12. 首輪の出どころ
夜になり、それぞれの宿泊先で夕食をとったあとすぐ、一行は会議をするためリンの部屋に集まった。そこには、子供には関係ないというように除け者にしたり、置いて行くと決まって機嫌が悪くなるミーアもいる。リンの祖父もいた。リンとミーアと並んで二人掛けのソファーに座っていても、一人だけなぜだかひどく影が薄い。子供二人と痩せ細った老人一人で、二人掛けのところにぴったり収まってしまっているせいもあるだろう。
そして議題は、もちろん、首輪と森のやしろに関する出来事をどう調べるか。
「あそこでずっと考えていたんだが、その首輪は、ここで作られたようには見えないだろう?つまり、それがただ利用されただけのものだとしたら、作られた場所の地名とかが記されてるんじゃないか。そこへ行けば、何か有力な手がかりが見つかるかもしれないぜ。」
開始直後に、ギルが早速意見を述べた。
「なら、そのプレートの内側にある可能性が高いな。」とレッド。
首輪の留め具は、引き輪と板カンのセットという一般的なものだったが、それには、やや幅と長さのある金属板が付いているという特徴があった。
「だが・・・外すことができない。」
エミリオが、ため息混じりに問題 を提起。
ギルはソファーの方へ移動して、リンの背後から首輪に触ってみる。
リンも気を利かせて髪をまとめ、協力してくれるが、上や下から覗き込むなど当然無理だ。
ギルがやろうとしたのはそうではなく、「リン、ごめん。ちょっといいか。」と断ると、人差し指をうなじと首輪の間へさしこんだのである。
瞬間、ギルの表情が変わった。
手応えありだ。
ただ通るには通るが、下手に動かすとリンが苦しそう。一般的に、男性よりも細くて柔らかい女性の手の方が、それをするのに向いている。
「女性の指ならいけるか・・・。ここに、やはり何か刻まれているようだから、なぞれば分かるんじゃないか。」
ギルと、ベッドに腰かけているシャナイアの目が合った。
「じゃあ私がやるのよね。勘に自信が無いんだけど・・・。」
そう言いながらも、シャナイアはもう立ち上がっている。
そして、「ちょっと、ごめんなさいね。」と詫びてから、プレートの裏の隙間に指を入れた。
シュッと伸びた凹凸も皺も目立たない綺麗な人差し指は、何の問題もなく上下左右と自由に動くことができる。
「あら、ほんとに何か書かれてるわ。えっと・・・リ。」
一斉にソファーの周りに集まる男たち。
「これは・・・デ?」
上から探っていたシャナイアは、下からなぞった方が読みやすいと気付いて指を差し込み直し、確信したところで次の文字に移る。
「それから・・・バ・・・かしら。」
そう声に出したあと、シャナイアは首を傾げたまま無言・・・を続けた。
「以上か?」と、レッド。
「ちょっと待って・・・うーん・・・そうね。こっちのは違うと思うわ。」
プレートにはまだ何か小さめの文字が書いてあるような感じがするので、シャナイアはもう少し探ってからそう返事をした。感触だけではほとんど分からないそれは、要するに○○製を意味する表記などのことだろう。つまり、メイド・インに当たる部分。
「リデバ・・・。」
エミリオがまとめて口にした。
それら三つの文字を繋げると、呪詛に利用されたその首輪とゆかりのある場所は〝リデバ〟ということになる。
「よし、確認しよう。店名の可能性もあるが、その名前がこの地図に載っているなら調べてみる価値はある。」
こうなる予想と期待で予め用意していた地域図を、ギルは、木製の小さなテーブルに広げた。
頭を寄せ合い、真剣に地図に目を凝らす少年と大人たち。正確には、エミリオ、ギル、レッド、カイル、そしてシャナイアである。読めない文字が多いリューイは、わざわざ狭い所に挟まりに行くなど邪魔はしないで、おとなしく後ろで待機している。
最初にそれらしい地名を見つけたレッドは、歓声を上げる前に首をひねった。
「リディバか? ほら、ここを西に抜けたところにある町。」
それを聞くと、リューイも寄って来て地図を覗き込んだ。
レッドの指が置かれている場所を確認してみるも、やはり読めないので、「俺たちが今いるのはどこだよ。」
レッドは、深い森を表している方へと指を滑らせていき、その中にある岩山の上で止める。
「ここだ。」
「俺たちがこの森に入る前に寄って来た町に比べれば、そう遠くないな。馬を借りれば何日もかからないだろう。ここなら、距離から考えても有り得そうだが。」
ギルが言った。リューイとは違い、地図から移動にかかる所要時間まで割り出している。
それは、西の方角に広がる緑の丘陵地帯にあった。わりと大きな町だ。川の名前、風車の列、遺跡、礼拝堂・・・いくつかの目印と一緒に、よく似た名前のそれが確かに存在していた。
リデバではなく、リディバという町が。




