プロローグ 世にも珍しい男。
ランキングの仕様が変わると聞いて。
「氷室幸村さん。……誠に残念ですが、貴方は亡くなりました」
目の前の女性は申し訳なさそうに言う。
周囲を見るとそこは『光の空間』とでも呼べばいいのだろうか、眩くも痛くない輝きに包まれた世界だった。とても現実離れした場所ではあるが、俺は至って冷静。
一つ息をつくと、新米らしい彼女にこう返すのだった。
「あー……俺、死んだの?」
そうだ。俺はこの場所に見覚えがある。
なぜなら今から三十年程前、自分はこの場所を訪れたことがあったから。簡単に言ってしまえば、ここは『あの世とこの世の狭間』であり、目の前にいる女性は女神様だった。
あの時とは別人のようだが、おそらくは人事異動があったのだろう。前の女神とは違って、いかにも新人らしい雰囲気があった。だったら、俺を知らなくても仕方ない。
「え、驚かれないのですか……?」
そう思っていると、こちらの余裕が気になったらしい。
彼女は小首を傾げながら、そう訊いてきた。
「なんというか、慣れてるからさ」
「死ぬことに、慣れてる……?」
「えっと……」
だから素直に答えると、新米女神は頭上に疑問符を浮かべる。
その反応も自然なことだ。古今東西どこを探しても、俺ほど死ぬことに慣れた一般人はいない。もっとも『死に戻り』だとか、そういった設定があるわけでもないが。
とにもかくにも俺は、世にも珍しい死に慣れた一般人、なのだった。
その理由、というのも――。
「もう、これで三回目だからさ」
「さ、三回目!?」
俺は今回の死より前に、二回ほど転生を経験している。
生まれは戦国時代、転生して戦後、そして今回は現代という感じで。どの生涯も短命ではあったが、各々にやり切ったように思う。だからというわけではないが、基本的に生前に対しての未練というものはなかった。
そのため興味があるとすれば、それは――。
「ところで、次はどこに転生するんだ?」
果たして次に命を授かる場所はどこなのか、ということ。
幸か不幸か、俺は今まですべての転生先が日本だった。時代が異なるために、各々それなりに苦労はしたけれど、これといって代わり映えがない。
多くは望まないが、できることなら次は別の場所がいい。
そう考えていると女神は、慌てた様子で資料をめくり始めた。そして、
「えっと、そうですね――」
まるで転勤先を告げる上司のように、こう言うのだ。
「氷室さんの転生先は【異世界:フレリア】です」――と。
それを耳にして、俺はしばし硬直。
だが、少しの間を置いてから叫ぶのだった。
「よっしゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
何故ならそれは、願いに願い続けてきた新天地だったのだから……。
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