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ぶっ飛ばされる、したい、されてた

 クレーンゲームでの釣り上げが失敗続きで膠着してきた頃に、富良野先輩がスマホを取り出した。


「お、もう学校終わってんじゃん。ごめん私この後約束あんのよ」

「やっぱさっきの人達と合流するんですか?」

「違う違う、レイラとさ」

「ああ、なるほど」


 富良野先輩はニヤッと笑って見せた。


「もしかして私が男と会うと思って嫉妬しちゃった?」

「い、いや、そんなことはないっすよ!」

「えーっ?つれないじゃん後輩くん。私は結構好きだったりするんだけどなぁ。今日凄い楽しかったし!」


 さっきの意地の悪い笑みではなく、今日一番の素敵な笑顔を向けてくれた。


「ボコされてですか?」

「オラァ!」

「いって!」


 平手打ちを背中にくらってしまった。

 素直な態度を取った方が良かっただろうか。なんだか照れ隠しで、反射的にに否定して茶化してしまった。


「あー、その……」

「あ、そうだ!今日の出会った記念にプリクラ撮ろ!」


 富良野先輩に連れられてプリクラコーナーまでやってきた。

 二人きりの狭い空間。今日という日も終わりに近い。この場所で、富良野先輩に告白してしまおうか。富良野先輩だってそれなりに好意を持ってくれているようだし……

 でも、俺の方はどうなんだろうか。俺は彼女のことが、好きなんだろうか。

 なにを今更考え込んでるんだ。あの素敵な笑顔をもう一度見てみたい。告白する理由なんてそれだけで十分だろう。


「ほらー、一枚目撮っちゃったじゃん。そんな離れてないでもっとこっち寄りな」

「え?」


 考え事をしている時に無理やり引っ張られ、大勢を崩してしまう。


「おわっ」

「え、ちょ、抱きつくのは──」


 しかも、床に直置きしていた富良野先輩のスクールカバンに足を引っ掛けて、もつれてしまった。

 そして、二人はそのまま外へ倒れ込む。


「いたた……」

「す、すみません!」

「あ、んっ」


 艶かしい声が耳元をくすぐる。

 気がつくと、俺は彼女の胸を鷲掴みにしてしまっていた。


「ほんとすんません!」


 富良野先輩に手を貸してから慌てて身を引くと、大きな人影が俺達を見下ろしていた。


「……なにをやってるんだ、お前ら」


 かなりの大柄でがっしりとした体付きの、強面の男だ。ここの制服を着ているので、どうやらゲームセンターの店員のようだ。


「いやあの違うんです!ちょっとプリクラ撮ろうとしてたら転んじゃって」

「げっ、士音しおん……」


 富良野先輩の顔が引き攣っている。


「名前呼びはやめろっつったろ」

「だって、外じゃ恥ずかしいし。つーか新しいバイト先ってここだったのかよ……」

「お知り合いなんですか?」

「おいお前、俺の明音に馴れ馴れしく話しかけてんなよ」


 でか男がズイと前に出る。

 お知り合い、そして、『俺の明音』ということは、も、もしかして富良野先輩の彼氏なの?!俺には彼氏いないって言ってたくせに!いや、俺は言われてないか。

 というか先輩こんな厳つい彼氏いたのかよ。ビジュアル的にはなんかお似合いだけれども。


「ちょっとやめてよ……」

「明音は黙ってろ。おいクソガキ、店内でこんな真似して、どうなるか分かってんだろうな?」

「マジで事故なんですって!」

「だったらよ、店出て裏路地まで来いや」

「……分かりました」


 相手からすれば自分の女に手を出されたわけだ。怒り浸透といったところだろう。


「ほんとやめてってば!」

「こいつの学校に連絡入れんぞ」

「うっ……」

「大丈夫っす富良野先輩!」


 なにが大丈夫なのか全く分からないが、富良野先輩の、申し訳なさそうに青ざめた顔を見ていたら、そう言わざるおえなかった。


「マジで、ごめん……」


 襟首を掴まれて巨漢の男に連れられて行く最中、自動ドアの向こうで彼女は最後にそう言った。


 日の届かない、古ビルの壁はひんやりとしていた。上の方から室外機の滴が壁を伝っており、背中に水気がじんわりと広がる。


「覚悟はいいか?」

「その前に一つ」

「なんだ」

「富良野先輩は可愛い」

「あ?」

「笑顔も魅力的だ。性格も、少し自由奔放すぎるかもしれなけど、無邪気で人を笑顔にしてくれる。そこがまた愛らしい」

「……だから、なんだ?」

「あんなにも素敵な少女を一人で独占するなんてずるいじゃないか!彼女を俺と一緒に共有しよう!」


 契約内容に、二股されるのが駄目だなんて書いていなかったはず!こういう自由な恋愛関係があってもいいんだ!


「歯ぁ、食いしばれやゴラァ!」


 駄目か。

 顎に衝撃が入り、立っていられず俺は意識を手放した。



 混濁する意識の中で、少し寒いような、それでいて心地のいい夜風が、顔を優しく撫でる少女のそれだと気づいた時には空が暗くなっていた。


「…………ロッコちゃん?」

「おー、やっと目が覚めたか」

「ここは……」

「駅近くの公園だよ」


 どうやら、公園のベンチでロッコに膝枕をしてもらっていたようだ。周囲の街灯にはもう明かりが灯り、噴水はLEDライトでカラーリングされている。


「なんで俺こんなところに……」

「私が担いできたんだよー。しゅーくんぶっ倒れちゃったから」


 そうだ、俺は富良野先輩の彼氏にぶん殴られたんだ。


「気絶した人を運んでくるなんて、見た目によらず力強いな」

「まぁねぃ。私人間じゃあないし」

「そうだ、富良野先輩は?」

「ふら?」

「えっと、髪をちょっと赤く染めてる人を見なかったか?」

「あー、あのお嬢ちゃんか。そーいえばこれ、その子からの預かりもの」

「富良野先輩から?」


 ロッコが指に挟んで差し向けたのは、一枚の紙切れだった。


『うちのお兄ちゃんがごめん!』


 紙切れもとい手紙と呼べる代物の冒頭には、そう綴られていた。


「……うちの、うちのお兄ちゃんがごめん!?」

「しゅーくんお兄ちゃんいたの?」

「ちげーよ!くっそ、他人の女の胸揉んじゃったから甘んじて一発受けてやったのに!あいつただのシスコン野郎だったのかよ!今度会ったらぶん殴り返してくれようかっ」

「あー、それならロッコちゃんがやっちまったよ」

「え?やっちまって……」

「倒れたしゅーくんに追撃入れようとしてたから、てっきり殺そうとしてるのかと思ってさぁ。あの男結構強めにぶっ飛ばしちゃった」

「し、死んだの?」

「いんや、あの赤い子に連れられてどっか行った」

「そ、そうなのか。運んでくれたのも含めて一応礼言っとくよ。ありがとう」

「どーいたま」

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