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2話 ロッコちゃんが嫁に?

「でもっ、あんなのはただの独り言で、そもそもあの時この部屋には誰もいなかったはず!」

「ふーん。そうなると、悪魔が勝手に覗いてたのかもね。君の家に合わせ鏡になってる場所ある?ドレッサーに三面鏡使ってるとか」

「いや、ないな」

「それじゃー、もしかして猫飼ってるんじゃあない。そして独り言の時にその猫もいたでしょ」

「あ、ああ確かに。ロッコちゃんの言う通りだよ。まさか!うちの猫が悪魔だったのか!?」

「違う違う。猫っていうのは元々“こっち側”の存在だから。その猫の瞳を通して、人間界の様子を窺ってる連中がいるんだねぇ。それは暇つぶしだったりただの趣味だったりするんだけど、中には人間の独り言とかに対して勝手に契約を絡めて、命を貰おうとする悪魔もいんのよ」

「そんな……」


 つまり、あの時の決意は悪魔に盗み聞きされ、強制力のある約束事になってしまったわけだ。

 残り13時間。いや、もう13時間を切っている状態で、恋人を作らなければならない。

 俺にはそこまで親しい女子はいない上、時間を通して仲良くすることも叶わない。

 終わるのか、俺はここで。

 ふわふわとした、現実感のない重みに縛られる。その矛盾する感覚を内包した焦燥感は、俺を一つの念へと導いた。

 ──時間がない。


「それじゃ、頑張ってね」


 彼女を逃がしてはならない。


「ロッコちゃん……」

「うん、どーした。他にも聞きたいことあった?」

「俺と、付き合ってくれ」

「うん?」

「お前が好きだ」

「やー、いきなりそんなこと言われても……」


 突拍子もない発言。しかし、今の俺にはもうそれしかないと思えた。一日にも満たない時間で恋人なんて出来るわけがない。それならば、事情を知っているこの子に頼むしかない。いや、なんとしても落としてみせる、この女の子を。

 命がかかっているのだ。


「焦る気持ちは分かるけどさぁ、私なんかと付き合ったところで……」

「なんかじゃないっ、ロッコちゃんは可愛い!」


 俺は彼女に詰め寄って肩を掴んだ。


「……そんなこと初めて言われたなぁ。私なんて髪ボサボサだし、目の下も隈っぽいから」


 そう言ってロッコは顔を少し背けてしまう。


「そ、そうか?」

「うん。血色悪くて不気味で、薬物中毒者の溜まり場に居そうとかよく言われる。後、笑い方キモいって」


 どうしよう。笑い方はともかく、全くもってこいつの言う通りだ。しかし、こうやって近くでまじまじと見つめてみると、普通に可愛いというか、本当に魅力的に思えてくる。

 首につけた黒いチョーカーを際立たせるその白い肌は美しく、うねるように流れる髪も妖艶さを纏っている。目尻の下がった目は光こそ灯していないが、退廃的に人を惹きつけるように感じられた。


「んーと、そろそろ離してくれない?」


 離したくない。離してしまったら、彼女が可愛くないと認めてしまうことになる。本当は可愛いのに。

 だが、これ以上どうやってロッコを褒めたらいいのか。頭で色々思っても、口から出そうになるのは『可愛い』『綺麗』といった単純な褒め言葉ばかりだ。

 それはそうだ。だって、俺はいままで碌に人を、女の子を褒めたことがない。

 考えろ。俺の人生の中で、どこかに、誰かが、誰かを、一流ホスト並みに褒めている光景があったはずだ。

 しかしそれは現実の場面じゃない。そう、創作物。俺の手持ちにはなく、記憶の片隅にあるそれは…………妹の少女漫画だ!

 なりきれ、少女漫画に出てくるイケメンのように。


「だけど、俺はお前を愛してしまったんだ」

「え……」

「こんな時だからさ、信じてもらえないかもしれないけど、俺は本当にロッコちゃんと付き合いたいと思ってるんだ。こんなに魅力的な君を今まで誰も褒めてくれなかったのなら、これからは俺が言うよ。ロッコちゃんは可愛いって一生言い続ける」

「い、一生?」


 勢い余って随分と過激なことを言ってしまった。

 しかしもう止められない。このまま突っ走れ!


「ああ。さっきは付き合ってほしいって言ったけど、それは嘘だ」

「……ははー、だよねぇ。私にしては珍しくびっくりしちゃった」

「俺と結婚してくれ。死ぬまでお前を愛すると誓う」


 なに言ってるんだ俺。バカか?暴走しすぎた。初対面で求婚とか常識外れにも程がある。


「え…………ふへ、ふ」


 確かに笑い方キモいな。


「そうだなぁ、死ぬまでしゃなくて、死んでも愛してくれるっていうのなら」

「は?」

「……だめ?」

「い、いや、もちろんだとも」

「嬉しい」


 もしかして、了承、したのか……?

 ロッコの頬は心なしか、紅潮しているように見える。


「三浦周司くん。これからはしゅーくんって呼んでもいい?」

「ああ……」


 マジかよ。ファンタジーな死神が相手なのだ。常識なんて要らなかったんだ。

 これで、俺に恋人が出来た。もう、死ぬ心配は無い。


「あーでも、浮気することになっちゃうなぁ」

「え、ロッコちゃん彼氏とかいるの?そいつより絶対俺の方がお前を愛してるって。彼氏とは別れて俺を選んでくれよ」


 一応恋人としてのポージングはしとくか。愛が感じられない、やっぱり死ね。とか言われたら嫌だし。


「そうじゃなくってねぇ、これからしゅーくんが浮気するんだよ。君の契約が残っているから」

「け、契約?」

「うん。恋人は同族じゃないと駄目。私は人間じゃないからカウントされない」

「なん、だと……」


 俺は、無駄に熱烈な愛の告白をしていたというのか。


「なんでだよ!いいだろ死神と人間が恋愛したって!」

「へへへ、もちろん」

「だったら契約解いてくれよ!」

「私が決めたことじゃあないよ。その昔、魚と恋人になったと言い張って、悪魔との約束を逃れた人間がいてね。それ以来、契約時に特に明言がなければ、人間は人間同士のみって定まったんだねぇ」


 過去にも俺と同じような条件で追い込まれたやつがいたわけか。しかし羨ましい話だ。魚なんて頑張って口説く必要すらないじゃないか。餌とか与えていれば懐いてくれそうだ。


「そうだ、それともう一つ。契約内容を人に喋っちゃ駄目だよ。この契約書によると、秘密保証契約になってるから、他人に話すと死ぬよ」

「マジかよ……」

「制限時間、残り12時間と21分で頑張ってね。でも失敗してもだいじょーぶ。本妻の私がいるから。死んでも私がちゃんと愛してあげる」


 そう言ってロッコは俺の顔を掴むかのようにして、頬に手を当てた。紫色のネイルが目に入ってしまいそうだ。

 そして、俺が死んでも構わないと微笑む彼女は、やはり死神なんだと思わせた。

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