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15. 推理


「さっきの会話のご先祖だろうね・・・。」

 階段を欄干らんかん伝いに下りながら、エミリオが言った。


 六十代前半とおぼしき男女の会話のことである。


「ああ。やはり、浄化をする以外に外す方法はないか・・・てことは、呪いがよみがえったってことか?浄化をしても意味がないと?問題が増えただけかよ。」


 あの首輪からは今も呪いが感じられ、またリンの首から外れなくなっているのだから、その時に浄化されたはずのものが、また復活したということになる。


 一階へと下りて来て休憩所に誰もいないのを見ると、そこの空いていたソファーに、エミリオもギルも力なく腰掛けた。


 背凭せもたれに寄りかかったギルは、両手を頭の後ろで組んで、しばらく思考停止状態に。そして、あきれ混じりに乾いた笑いを漏らした。


「参ったな・・・解決方法が分かるかと思ったら、前に呪われた者は、浄化する前に殺されて首を斬られてた。で、あとはどこの誰とも分からない者が持って帰った。それも、何百年も昔に・・・ってのが、事件が起きていた場合の収穫とは。殺して首を斬れば、そりゃあ外せるだろうな。」 

 それから、やけくそ気味にこう続ける。

「あのやしろのことも話に出てこなかったし・・・。怒り散らしていたあの女性を探して、本当かどうか追及してみるか。さっきの会話によると、その子孫だろう?お近づきになりたくはないが。」


「どうかな・・・彼女のあの様子を見ると、失礼だが真実のような気がするから。そうなら、それどころか知らないふりをされる可能性もある。」

「確かに、褒められたものじゃないからな。」

「だが分かったこともある。浄化の儀式、それが行われたのは・・・恐らく、二度だ。」


 同様に途方に暮れていると思われたエミリオから、そんな意外な一言が。


 ギルは両手をほどいて前屈まえかがみになり、真っ直ぐに顔を向けた。

「なぜ、そう言えるんだ?」


「その結末は、浄化してあのやしろに埋めた・・・ではなく、他人にゆずった・・・だった。つまり、あのやしろに首輪を埋めたのは、その家族ではなく、きっと譲られた誰かだということだ。なぜそんなことをしたのか。その誰かは、何も知らずにそれを手に入れたわけなのだから、恐らくそこで、また同じ悲劇が繰り返されたのだろう。そして、もう一度浄化の儀式が行われた。


 だがそれは、今、リンの首にある。つまり、また悲劇が起きたとして、浄化しなければ首輪は取り外しができないのだから、きっと二度目の浄化が行われ、外せるようにはなっていたんだ。そして、もう誰も手にしないように埋められていた。あのやしろの中にということは、その二度目の儀式には、そこで何か神聖なこと・・・もしかしたら、何か特別なことが行われたのかもしれない。


 譲られたその人物は・・・きっとあのやしろのそばで暮らしていた者。さっき名前がでてきたスラバの村人だと思う。だが術使いに依頼したり、やしろの建築にはそうとうな費用がかかる。それを、ただの村人が個人で払うことができるとは思えないから、運よく、村人の中に何人も優れた大工と、優秀な術使いの両方がいたんじゃないかな。


 理由は、あの村の家屋かおくだよ。村という共同体では、住む家を、村人たちの手で協力し合って建てるところも多いと聞く。実際に、大工を生業なりわいとしている村人は今も多い。何十年も昔に建築されたものが立派に残っていたということになるから、高い技術と知識が、そこではずっと受け継がれていたのだろう。


 そして、あのやしろ。小規模ながら確信をもって丁寧に造られたことがうかがわれる。浄化の儀式で必要だと、その術使いに指示されたんじゃないかな。どう使われたのかは分からないし、正直ここのところの根拠こんきょは乏しいんだが・・・村人たちが一体となって、解決のために全力を注いだ。それが共同体の本来あるべき姿だ。私はそうであったと願いたいし、そう考えれば、あの森のやしろと首輪との関係にも説明がつく。」


 長々と聞いている間、展開されていくその物語が目に見えるようだった。ギルは舌を巻いた。あの職員の話と、これまで見てきたものから、エミリオは、理路整然りろせいぜんとさらに推理をそこまで進めていたのである。


「なるほど・・・。だが、それでも繰り返される呪い・・・か。」

「原因は私にも・・・。しかし、その二度目の浄化の時には、どうやってそれを首から外したのか。それが分かれば、ひとまず一つは解決する。」 

「殺して頭を斬り落として・・・で、なければいいがな。」


 力強い見解をしてみせたエミリオは苦笑した。 

「とにかく、この町とあのやしろに関係がないことは、ほぼはっきりした。さて、どうやって調べようか。」

「今そこにいる村人たちは無関係だからなあ・・・。」 


「ちょっと、そこの綺麗なお兄さんたち。」


 階段の方から聞こえたそれは、きっと自分たちのことなのだろうとギルには分かったが、綺麗な・・・という余計な褒め言葉のせいで抵抗を感じつつ、首を向けた。


 すると、踊り場から欄干らんかんつかみ掴みに下りてくる、一人の老女。彼女はエントランスホールに下り立つと、スススッとり足で近寄ってきた。


「今、この町の首輪の伝説について聞いていたでしょう?」

 

 長いスカートと、灰色の髪をお団子型にまとめ上げた上品なよそおい。それが極端に曲がった腰で丸くなった姿が可愛いその小柄なお婆さんは、まだ二脚空いているソファーには座らず、なぜだかエミリオの隣に落ち着いた。














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