胸。胸。胸!頭を左右に振る名良。
男子はおろか、女子も釘付けのようだった。
「自己紹介よろしく」
「はい」
声も優しく包むような声だった。
「転校してきましたイサ・ヨルコ・ジェエノンです。皆さん仲良くしてください」
「海外の人だ」
「ピンク髪も地毛?」
「そんな国ある?」
教室内が騒つく。
「じゃ…イサさん。イサさんはあそこ」
先生が名良のほうを指指す。
「あそこの空いてる席に」
「はい」
転校生はどんどん名良に近づいてくる。名良の隣の席のイスをひき、座る転校生。
「よろしくね」
いきなり名良に話しかけてきた。まあ、隣なので自然といえば自然だが。
「あぁ。うん。よろしく」
名良は色恋沙汰が苦手なだけで別に女子、女性が苦手なわけではない。普通に接することができる。
しかしそれにしても可愛すぎないか?
とチラチラ見る名良。朝のホームルームが終わると一気に転校生の周りに女子が群がってきた。
「ねえねえ!どっから来たの?」
「外国人?」
「髪触っていい?」
「これ地毛?」
大人気である。
「名良ー」
雲善が名良の机に座る。
「なんだよ。座んな」
「席変われよー」
「あぁ、転校生?」
「激カワじゃね?」
「まあ…」
認めざるを得ない。
「でも雲善サッカー部でキャーキャー言われてんだろ」
「まあぁ~ねぇ~。オレカッコいいから」
「自分で言う辺り、残念なんだよなぁ~」
「残念って言うな」
隣に異常に女子が集まり、名良は雲善と話していると1限が始まる。
「えぇ~前回配ったプリントの続きから」
「先生!」
転校生が綺麗に手を挙げる。
「ん?どうかした?」
「私今日転校してきたので、プリントがありません」
「あぁ、転校生。そっかそっか。…あぁ~…じゃあ隣に見せて貰って。あとでプリント届けるから」
「わかりました」
「はい。ということで前回の続きから」
転校生が名良のほうへ机を寄せる。
「ごめんね。見せてもらっていい?」
ふわっと良い香りが名良に届き、名良は少しドキッっとする。
「おぉ。これ」
「ありがと」
机と机をつけた部分にプリントを置く。
「名前。なんて言うの?」
小さな声で聞かれる。
「ん?オレ?」
あなたしかいないであろう。転校生がコクンと頷く。
「紺堂」
「紺堂くん」
「うん」
「私はイサ・ヨルコ・ジェエノン。よろしくね」
「よろしく」
周りには内緒のようなこの小声での会話が特別感を感じさせる。
「好きなように呼んで?イサでもヨルコでもジェエノンでも」
「ヨルコって…こう書くの?」
と名良はシャーペンをノックし、プリントに「夜子」と書いた。転校生はクスッっと笑って首を振る。
「一応カタカナ」
「そうなんだ。ハーフかなって思ってた」
「なるほどね」
「まあ、じゃあ、イサさん。よろしくお願いします」
「うん。紺堂くん、こちらこそよろしくお願いします」
2人とも軽く頭を下げる。頭を上げ目が合う。
ヨルコは微笑み、名良は恥ずかしさから目を逸らした。1限が終わる。
「ありがと」
「うん」
机が離れる。
「どーん」
雲善がまた名良の机に座る。
「座んな」
「仲良くなった?」
「は?」
「ほら」
顔は動かさず、目線だけをヨルコに向ける。
「あぁ」
「どうなん?」
「別に。これといって特別変わったことはないよ」
「LIME交換してよ」
「どんな流れでだよ。てかクラスLIME入ってくるでしょ」
「あ、そっか」
2限の準備をし、2限が始まる。2限も前回使ったプリントをということだったので
またヨルコが机を名良のほうへ寄せる。
「今日はお世話になるね」
「ま、しょーがないでしょ。今日転校してきたんだから」
「優しいね」
「優しい?ふつーでしょ」
「そおなの?…あ、3限は体育か」
「運動得意…」
なの?と聞こうとして胸に目がいく名良。大袈裟に視線を逸らして
「得意なの?」
と続ける。
「得意だよ?」
「そうなんだ。前の学校でなんかやってたとか?」
「前の学校…」
名良は前の学校でなにかあったのかな?聞いちゃいけなかったのかな?と少し申し訳ない気持ちになる。
「なにかって?」
「え?いや、部活とか」
「あぁ。部活ね。部活ね。サッカー部」
「サッカー部?へぇ~珍しいね。女子サッカー部あったんだ」
「あ。珍しい?」
