しあわせのひまわり
『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『ひまわり』
昔懐かしい学校への通学路を花を抱えて歩いていく。
この道を歩いていると、あの頃の彼女を思い出す。
同じ部活の後輩の、いつも明るくて元気な女の子。
『先輩もこっちなんですね、一緒に帰ってもいいですか?』
帰る方向が同じだから、部活が終わったらいつも一緒に帰ってたっけ。
『先輩って、クラスの女の子と話したりするんですか?』
僕にだって話をする女子はいるよ、クラスの用事がある時だけだけどって言ったらちょっと嬉しそうで。
『じゃあ、クラスに気になる女の子とかは?』
その時は別にいなかったから、いないって言ったら嬉しそうにして。
『じゃあ、今、お付き合いをしてる人は?』
ちょっと話が飛躍したけど、正直にいないって言ったら少し頬を紅くして。
『それなら、私が立候補してもいいですか? 先輩の恋人に』
そういう君の頬は、夕焼けよりも真っ赤だったね。
『駄目、ですか?』
そう言って不安そうに見上げてくる君の、小さなひまわりの髪留めを見ながら、僕が駄目じゃないよって言えば嬉しそうに笑顔を浮かべて。
『それじゃあ、これから宜しくお願いしますね! 先輩』
そう言って君は、まるでひまわりのような満面の笑顔を見せてくれたね。
そうして僕と彼女が恋人同士になってから随分と時間が経ったと、そんな昔のことを思い出しながら僕はコンクリートの塀に囲まれた白い建物の中へと入っていく。
入口の受付で手続きを済ませて病室へと向かい、抱えていた花を持ち直しながらドアをノックすると中からどうぞ、と看護師さんの声が聞こえたのでドアを開けて中へと入る。
「ああ、起きなくてもいいから。横になってて?」
「病気じゃないんだから、心配し過ぎよ? 寧ろ寝てばかりだと良く無いんですって」
ベッドの上に横たわる彼女、持ってきた花を見て嬉しそうに笑顔を浮かべながらも僕に仕方ないわね、という顔をする。
看護師さんが花瓶に活けてくれると言うので手渡して、ベッドの横の椅子に腰かける。
「ねぇ、お願いしたこと、考えてきてくれた?」
「もちろんだよ。男の子なら日向、女の子なら葵」
少し体を起こして聞いてくる彼女に、僕は考えてきた二つの名前を伝える。
彼女は少し驚きながらも、嬉しそうに微笑んでくれた。
「私の好きなひまわりから考えてくれたのね」
彼女の言葉に頷いて、随分と大きくなった彼女のお腹を見つめる。
暖かい日差しの中、新しい家族が増える幸せに満ちた僕達を、窓辺に飾られたひまわりが優しく見つめていた。