表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/48

5. 救う手立てを探して


 午前九時ごろ、ファトラの寝室から絶叫が上がった。遺体や魔物の死骸は、明け方、バルトが一度入った時に静かに運び出されたものの、多量の血痕はそのままにされていた。さらには、着衣も血で汚れているのである。自分のではない。ファトラの口周くちまわりや、手に付いた血はバルトがき取ってやっていたが、着衣の方はそのままにしておくしかなかった。


 ファトラはたちまち腰を抜かして、錯乱状態に陥った。そして、もつれる足を無理に動かし、どうにか部屋を出ようとした。だが、扉が開かない。誰か助けて、ここを開けてと叫んでいると、やっと気配がして、扉越とびらごしに姉の声が聞こえた。


「あなたがやったのよ。」と。


 姉のラルダは、そのまま去ってしまった。


 どういうことかと考えていると、ファトラは外せない首輪に嫌な予感を覚え、もしやと気付いた。恐ろしくなって、どうにか外そうと部屋にあるものを使い、首の皮膚を傷つけながらも必死に試みるファトラ。どうにもならない・・・。助けて欲しくて、再度扉を強く叩きながら、家族の名を呼び続けた。ずいぶん長い時間そうしているうち、言いようのない悲しみが次第に気力を奪っていく。


 ああ、なぜこんなことに・・・。何か恐ろしいことが起こっている原因がこの首輪だとしたら、なぜ町の子供たちは・・・。何もおかしいところなどなかった。いつも仲良くしてくれた。子供たちがただ利用されただけだとしたら、誰が何のために・・・。


 ファトラには疑問しかなかったが、とても考えられる心境ではなかった。


 やがて絶望感だけとなったファトラは、絨毯じゅうたんのそこかしこに血痕が広がっているおぞましい室内で、ベッドに座り込んだまま、うつろな双眸そうぼうを窓の外に向けた。






 バルトもまた首輪のことを考えていた。


 子供たちがくれたと言っていた。お嬢様は利用されたのだ。さらには、無邪気な子供たちも。モリス子爵の死亡、そうでなくても、この事件によって悪事が明るみに出、失脚することを望む住民たちに。決死の覚悟だったはず。こうでもしなければ、王や元老院議員の耳にまで届かない。領主やその家族が次々と不自然に死亡すれば、嫌でも上はそれを知る。この件で動いてくれれば、少なくとも動機を直接訴え、不満を聞いてもらうことができる。犯行に及んだ者たちは、そう考えたのだろうか。それに昨日は、視察におとずれた侯爵が、町の高級旅館に宿泊していた。どこかで情報を得て、決行日まで狙ってやったのか。ファトラお嬢様自身は、住民から何のうらみも持たれてはいないが、所詮しょせんは殺意を覚えるほどにくらしい子爵家の人間だ。


 町の中で、すでに多数の死者を出した以上重罪だが、その犯行の動機が明らかになれば、彼らが望むようにせめて上層部に知らせることができ、捜査が行われ、例の噂の真偽をはっきりさせられるかもしれない。


 だがとにかく、今はお嬢様をお救いする方が先だ。


 早速さっそく行動を起こしたバルトは、術使いのもとを順番にあたっていた。

 幸い彼は、並みにだが乗馬ができる。ただ歩かせるだけでも人間の足で行くより速いし、乗り合いほろ馬車いわゆるバスを利用するより時間もかからない。この町や近郊に、信頼できる術使いの住居は三軒あった。全て回っても、夜までには戻ってこられる距離だ。


 そして、その一件、一件に詳しく状況などを説明すると、一様いちように、首輪が外れないのは呪いのせいだと教えてくれた。バルトは首輪から魔物が生まれたのを見たので、ファトラが気を失っている間に外そうとしたのである。しかしその通りで、ならば外して欲しいと頼むと、また口をそろえて、浄化はできるが首輪は取ってもらいたいなどと、とんちんかんな返事をする。そのままでは何かマズいことがあるのだとさとったバルトは、遠回しに断られたことを理解した。


 バルトは肩を落とし、今日のところはあきらめて帰ることにした。


 これで近くのあては全滅。ほかにまだ一人だけ心当たりがあるが、昔たまたま見かけたり、少し聞いたことがあるだけで、関わったことはない。それは、東の森の岩山にある、スラバという村から来ていた術使いである。しかし、やや老いていたその人は、もう何年もすっかり見なくなったので、すでに引退した可能性が高い。それでも迷っている余裕などなく、望みがあるなら実行すべきだ。ただ、往復に何日もかかるため、その許可をもらい、準備をし、仕事の調整も必要である。今すぐ屋敷へ戻らなければ。


 そう奔走ほんそうしているバルトを、もはや血の気も失せ、絨毯じゅうたんの上で冷たくなっているファトラは知らなかった。












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