「…うん。たぶん。うち女子サッカー部ないし。強豪校くらいじゃないかな」
「そ…うなんだ?そっか。なるほど」
名良はヨルコのことを少し変わった、少し不思議な子だな思った。2限が終わった。
「ありがとー」
「ども」
「ヨルちゃん!こっち!更衣室こっちだよ」
「一緒に行こー」
ヨルコが女子に連れられて教室を出ていく。ボスッ。体育着入れが名良に投げられる。
「なんだよ」
雲善に投げ返す。
「イサさん、サッカー部だったんだってね」
「聞いてたんかい」
「聞いてたってか聞こえた」
「珍しいよね」
「同じサッカー部かぁ~」
雲善がYシャツを脱ぎ、下に着ていたTシャツも脱ぐ。
すると程よく筋肉のついた引き締まった体が現れる。名良はめちゃくちゃ普通の体。
筋肉がないわけでも太っているわけでも痩せているわけでもない。
「今日はサッカーでしょ」
「そそ。女子は体育館でバスケらしい」
「で次は逆でしょ?」
「そそ」
「ま、サッカーはオレのテリトリーだからな」
「雲善とは敵になりたくないな」
「そりゃそうだろ。オレに敵うわけないんだから」
得意気な顔をする雲善。
「ドヤ顔ウゼェ」
「ま、雲のような雲善様の片鱗でも見せてやりますか」
まだ教室なのに雲善は足首を回す。
「ヨルちゃんスタイル良!」
「おっぱいデカ!」
更衣室でも相変わらず人気なヨルコ。
「こりゃうちのクラスの男子はヨルちゃんにメロメロだわ」
「たしかに。告白されまくりで大変だよ~?」
「そんなことないよ。大丈夫。私に告白する人はいないから。だからみんな今年は「恋」しよ」
「お?ヨルちゃん恋バナ好きか?いいねいいね。誰に告白されたとか逐一聞かせてもらうからね~」
「だから私に告白する人はいないから」
「それは私はレベルが高すぎて告白する人はいないってか?」
「なるほどね」
「違うから」
更衣室で盛り上がる。
ピー!試合開始のホイッスルが鳴る。
「いやぁ~楽勝楽勝」
校庭の端に座る名良と雲善。
「こんな強かったら今年は猫(猫井戸高校の略称)は全国大会ですか」
「まあ~、行けたらいいけどね。チームプレイだからさ。オレ1人強くても…ね」
「なるほどね」
「マンガみたいにはいかないのか」
名良と雲善が同時に見る。あ、声出てたと言わんばかりの顔をする同級生。
「あぁ~…奥田くん?だよね」
「あぁ、うん」
「奥田 琴道くんね」
「おぉフルネーム」
「そりゃチームメイトだから。ね?」
「チームメイト。あ、そっか」
先程試合をしたときのチームメイトだった。
「こうやって喋るのは…初めて?だよね?」
「初めて…だね」
「よろしくね」
「よろしく」
「あ、うん。よろしく」
「で?マンガってなんのマンガ?サッカーマンガでしょ?」
「うん…」
その後、琴道からマンガのタイトルを聞いた。
「あ、知ってる。ってか聞いたことある」
「オレも聞いたことある。映画やってたよね?」
「うん。やってたやってた」
「どんな話なの?」
「簡単に言うとストライカーはエゴっていう」
「エゴ」
「エゴってなんだっけ」
「なんていうのかな。自分?自分主義?みたいなことだよね?」
「まあ、だいたいそうじゃないかな。自分でいけるとこはいく。とかそんな感じ?」
「なるほどねぇ~」
「木扉島くんはポジションどこなの?」
「雲善でいいよ。オレはね、ミッドフィルダー」
「あ、フォワードじゃないんだ。詳しくないけど。うまい人ってフォワードのイメージ」
「あぁ、そうね。まあ、合ってるよ。合ってるけど…難しいな。
オレくらいになるとさ?オフェンスもデフェンスも期待されてるわけよ」
「オレくらいになると」
「エゴイズムは合格レベル」
さすがに名良も琴道も引っかかったようだ。
「だからフォワードに一番近いミッドフィルダー。サイドハーフっていうんだけど、そこを任されてる」
「はあ」
「なるほど」
名良も琴道も全然わかっていない。ピー!試合終了のホイッスルが鳴る。
「うっし。次オレらー。行くぞ!名良!琴道!」
「うい」
「う…っす」
試合開始のホイッスルが鳴る。
「ヨルちゃん運動神経もいいんだね」
「そおかな?」
「スリーポイントめっちゃ決めてたじゃん」
「ね!カッコよかった!」
「ありがとー」
