1.転生した先は。
(*'▽')せい!
正直なところを言えば、本当に異世界なんてものがあるとは思わなかった。
かれこれ三回目の転生ということになるが、飛ばされるのは決まって日本のどこか。一番古い記憶の戦国時代から始まり、現代日本の某都市まで。時代の移ろいを肌で感じられたのは貴重な経験だったかもしれないが、海外に行く機会すらなかった。
そんな俺が見つけたのが『異世界転生』を扱ったアニメ。
転生なんて荒唐無稽と呼ばれていたが、俺には同じ経験をしている者が他にもいるのだ、という可能性を感じる一端となっていた。いまになって考えてみれば、戦後の時代に『神隠し』と呼ばれたのは『異世界転移』のことだったかもしれない。
しかし、俺は結局のところ日本しか知らなかった。
だから本当に異世界があるのか、というのは眉唾話でしかない。それでも退屈な現代日本での生活をゼロからやり直す物語に、俺は憧れざるを得なかったのだ。
「…………でも、本当にあったんだ」
俺はそう呟きながら、ゆっくりと目蓋を持ち上げる。
そして、身を起こしつつ周囲を確認した。広い部屋の中に置かれている家具は、どれもこれも高価な品ばかり。俺が新たな生を受けたのは、貴族の子息、ということらしい。
「えっと、いまの俺の名前はクレス・オルトリーフ、か」
そのことに対しては、特別な動揺はなかった。
転生前の記憶が定着したのはたった今だが、それまでの経験はしっかりと憶えている。前世の記憶というものは基本的に、物心がつく際に消えるらしい。ただ俺の場合は少し特殊で、すべての記憶が連続しているのだった。
何はともあれ、ひとまずは自分の立場諸々を確認しよう。
「オルトリーフは名門と呼ばれる貴族家系で、位は侯爵。父のディオは王宮で宰相を務め、忙しい毎日を送っている。母さんは俺を産んだ際に死亡した」
ずいぶんと悲しい生い立ちではあるが、最も苦しんだのは父さんだ。
その証拠に、俺と彼の間には親子らしい記憶がない。ディオは母さんを亡くしたことで、今までよりいっそう仕事に打ち込むようになった。きっと俺を見ると、愛する人を思い出してしまうのだろう。
そのことを俺は責められない。
万人が最愛の人の死を受け止められるほど、強いとは限らないのだから。
「……とりあえず、その問題を解決するのは今じゃない」
俺は少し考えてから、改めて自分のことを確認することにした。
クレスという少年には『貴族の子息である』という点の他に、少しばかり困った特徴がある。それを確かめるため、俺はゆっくりと息を吸い込んで集中力を高めた。
「………………はぁ、やっぱりダメか」
そして、すぐに諦める。
右手を見つめて、ゆっくりとため息をつきながら呟く。
「クレスは神の寵愛を受けられなかった子、ね」
呆れたように、少しばかり肩を竦めながら。
「この世界の人々は生を受ける際に、神から【ギフト】という才能を授かるはずだった。だけどクレスはどうしたわけか、それを一つも持たないで生まれた」
それは、このフレリアでの常識だった。
誰もが何かしらの力を持って生まれる世界で、クレスは欠片ほどの才能を持たずに生を受けた異質な存在。その結果として、同世代の子供からは馬鹿にされているようだった。
いいや、端的にいえばイジメを受けている。
記憶を手繰ると虫唾が走るが、しかしこれから避けては通れないだろう。
「とりあえず、なにか食べようかな」
そんなこんなで。
一通り自分の置かれた状況を整理し終えたので、俺は部屋を出た。今後の問題については、朝食を摂りながらでも問題はないだろう。
そう、考えて。
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