8. 事情聴取
彼らが食堂へと移動してみると、リンの祖父は起きていたが、テーブルの席について頭を抱え震えていた。
その背中に向かって、エミリオがどこか厳しい声をかける。
「詳しく聞かせてもらえますか。」
次第に明るくなる部屋の中。老人の目の前には燭台に立てられた小さな蝋燭があり、炎がまだ点いていた。老人はエミリオの声に振り向いて答えはしなかったが、震えをこらえ、その炎をため息で消した姿に、話に応じる姿勢を見て取ることができた。
「ひと月ほど前の、明け方のことでした・・・。」
老人は徐に口を開き始める。
先に動いたレッドとリューイが、テーブルのそばの壁際へ向かった。二人がそこに腕を組んで凭れたので、四人用の食卓の空いている椅子には、あとの三人が腰掛けた。
「目が覚めてリンがいないことに気付き、外へ探しに行きましたら、豚が体中から血を流して死んでいたのです。五匹も。その血の海に、あの子が倒れていました。手も口も血まみれの、信じられない姿で。つまりあの子は、五匹もの豚を嚙み殺してしまったのでしょう。それからは、念のため手足を縛って眠らせましたら、やはり夜中に唸り声を上げ、目を剥いてもがきだし・・・。」
「どのくらいの時間ですか。」
カイルは静かな声で質問を始める。
「日にもよりますが、十分くらいでしょうか。あとは、急にふっと気を失ったようになり、本人はそれを覚えていないと。」
「毎日ですか。」
「最近は、ほぼそうです。」
そうして老人は、その事件については澱みなく答え終えた。
「急に体調を崩すようにもなりまして・・・きっと、あの子は呪われているのだと。」
呪われてではなく、呪いの影響で体調が悪くなることはあったということ。ある意味そうなのだが、首輪が悪いことに気付いていない? と、彼らは目を見合った。
カイルは、「これだけ強い霊能力を持ってるんだから、呪いを感じて気分が悪くなるのも当然だよ。」と、エミリオに囁いた。
エミリオはあえて口を出さずに見守っている。
「あの、それでリンは。」
これまで俯き加減で話していた老人が、パッと顔を上げた。
「大丈夫。今は気持ち良く眠っています。」
「そうですか。」
老人の不安そうな顔に、ほっとしたような笑みが浮かんだ。
「あの・・・ところで気付いてますか。あの子の能力について。」
カイルは、エミリオも気になっている質問を投げかけながら、リンのことやその家庭環境などを聞き出していく。
「ああ・・・よくは分かりませんが、何か持っていても不思議はないでしょう。あの子の母親は神精術師でしたから。」
「やっぱり、そうですか。遺伝なんですね。」
「母親方のものですから、私はさっぱりです。」
「でしたってことは・・・あの、もしかして・・・亡くなられたんですか。」
「ええ。ここへ移り住む以前のことです。浄化の依頼を受けて出かけた先で。何があったのか詳しくは知りませんが、その時の儀式は、結局は命と引き換えに・・・だったそうです。彼女が生きていてくれていたら・・・。」
「お父さんは。」
ここで一言そう口を挟んだのは、ギルである。
「息子は、今は町へ出稼ぎに。たまに帰ってきます。」
一通り事情聴取を終えて、今後どう対応していくかという相談に移ろうとした時、老人がまた項垂れた。しかも再び身震いを起こし、だが恐怖ではなく、苦悩が露な表情をしている。
まだ何が・・・と、眉根を寄せて様子を窺っていると、やがて判明した。
震える小さな声で、老人はこう告白したのだ。
「本当は、今日、明日にでも手にかけるつもりでした。父親がいない今のうちに。そして私もあとを・・・。恐ろしいのもそうですが、あの子のあんな姿にはもう辛くて・・・。」
「馬鹿なことを。」
ギルの声には憤りも滲んでいる。
「村会議で決められたことなのです。人を襲うようになる前にと。」
「ちょっと待ってよ!短絡的すぎるよ!」
「ふざけんな!」
「どうして、もっと考えようとしないんだ。助けてあげることを。」
カイルのあとに、壁際からリューイやレッドも詰め寄る勢いでそう声を荒げた。
すると、とても落ち着いた声で、だが刺されるような真顔でエミリオが言った。
「身勝手すぎます。」
凍りついたようになる仲間たち。
一番驚いたのは、ギルだ。エミリオはギルの相棒といえる男。その素性と本来の姿も知っている。冷静沈着で感情を滅多に表に出さず、微笑むか、穏やかなポーカーフェイスのどちらかがほとんどという彼は、人を責めることを知らないような人柄。生まれて初めて、人を非難したのではないか・・・と、ギルは思った。
「誰も口にせず、不自然な様子もなかったのは、それを子供たちに気付かれないように・・・ですか。」
「・・・はい。」
「それも村会議で・・・?」
ギルは厳かに喋るエミリオのことも知っているが、これはゾッとするような声だ。さすがに温厚なエミリオも、愚かなこの村人たちには苛立ちを抑えきれなくなり、何か声にせずにはいられなかったのだろう。斜めにスッと伸びている秀麗な眉が、なんとなく吊り上がっているようにも見えた。
そして、その質問と、厳しい眼差しに対する老人の返事は・・・。
眉間にやや皺を寄せて目を閉じたエミリオは、気を静めようとするかのように、吸い込んだ息をゆっくりと吐き出したのだった。