ヨルコはふと視線を振る。少し離れたところにクールな女の子とその女の子にテンション高めに絡む女の子がいた。
「バンドーねえねえ。ドラム似合うと思うんだけどなぁ~」
「無理だって。リズム感ないし」
「私のイメージではさー私が元気ボーカル兼ギター。
でクールなドラム、可愛いベースっていうガールズスリーピースバンドなのよ」
「聞いた聞いた。何回も聞いた」
「で、今年か来年の文化祭でやりたいんだよね」
「無理だって」
「バンド?」
ヨルコが2人の近くに座る。
「わっ!ビックリした。転校生ちゃんじゃん」
「ちっす」
「ちっす」
「聞こえてた?」
「んー聞こえてたっていうか私、耳いいから聞こえちゃった?ごめんね」
「いや全然いいんだけど。私も転校生ちゃんと話したかったし」
「ほんと?話しかけてくれればよかったのに」
「いやぁ~。間休みのときすごいじゃん。転校生ちゃんー…なんだっけ?イサさん?」
「ヨルコでいいよ」
「じゃヨルちゃん。ヨルちゃんの周りすごいじゃん。人集り」
「たしかに」
「まあ、ありがたいことにね」
「髪触ってい?」
「ん?いーよ?」
福留 嶺杏がヨルコのピンクの髪の毛を触る。
「わぁ~サラッサラ」
「マジ?私もいっすか」
「いっすよ?」
女楽国 糸もヨルコのピンクの髪の毛を触る。
「ほんとだーサラッサラや」
「マジで地毛なんだ」
「そうなん?なんでわかるん?」
「いや、こんな綺麗にピンクにするとしたら
相当ブリーチしないとだから髪のダメージすごいから。こんな綺麗なのは…これは地毛だよ」
「へぇ~」
「まあ、地毛です」
「でも地毛ピンクってすごいよね。聞いたことない」
「たしかに。羨ましい」
「羨ましいんだ」
ヨルコが笑う。
「ヨルちゃん笑顔かわいっ」
「それな」
「私のバンドのベースになってくれ!」
両手で糸がヨルコの両手を包む。
「え?」
「あ、ヨルちゃん、無視でいいよ無視で。こんなん私にも言ってるから誰彼構わず誘ってるのよ」
「そんなことないから!私は嶺杏ちゃんにビビッと来て誘ってんの!」
「わお。熱烈アタック。いいね!」
ヨルコが可愛く親指を立てる。
「嶺杏ちゃんにはドラム。そしてヨルちゃんはベース!頼んだ!」
「無理」
「ベースってギターとなにが違うの?」
何も知らない2人にいろいろと説明をする糸だった。
男子も女子も体育が終わり、男子も女子も良い香りを纏って4限が始まった。
4限も前回使ったプリントを使うということでヨルコは名良の机に机をつけていた。
「匂い変わったよね?」
ヨルコが小声で聞いてくる。
「ん?あぁ。ま、汗かいたし」
「女子もすごいんだね。鼻曲がるかと思った」
鼻曲がるかと思った発言に思わず笑う名良。
「そんな?」
「私鼻いいから」
スッっと通った綺麗で小さな鼻を人差し指でトントンと触るヨルコ。
4限が終わりお昼ご飯となった。
「琴道!琴道!」
雲善が琴道を呼ぶ。
「なに?」
「一緒に昼食べようぜ」
「あぁ。そーゆー。うん。わかった。待ってて」
琴道が自分の席にお弁当と取りに行った。
「ヨルちゃーん!」
糸が元気良く手を挙げ、ヨルコを呼ぶ。
「ん?どうした?」
「一緒にお昼食べようぜ!バンドとして」
「まだ組んでない」
嶺杏もいた。ヨルコはニコッっと笑顔になって
「待ってて!」
と言ってお弁当と取りに席に戻っていった。
「イサさん。マジで可愛いよなぁ~」
雲善が呟く。
「たしかに」
「やっぱ?琴道もそう思う?」
「まあ。さららのヒロインみたい」
「らさら?なにそれ」
「あ、えぇ~っとステップとかヤンガーマガジンとかみたいなマンガ…雑誌?」
「へぇ~。さらら?知らんわ」
「結構ヲタク向けだと思う」
「琴道ってマンガとかアニメ好きなんだね」
「うん。割と好きなほうだと思う」
「オタク?」
「ヲタクってほどじゃないと思う」
「名良は?なに好きなの?聞いたことなかったけど」
琴道もコクコク頷いている。
「オレ?オレはー…そうだな。まあ、マンガとかアニメも見たりするけど、強いて挙げるとしたら…音楽?」
「あ、そうなんだ?」
「へぇ~。どんな曲…というか誰聴くの?」
「まあ、わりかし満遍なく聴いてるけどね。だからまあ、みんなと同じよ」
「nyAmaZon musicで聴いてる感じか」
「そそ。2人だってそんな感じで聴いてるでしょ?」
