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16. 子孫


「はい。」


 ギルが返事をすると、刺激のない老後生活を送っていたようで、彼女は子供のように何かわくわくしながら、二人を見て言った。

「その後のことを知りたい?」


「ご存じなのですか。」と、一方のエミリオは落ち着いた声できき返した。

「ええ、何しろその首輪を譲ってもらった人物っていうのは、私のご先祖 ―― 」

 あわてて身を乗り出したギルは、てのひらを向けて待ったのポーズ。

「ち、ちょっと・・・お嬢さん。」 

 一瞬考えて、ギルはそう呼んだ。 

 老女は否定しない。良かった、正解だ。 


 ギルは周囲を見回した。受付嬢のほかに、通りすがる人の姿が二つ、三つ・・・。


「あの、場所を変えましょうか。」


 ギルが立ち上がると、エミリオは自然な仕草しぐさで手を差し出して、老女を支えた。


 二人は、彼女と一緒に役場を出て、外の中央広場を歩き始めた。遊歩道に沿ってしばらく行くと、水鳥の群れが悠々と泳いでいる池が見え、そのほとりにベンチ椅子が置かれてある。周囲にいる人影もまばらで、隣のベンチとも距離がある。ここならゆっくりと話しができそうだ。  


 エミリオとギルは、そこで詳しく話を聞かせてもらえることになった。


「さっきは、呪いの首輪を譲ってもらった人物がご先祖だって話したけど、彼はそれを持って帰って婚約者に贈ったから、その首輪の呪いにかかったのも私のご先祖様よ。つまり、当時は恋人ってことね。結婚の準備をしに町へと出かけていたところ、その綺麗な首飾りを譲ってもらえたものだから、喜んで持って帰ってきたそうよ。呪われているとも知らずにね。私もこの町に来て、それ以前のその話を知って驚いたものよ。」 


 高齢の外見にしては少し違和感がする若い言葉遣いだが、歳には勝てないのだろう、口調はかなりのんびりである。


「なんて皮肉な・・・。」

 その後の彼の心中を察して、エミリオは胸を痛めた。

「恋人が呪われたのなら、殺処分なんてさせないはずだな。現に、こうして子孫がいるわけだし。」

 ギルが言った。


「もちろんよ。さあ、今からその話をゆっくり聞かせてあげるわね。首輪を持って帰ってきたご先祖の名はリアン。それを贈られたもう一人はレネ。二人の結婚式をおよそ一か月後にひかえた、ある真夜中のことだった。何も知らずに呪いの首輪を身に着けてしまったレネは、まるで猛獣と化して暴れ回ったため、村人たちによって仕方なく煉瓦れんが小屋に閉じ込められたの。リアンはレネを助けたい一心で、神の遣いである村長に相談をした。そこで村長は神と交信し、神から助言をたまわることに。」


 え・・・? と、エミリオとギルは顔を見合う。大事なところから、話が何だかおかしな方向へ進みだしたぞ・・・と。


「すると神が言った。私が降りていけるやしろを造りなさい。そうすれば、呪いを解いてあげることができると。」

「それについての方法は聞いていますか。」

 話を強引ごういんさえぎらないようにして、上手くエミリオが問うた。

「ええ、儀式はそのやしろの中で行われたと聞いたわよ。神の使いである村長の祈りでそこに神様が現れて、不思議な緑と紫の光で首輪の呪いを綺麗にしてくれたってね。こうしてその翌日、二人は無事に結婚式を挙げることができ、生涯しょうがい幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。」


「おとぎ話感と、ざっくり感がすごいんだが・・・。」

「事実が子供向けに歪曲わいきょくしているんだね・・・きっと。」


 代々こんな感じで聞かせているうちにゆがみに歪んでいったのだろうと、二人は頭を抱えた。同時に思ったことが一つ。リディバの首輪伝説に続くこのおとぎ話を、その町の人々に教えてあげたいものだと。そうすれば後味あとあじの悪い最後はハッピーエンドに変わり、子供たちの教育上にも良くなる。


「ああ、それから首輪は、誰にも分からないようにして、そのやしろの土の中に埋められたそうよ。」

「それをあの子が掘り起こしてしまったんだね。」と、エミリオはため息をついた。

「とにかく、あのやしろの中ですれば、リンの体を傷つけずに浄化できるってことか?つまり、リンをあのやしろへ連れて行ってその中で儀式を行えば、無事に浄化できると?結果、成功したんだろうが、何かいまいち・・・」

「確かではない。」

「だな・・・。たぶん大丈夫じゃあ、やるわけにいかないよな・・・。」


 だが、実話であるはずのその一部に信憑しんぴょう性のうすさが見られることはさておき、呪いの首輪を、人体を傷つけずに外した例があるという情報を得たことは、じゅうぶんに大きな収穫だ。


 この出会いを生かして、何とか確信に近づきたいところ。それを体験した者の子孫が、今ここにいるのである。これ以上の手がかりの入手先には、もう巡り合えないだろう。


 難しい顔をそろえて、二人は沈黙した。知識もあり、戦略をたてることもできるほど機転が利く二人は、このあと彼女に何を問い、頼めば、確実な解決方法にたどり着けるかと、それぞれが懸命に考えた。


 すると、そう悩まないうちに、エミリオに名案が舞い降りたのである。

「血縁の霊ならば呼び出すのも難しくはないと、カイルは言っていたように思う。本人にきいてみればどうかな。」


 そうだったと、ギルも思い出した。

「なるほど、彼女から、当時あの首輪を身に付けた方のご先祖様を呼び出して、きけばいいのか。その儀式を行った神様の方を呼び出せれば、確実なんだろうが。」


 老女をはさんで座っているエミリオとギルは、その頭の上で堂々と二人だけの会話を終えると、左右から改まった態度で彼女に向き直った。


 スッと手を伸ばしたギルは、しわだらけの骨ばった手を優しく拾い上げながらエミリオに目配せする。あとは任せたと言わんばかりに。


 エミリオは老女のその手をとって、言った。

「お願いがあるのですが・・・お嬢さん。」


 










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