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俺の望むものは。

 テラの大地では、感染症が流行っていた。 鉱石病(オリパシー)、それは不治の病であり、罹った者は、体の中に 鉱石(オリジニウム)という石が増殖し、体中を石だらけにされ、死んでいく。そして、その死体にある 鉱石(オリジニウム)は、時が経つと膨張し、破裂する。破裂した所から、感染源である粉塵がバラ撒かれ、近くにいる者の体内に入り、また新たな感染者を生む。

 治療法が分からず、 鉱石病(オリパシー)に対しての情報も、一般的には知られていなかった。

 それ故、罹った者達は、差別の対象にされ、侮辱と迫害を受け続けていたのだった。

 鉱石病(オリパシー)感染者達は、自分たちの人権を勝ち取るべく、立ち上がる。

 その組織の名は「レユニオン・ムーブメント」。テロ組織である。

 彼らは新たな仲間を、そして多くの資源を勝ち取るべく、大きな戦場へと赴いた。大きな希望を抱えながら。

 その戦いは、虚しくも敗戦という結果に終わり、撤退を余儀なくしていた。

 その組織の中に、メフィストという感染者を操ることができる少年がいた。彼は、そんな敗戦状況で、『自身と大切な友人だけ』が助かるために、多くの仲間を自身が操れなくなるほど狂暴化させ、数多の苦しみを生んでしまっていた。それを見た少年、ファウストは激怒した。ファウストは、彼の身柄を拘束し暴走を止めるも、大勢の敵部隊に囲まれる。

 ファウストは、自身の命を代償に、自身が率いる小隊とメフィストそして彼の小隊を逃がすことを決行する。

 彼は苦悩と苦痛の中、最後まで自身の決断を泣き叫びながら否定する、彼の大切な友人が姿を消すのを、見届けたのだった。

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」


 俺は、しっかり見届けた。俺が率いていた何人かの迷彩狙撃兵と、昔俺に狙撃を教えてくれた彼、そして白髪のリーベリの友達が逃げる姿を。


「ゴフッ! ガハッ、ゴホッ……!」


 俺は、迷彩アーツを力の限り使った。当然、鉱石病(オリパシー)が急激に進行する。その作用で、体の鉱石(オリジニウム)が、俺の内臓を突き破ってくる。口から、大量に血があふれ出す。


「ゲホ、ゲホ……! はぁ、はぁ」


 激痛で、意識が飛びそうになる。


 ……俺には、もうこれしかなかった。


 意識が朦朧としたまま見渡すと、体から大きな鉱石(オリジニウム)を生やしながら、人々を襲う感染者がいた。


 アイツの望んでいるものは、本当は違うんだ。


 聞こえてくる、くすんだ部屋に響く、幼くも綺麗な声色を。


 思い出す、傷だらけになったあいつを。


 そして、血まみれになったアイツを。


(立て……武器を構えろ、俺。そして、全て終りにするんだ)


「グッ……う、うっ!」


 俺は、あの時から既に、間違えてしまったんだと。


 あの時、余計なことを言わず、二人で逃げてさえいれば……。


 あいつが、イーノが、あんな狂った姿なんて、もう見たくない。


 あいつが狂っている隣で、自分自身が人を殺めることも嫌なんだ。


 仲間を失う事も、嫌なんだ。


 俺自身が生んだ、多くの間違いで、俺自身の心が傷つくことも、全部嫌になったんだ。


(ゴホッ、ゴホッ!)


「レユニオン幹部のメフィストとファウスト、並びにその小隊はすぐ近くに潜んでいるはずだ! 龍門近衛兵狙撃部隊! 一斉に構え!」


 もう、いいんだ。


 もう、俺の命は、これで終わりだ。


 俺が、アイツが狂っているのを傍観することも、俺自身が人を殺めることも、これでおしまいだ。


 最後の矢をクロスボウに装填し、消えかかる意識と共に、最後の戦場に向かった。


 ああ、どうか。イーノ、俺の理想を、叶えてくれ……。


 生きるって苦しいことだけじゃないって。


 生きるって、素晴らしいことなんだって、気付いてくれ。


 だから、生き延びて、鉱石病(オリパシー)も治って、幸せそうに、歌を、歌ってくれ――。


 「撃てええええええええええええええええ!!!」


 矢が、たくさん飛んできた。


 (ふう……)


 神様、もし、叶うことなら……。


 あいつの歌声を、もう一度聞かせてください。

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