「そうねぇ~ランニングのときとかテキトーに流して聴いてるわ」
「オレはアニソンとかキャラソンしか聴いてないわ」
「オタクやーん」
「オタクやん」
「そんなそんな。オレ如きがヲタク名乗っちゃ申し訳ないよ」
名良も雲善も
あ、コイツガチのオタクだ
と思った。
「ヨルちゃんはどこ出身なの?」
「えぇ~…っと。内緒で」
「内緒かー!」
糸がのけ反る。
「テンションたっか」
サンドイッチを食べながら冷静に言う嶺杏。
「どっかのお嬢様かぁ~」
「お嬢様ではないけど~」
「ヨルちゃん普段着どんな感じ?」
「普段着?うぅ~ん。めっちゃ普通かな」
「雑誌に載ってるような感じの?」
「そうそう」
「今度服見にいかない?休日。良かったらだけど」
「行きたい行きたい!」
「ワシも行きたいー」
まだ計画段階なのにヨルコは嬉しくなって
「3人で行こっか!」
と満面の笑顔で言った。ヨルコの笑顔に糸も嶺杏もやられて
「な、なら3人で」
「うっしゃー!」
と3人で行くことに決定した。お昼ご飯の時間が終わり、お昼休みに。
お昼休みに名良、雲善、琴道の3人
そしてヨルコ、糸、嶺杏の3人はそれぞれ連絡先を交換した。
5限も前回使ったプリントを使うということでヨルコは机を名良の机に寄せた。
「ねえねえ」
「ん?」
「LIME教えて?」
「え?」
唐突なことを言われ、戸惑う名良。
「ダメ?」
そんな聞かれ方したら大概の男は
「ダメじゃないけど」
と言ってしまうであろう。
「やった」
小さな声で喜ぶヨルコ。名良も
可愛いな
と思ってしまうのであった。ヨルコはスマホを取り出して机の陰で先生から見えないように隠れながら操作する。
名良もスマホを取り出し、ヨルコと同じように先生に見えないように机の陰で操作する。
「私QR出す?読み込む?」
「どっちでもいいけど」
ヨルコも名良も画面にQRコードを出す。
相手の画面にQRコードが出ているのを見て2人とも読み込む画面にする。
ヨルコがクスッっと笑う。名良は変なフラグが立ちそうで
頭の中の広場の中心に天から降ってきてビーンッっと刺さったフラッグに
猛ダッシュで近づき、ぼっきり折った。無事、連絡先を交換し終えた。
「てか、クラスLIMEもう入ってるよね?」
「あぁ、そうか。そこから追加すればよかったのか」
「ま、全然いいんだけどさ」
名良のLIMEのトーク欄の1番上にポンッっとヨルコとのトークが出てきた。
タップする。天使の女の子のキャラクターが「よろしくね!」と言っているスタンプが送られていた。
名良は「追加」ボタンをタップし、牛のキャラクターが「よモォしく」と言っているスタンプを送った。
5限が終わり、ホームルームも終わり
「起立。礼」
学級委員長の掛け声で教室内が帰り支度をする生徒でざわつき始める。
「名良、琴道。また明日な!今日練習で一緒に帰れないから!」
「おぉ~」
「わかったー。頑張ってね」
「頑張れー」
「おう!さんきゅ!」
「じゃ、帰りますか」
「だね」
名良と琴道はバッグを持って教室を出た。
「ヨルちゃーん!かーえろっ!」
糸が嶺杏を連れてヨルコの机の側に来た。
「ごめん。この後体力測定?があるらしくて」
「おぉ。そうか。付き合いまっせ。ね?」
「ん?ま、なんもないからいいけど」
「悪いよー」
「いいのいいのー。じゃ、更衣室レッツゴー」
3人は更衣室へ向かった。ヨルコは更衣室でスマホをいじる。
「琴道、今期見てるアニメは?」
などと話して下駄箱でスマホを出す。通知が来ている。
ヨルコ「今日はプリント見せてくれたり、いろいろありがとね!また明日もお隣同士よろしくね!」
天使が「よろしく!」と言っているスタンプ
その通知をタップし、ヨルコとのトーク画面へ飛び
名良「いやいや、お隣の義務だから。こちらこそ、明日からもよろしくです」
牛のキャラクターが「よモォしく」と言っているスタンプ
と返事を打ち込み送信した。ヨルコはその返事を見て
明日“からも”っていいなぁ~
なんて思いながら体育着に着替えて体育館へ行った。
これは少し恋愛に苦手意識を持っている主人公、紺堂名良と
ピンク髪の不思議な転校生、イサ・ヨルコ・ジェエノン
この2人と周りを囲む友達たちの青春の一片。