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3. トラウの村


 一行いっこうがリンのあとについて岩山に近づいて行くと、少し上がったところに洞窟どうくつが見えてきた。リンはそこへ向かっている。その洞窟の通路は、トンネルの役割を果たしている近道らしい。そこを抜けた先に、きっとこの子の村はあるのだろう。エミリオやギルがそう推測している間にも、一行は洞窟の中へと入って行った。そして、リンが腕に掛けているランタンの灯りのもと歩いていくと、確かに、すぐそこと言える距離で通り抜けることができた。


 そして、岩山に沿うようにしてある灰色の住居群が、いきなり眼下に現れる。村は、比較的 傾斜けいしゃのゆるい場所に存在している。家屋かおくはみな、意図いと的に白壁と灰色の屋根で統一しているらしく、外観も似ていた。

 

「ほんとにあった。村だ・・・。」

 カイルが言った。


 彼らが今立っている場所は、そこから最も手前、つまり村の中で一番高い位置にある家の屋根と同じほどの高さ。岩山に生えている高い木々が邪魔をしていて、その村を一望はできないが、間から広場があるのはよく見えていた。


 一行の視線が、自然とそこへ向けられる・・・と同時に、注目。


 そこには、数名の大人と子供が集まっていた。だが、大人たちは互いに顔を見合わせて世間話を楽しんでいるようでもなく、子供たちも、ただ突っ立って何かあった様子。その中で、一人だけ座り込んでいる子供がいた。累々《るいるい》と積み重なっている岩場の前だ。


 カイルには事態の予想がついた。


 一行はリンと共に、とにかくそこへ下りていった。


 近づいてみると、人々の輪の中で、一人地面に座り込んでいるその少年は、べそをかいてしょんぼりしている。


「どうしました。」

 気配に気付いて振り向いた大人たちに、カイルはそう声をかけた。


 彼らにしてみれば、これは一瞬言葉を失うことだった。声をかけてきた黒髪の少年のほかに、そこにはもっと年上に見える大人の女性と男性もいる。だがこの時は、その少年が、なぜか一行のリーダー的存在に見えた。


「え、ああ、この上から足を滑らせてしまったようで。」

 一人の大人が岩場を指差し、戸惑いながらもそう答えた。


 つまり、滑落かつらくしたということだろう。骨折の可能性が高い。痛めたのは足・・・いや、少年が動かすのを恐れて右手で庇っているのは、左(ひじ)だ。滑り落ちて、下手に手をついてしまったのか。


「僕は医者です。せてください。」


 カイルは少年のその腕をとり、肘のあたりに手を当てて静かに触診を始めた。動かせば痛烈な痛みをともなうので、慎重に。カイルは霊能力を持っている医師であるから、これだけでレントゲン写真を見ているように状態が分かる。そのれた手つきと、背中から感じられる少年とは思えない威厳いげんに、村人たちも理解した。信じがたいが、この若者は本物だと。おかげで、怪我をした少年も尋常じんじょうでない悲鳴を上げることなく、続いて手当てを受けた。


 診断の結果は、顆上かじょう骨折。少年の左腕はしっかりと固定され、三角布で吊られることになった。


「二週間後に、一度町の病院を受診してください。」

 カイルは最後に、痛み止めを渡してそう指示した。


「ありがとうございました。でもあの・・・医療費の方は・・・。」

 少年の母親らしい女性が、何か都合の悪そうな表情と小さな声で言った。


「ああ、りません。僕が勝手にしたことですし、そもそも、受診料等もいただかない主義なんです。」


 その通りで、この少年は医療活動において一度も金銭による収益を得たことがない。律儀な患者が代わりに御礼としてくれる野菜や果物なら受け取るが、必要な免許を全て取得した正真正銘の医師でありながら、これについてはただ働きである。だが生活に困ったことはない。そのからくりの一つが、薬草を熟知し、薬を自ら作れるということ。とはいえ、治療に必要なもの全てを製造できるわけではないから、そうすると費用分がマイナスになってしまう。


 そこでもう一つ最大の理由が、精霊占いだ。


 この時代、占い師は人気が高く安定した職業だった。精霊を正しく操ることのできる者なら、様々な要素や条件をもとに、何かをするにあたって、その日取りや場所、方角、用意するものなど、あらゆる助言をしてやることができるからである。しかも場所を取らないので気儘きままに《いきなり青空占い》を開くことができ、そのうえ利用してくれる客には金持ちが多い。よって医療器具等や足りなくなったものは、その利益で買いそろえているというわけだった。


 ちなみに、この旅でもカイルのその才能は大いに貢献こうけんしているが、仲間たちはそんなカイルにすっかり頼りっきりというわけでもなく、例えばエミリオがかなでる笛の音に合わせて踊り子シャナイアが舞いを披露し、リューイが軽くアクロバットをやってみせるというように、かせぎ時という場所があれば、彼らは突然、大道芸人になる。


「では、良ければせめて泊まって行ってください。」

「あの、お医者様。ついでと言ってはなんなんですが、診てもらいたい人が・・・。」


 ここは広大な森の中。周辺に町はなく、具合が悪くなっても気軽に病院へなど行けない村人たちは、ここぞとばかりに次々とそう言い出した。しかも、なにしろ無料なのだから。


 リンの首輪が気になる一行は、内心 好都合こうつごうとばかりに、素直に村人たちの好意を受けた。しかし、骨折の治療をしてあげた少年の家に全員が転がり込むには無理があるため、その親戚しんせき三軒に分かれて宿泊させてもらうことに。組み分けは、簡単な話し合いですぐに決まった。エミリオとギル、シャナイアとミーア、そしてあとの三人だ。


 この流れのままに、カイルは広場に面した集会所を、即席そくせき診療所として提供された。カイルは嫌な顔一つせず、むしろ人の良さ全開で言われるままだったが、少々 強引ごういんである。


 そんなカイルに、仲間たちは苦笑で肩をすくった。












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