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18. 体を蝕む怨念


 リンを家へと連れ帰ったレッドは、気絶しているリンのそばに腰かけて、カイルが戻ってくるのをただ待ち続けた。息はしているが、大丈夫なのか・・・と、たびたび不安になる。そんなレッドの膝の上には、心配そうにおとなしくしているミーアもいる。ここにいる間、リンとミーアは実の姉妹のように仲がいい。リンが何かとミーアにかまって優しくしてくれる姿を、レッドはほほ笑ましい気持ちで何度も見ていた。だからミーアは、自分だけ続けて遊ぶ気になどなれないのだろう。


 そうしていると窓の外にあわただしい気配がして、レッドは反射的に目を向けた。

 今、横切ったのはカイルか・・・と、思っている間にリューイも通り過ぎ、玄関が開く音がして、部屋の中へ汗まみれのカイルが飛び込んできた。続いて現れたリューイは、肩から三つも四つも薬草の詰まった袋をぶら下げている。


 レッドはミーアを抱いて立ち上がり、すみやかに椅子を空けた。


 手の甲で無造作むぞうさに汗を拭いながらうなずいたカイルは、薬草摘みでも汚れたその手をサイドテーブルのおけの水で洗い、リンの着衣のえりぐりから手を差し込んで胸に当てる。霊能力を持つ医者はみなこの触診で診断できるというが、三箇所ほど胸のあたりに手を置いただけで終わった。そういえば、幼い子供の体は小さいからやたらに触る必要がないと、レッドは以前聞いたことがあった。


 それから椅子にのろのろと腰を落としたカイルは、明らかに浮かない表情をしている。続いてその口から出てきた声も重い。


「前にた時は正常値だったのに・・・心機能が急に低下してる。心臓にまで害が及びだしたんだ。その場だけのことなら単に軽い胸やけ程度で済むし、僕たちはれて少しずつ免疫めんえきがつくものなんだけど、まだこんなに小さいのに、こんなに強い力持ってて、なのにずっと怨念を直接体にくっつけてるから・・・慣れるどころか度を越して、きっと内臓にまで影響し始めた。それに、狂暴化して体そのものにかかる負担は、じわじわと本来の運動機能を壊していく。鎮静ちんせい薬だって決して体にいいものじゃない・・・。」


 理解できないだろうと分かってはいたが、レッドはそっとその場を離れて、ミーアを台所へ連れて行った。


 カイルは、レッドがあらかじめ用意しておいた医療バッグに手を伸ばし、事務的に薬の調合を始める。しかしその心の中では、居てもたってもいられない思いに苦しんだ。そばにいるリューイの顔には、あせりと苛立いらだちが見て取れる。


 解決法を探りに行っている二人に、何か良い収穫はあっただろうかと。


「早くしないと・・・これじゃあ、標的にされたのと同じだ。」

 そうカイルは悲痛な胸の内を漏らした。


 そんな気をまぎらせるように、今せめて自分ができることで良くしようと、カイルは冷静に手を動かして黙々と作業を続ける。その姿からはくやしさが伝わるばかりのリューイは、そばにいて何も声をかけることができなかった。


 そこへ、この重い沈黙をよそに、畑から直行でバタバタと部屋に駆け込んできたのは、シャナイア。嬉し気に両手で抱えている竹籠たけかごには、たっぷり入っててんこ盛りのトマトやなすびが美味おいしそう。 


 村の中にある民家に囲まれた段々畑は、耕地こうち面積の取り分が平等になるように共同で使われている。上手く頃合ころあいに育った夏野菜を、わざわざ走って見せに来たのか。空気を読めよと思って、食いしん坊のリューイでもムッとなった。


 とんだ勘違かんちがいである。


「二人が戻ったわよ!」


 そう、彼女は、エミリオとギルが帰ってきたことを知らせに来てくれただけだ。


 顔を見合ったリューイとカイルはやにわに腰を上げ、レッドも台所から現れて、一緒に外へ出た。


 午後のやわらいだ陽射しを浴びて、長身の男性が二人、手綱たづなを引きながら近づいてくる。一週間ぶりに見るその姿は、とても大きな存在に思えた。


「待たせたな。大丈夫だったか。」

 ギルが言った。


 いつものたのもしい声と表情にほっとなる。不安で気が張っていただけのカイルは、思わず込み上げてくるものを感じた。

「みんなは・・・でも、リンが・・・。」

「ついさっき倒れた。やはり、体が耐えられなくなってきているみたいだ。」

 レッドがそう報告した。


 とたんに表情を変え、深刻になるエミリオとギル。

「そうか・・・だが、すまない。具体的な解決法は、まだ分かっていないんだ。しかし、すぐに得られる可能性がある。それにはカイル、今度はお前に行って欲しい。」

「過去に、その首輪の呪いにかかった者が二人いたらしいんだ。その一人が、無事に外すことに成功している。やはり、あのやしろには重要な意味があった。」

 ギルのあとに、エミリオも確かな声で続けた。


「ほんと!」

 レッドやリューイと目を見合って、カイルははずむ歓声を響かせた。


 だが話はまだ終わっていない。ギルはさらに言葉を続ける。


「ただ大昔のことで、関わった者は、誰ももうこの世に生きてはいない。ほかに聞けたことと言えば、神の使いと言われる村長が祈ったら、あのやしろに神様が現れて、不思議な緑と紫の光で首輪の呪いを綺麗にしてくれたという、その一連の粗筋あらすじだけだ。」


「・・・おとぎ話感と、ざっくり感がすごいんですけど。」


「全く同じことを俺も思ったが、推定すいてい八十歳のお嬢さんが、得意気にそう教えてくれたんだ。だから具体的なことは、お前の力で呼び出して、きいて欲しい。」

「神様を?」

「呼べるのか? 首輪を無事に外してもらえた、その当人の霊をだ。」

「え・・・でも・・・。」


 精霊たちに古い時代の霊を探してきてもらうには、手掛かりがとぼし過ぎる。


 そんなカイルを分かっていたエミリオは、事もなげな笑顔を見せた。

「カイル、あの町にその子孫がいる。」


 続いて、ギルもこう付け加える。

「推定八十歳のお嬢さん、彼女がそうだ。」













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